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39.ブラックレインとの再会

 血の跡を辿って走ること1分。痕跡はポツリポツリと道を作っていて、路地裏に続いている。


「いた! ワイズマだ!」


 路地裏から出てきたワイズマはこちらに一瞥をくれると、ニヤリと薄笑いを浮かべた。


「アスラさん、僕はこの街を滅ぼすことに決めましたよ。長く住んだ場所なので思い入れがあって残念ですが……人も土地も、いつかは死ぬものです」


「嘘を吐くな。この場所に思い入れなんかないだろ」


「あ、バレちゃいましたかぁ。でもこの街を滅ぼすっていうのは本当ですよ」


「考えが甘いな。ちょっと身体能力が伸びたくらいで俺から逃げられるわけないだろ」


「考えが甘いのは、アスラさんも同じですよ」


 その時、路地裏から二人の人間が出てきた。

 いや――あれは人間じゃない!? モンスターか? だけど、あんな見た目のモンスター見たことない!


「ご紹介しましょう、こっちがブラックレインです」


「アスラァァァァァァァァ!! 会えて嬉しいぜェェェェェェ!! お前をぶち殺せるんだからなァ!」


 モンスターは人語を喋り、7本もある腕で俺を指してくる。

 あの顔は――ラグルク!? それに他の黒き雨(ブラックレイン)の連中の顔もついている!


「あっはっはっは!! じゃあ、私はシャロンを殺しにいくことにしたわ!!」


 もう一人はミサだ。背中から生えている腕をカサカサと動かし、不気味に高笑いする。


 人間を、モンスターにしたのか……!


「お前……どこまで腐ってるんだ! 良心が痛まないのか!?」


「良心なんてあるわけないじゃないですか、これから街を滅ぼそうとしている人間に。ではアスラさん、運が良ければまたお会いしましょう。もっとも、その時は全て終わっているかもしれませんがね」


 ワイズマとミサの二人が走り出す。何を企んでいるのかはわからないが、追いかけないと厄介なのは間違いない――!


「おっとぉ! まずは俺たちと戦ってもらわらないと困るぞ!」


 走り出そうとしたとき、ブラックレインが手を伸ばして俺の前に立ちはだかった。


「強引に突破しようったって無駄だぜ! 俺たちは一つとなり、四人の力が合わさっている! 5層を攻略できる戦闘力が4倍だから、20層に相当するぜ!!」


 ……なるほど、確かにこいつはワイズマよりも先に相手をしなければいけなそうだ。


「そしてェ! 俺たちはこの姿になって新しい技も手に入れた! 見せてやる、<透過剛腕(とうかごうわん)>!!」


 ブラックレインは二本の手のひらを組み合わせると、その場から姿を消した。

 そうか……あのアーチャーの<透明化>がノーリスクで使えるのか!


「さあ、どこから攻撃が来るかな? 右かな? 左かな? 正面かもしれないし、後ろから襲ってくるかもしれないなあ……こんな感じで!」


 刹那、俺は背中を殴打されて弾かれる。

 背後から姿を現したのは、満足そうな表情のブラックレインだ。


「どうだ!? 今のは見切れなかっただろ!? お前はこれから、この技で為す術なくボコボコにされるんだ!」


「お前ら……4人いるのに1人分も知能がないんじゃないのか?」


「「「「なんだと!?!?」」」」


 声を揃えて驚くな。うるさいな。


「俺が前に言ったこと、覚えてないのか?」


 俺には<自動防御(オートガード)>のスキルがあるから、格下からの攻撃はダメージにならない。

 前にそう説明したからそれに対抗できるような作戦があるのかと思ったら……普通に殴るだけか?


「お前らがどれだけ俺のことを殴ろうが蹴ろうが、俺の体が動くだけでダメージにはならないぞ」


「そ、そんな……そんなわけあるかあ!! 俺たちは20層相当の実力を持ってるんだぞ!! 俺たちが格下なわけあるか!!」


「いや……お前ら4人で5層のモンスターと戦ってただろ。だから4人合わさっても20層にはならない。というか、5層を攻略できる4人が集まっても20層には行けないぞ」


「あ……確かに……」


 ゴブリンを討伐していた頃の俺が100人いようが1000人いようが10層を攻略できないのと同じように、層の数と人数は計算できない。


「くそっ、なんなんだよお前! 毎回毎回、偉そうに講釈垂れやがってよお!!」


「悪いが、お前に時間を使ってやる余裕はない! <烈火怒涛>!」


 全身に炎を纏い、俺はブラックレインの懐に入り込む。


「うぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ブラックレインはあっさりと蹴りを食らい、建物を巻き込んで吹っ飛んで行った。

 やはり20層相当は盛りすぎだ。あの薬を飲んだから、10層くらいの実力にはなっているが……。


「くそっ……! 炎があるから近づけない!」


 建物の瓦礫に潰されながら、ブラックレインはこちらを睥睨する。


「そうか、そっちが来ないならこっちが行こう!」


 俺は炎を纏った体で、ブラックレインの胴体に連続でパンチを叩きこむ。


「痛だだだだだだだだっ!! な、何発殴るつもりだ!?!?」


 殴打は一撃が重い上に、連打が容易だ。一撃を食らうたびに吹っ飛ばされるブラックレインに、俺はさらに畳みかける。


「うぼぇっ!!」


 横面を殴られたブラックレインは、水切り石のように地面でバウンドし、建物の壁を突き破る。

 これでおそらく数十発は殴っただろう。こいつらはシャロンの件もあったし、殴り足りないと思っていたんだ。


「ふふ……ふふふふ!! はっはっは!!」


 その時、建物の中から笑い声が聞こえたかと思うと、中から満面の笑みを浮かべたブラックレインが出てきた。

 ここは――道具屋か!!


「こんなところにハイポーションが置いてあったぜ!! これで、まだまだ戦えるってわけだ!!」


 そう言っているブラックレインの手には、空き瓶が握られている。もう既にハイポーションを飲んだのだろう。

 ここまで削った体力はリセットだ。ブラックレインもこれ見よがしに空き瓶を見せつけ、したり顔をしている。


「――そうか、ありがとうな」


「何言ってるんだ!? こっちは回復してるんだぞ!?」


「いいや、わざわざこの状況でハイポーションを飲んでくれてありがとうって言ってるんだよ」


 これで一つ、準備が進んだ――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「あ……確かに……」 急に素直ですね…… 思わず笑ってしまいました
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