40.バラバラ作戦
「はっはっは!! 負け惜しみだな!! 回復されて悔しいから後付けでそう言ってるだけだろ!」
「うるさいからちょっと黙っててくれるか?」
「うがっ!?」
俺はブラックレインの顔面を手で掴むと、そのまま手提げ袋を持った子どものように地面に引きずった。
「は、放せ! くそ、こいつ攻撃が効かないんだった!! 痛い痛い痛い! せめて引きずらないでくれ!!」
ブラックレインの叫びも無視して、俺は店内へずんずん進んでいく。
本当はやっちゃ駄目だけど……緊急事態だ。遠慮なくやらせてもらう。
「まずは……お、あった。カンカラ草」
俺は棚に入っていた青草を一握りすると、ラグルクの口にぶち込んだ。
「うごごごごご!!」
「おい! お前、ラグルクに何するんだ!!」
「黙れ! 早く飲み込め!」
次は……この辺にありそうだな。
ブラックレインがじたばたと暴れ、七本の腕で妨害をしてくる。まるで陸に上がった魚のようだ。
「あった! 星の涙!」
星のように輝く石だ、机の上に置かれていたそれをグッと握り込むと、今度はアーチャーの男の口に突っ込む。
「ゴホッゴホッ!! お前、石を食わせるって正気か!?」
「しょうがないだろ、お前らが勝手にハイポーションを飲んだのが悪いんだから……お、残りもそろった」
俺は手に取ったアイテムをそれぞれ残った二人の口の中に突っ込み、嚥下させた。
「よし、これで準備は出来た。お前ら4人とも、バラバラにしてやる」
「こ、こんな拷問みたいなことして、挙句バラバラに解体されるだと!? ふざけんな! そんな横暴あってたまるか!」
俺はブラックレインの腹部に手をかざす。
「ヒッ、殺される!! うわああああああああああああああ!!」
「<合成>」
すると、煙が店内に蔓延し、咳払いの音がこだました。
「うううう……俺は、死んだのか?」
「嫌だあああああ!! まだ死にたくないいいいい!!」
「ここは……天国?」
「あの野郎……絶対に呪ってやる!」
煙の中から男たちの声が聞こえてきた。どうやら、成功したようだな。
「――ってあれ!? 俺たち、元に戻ってる!?」
「そうだ。俺が戻したからな」
黒き雨粒が一体のモンスターになったのは、おそらくワイズマが飲んでいた薬によるものだろう。
だったら、薬の効果を無効化するアイテムを合成すればいいだけだ。俺にはそれが出来る。
「アスラ……お前が治してくれたのか!?」
「言っておくが、お前らがシャロンにやったことを許すつもりはない。ワイズマと同じくらい、地獄のような苦痛を味わってほしい類の輩だ」
「そこまで言わなくても……」
「だが、それとお前らがモンスターにされたことは別問題だ。最初からお前らを殺すつもりはなかった」
「ア、アスラ……お前って奴は!!」
ラグルクはボロボロと涙を流し、その場で嗚咽した。
「俺、これまで以上に反省するよ! 罪も償うし、もう卑怯なことはしない!」
「そうしてくれ。じゃあ、俺はワイズマのところに行くから――」
その時、視界の端に黒い紙きれのようなものが見えた。
振り返ってみると、4人の体がまるで紙吹雪のように――崩れ出している。
「あ、れ――? なんで、俺の体が――?」
ラグルクの後ろに立っていた3人が、気を失ったように倒れた。そうしている間にも、奴らの体は崩壊していた。
そうか――副作用! 錠剤の効果は消せても、薬を使って引き出した力の反動は消えない!
「あああああああああああああ!! 熱い熱い!!」
ラグルクは体を抑え、店の床で芋虫のように這いまわった。
ラグルクの目は真っ赤に充血しており、涙が滴るようにして目から血が流れている。何度も咳をすると、今度は口から血を吐き出した。
「おい落ちつけ! 今ハイポーションを合成するから待ってろ!」
「いや、もう無理だ……多分、体力を使いすぎたんだろ。くそっ、これからだったのに……」
ラグルクの目が虚ろになっていく。全身に力が入っていない、無を見つめるラグルクの手を俺は握った。
「なあ、アスラ……俺は地獄に行くのかな? 今までいいことしてこなかったもんなぁ……」
「地獄になんか行かせるか! お前が死ぬ前に俺が苦痛を与えるって言っただろ! それまで死ぬな!」
「アスラ……俺たちじゃ、ワイズマに逆らうことは出来なかった……だから……俺たちの分まで、あいつらに一矢、報いて、くれ……」
ラグルクはその言葉を最後に、真っ黒な塵になって消えてしまった。
あの錠剤――人間をモンスターにして、副作用で人間が塵になるほどのエネルギーを持っていく?
ふざけるな。こんなこと、人間がしていいわけがない。例え相手がどんな悪人で、生きている価値がないような奴だとしても、だ。
「――ワイズマァァァァァァァァァ!!」
俺はラグルクがいた場所の空気を握りしめ、咆哮した。
虚しさ、怒り、無力感――様々なやり場のない感情が入り混じった叫びは、誰もいない店の中で誰にも知られないまま霧散した。




