36.遅れた登場・形勢逆転
「ア、ス、ラ……」
「喋らなくていい。解毒薬の予備がある。ティナ、二人を頼む」
素材集めの時に、余分に材料を集めておいてよかった。予備として持っていたのが功を奏したな。
安心しろ。すぐに終わらせて治してやる……!!
「あなたですか……!! 解毒薬を作ったのは!!」
病室の壁を突き抜けて吹っ飛ばされたワイズマは、こちらを睥睨して咳ばらいをした。
「ああ、そうだ。で、どうする? リーリアの一番大事なものは俺らしいが、俺の命でも奪ってみるか?」
「そんなことは言っていません……リーリアさんの一番大事なものは姉のロゼリアだ!」
「じゃあ、俺の命も一緒に奪わないといけないのには変わりないみたいだな」
ワイズマは地面に落ちた眼鏡を拾い、フレームが曲がっているのを見て手で粉々に砕いた。
「なぜ僕が怪しいとわかったんですか?」
「この街の人は騙せても、俺は騙せないんだよ。俺にだけ見える、隠れたものがあるからな」
「何を言ってるんです! そんな馬鹿な話があるわけがない!!」
ワイズマは白衣の下からメスを取り出すと、俺の腹めがけて狙いを定め、走ってきた。
「あなたのせいで、僕の計画はめちゃくちゃです! 全員、ここで眠ってもらいます!」
「<疾風怒涛>」
俺はワイズマの動きを見切ると、加速して腹部に蹴りを叩きこんだ。
「うごぅっ!?」
ワイズマは再び病室の壁を突き抜け、建物の外まで飛び出してしまった。
「悪いな。俺は受付嬢に冷たい対応をされても我慢できるが、今だけは怒りを抑えられる自信がない」
「な、何を言って……」
「お前に対して、一ミリの同情も湧いてこないってことだよ」
「ヒッ、ヒィィィィィ!!」
ワイズマは地面に座り込んだまま、俺に背を向けて逃げ出そうとする。
「<疾風怒涛>」
もちろん、逃がすわけがない。背中へ蹴りを叩きこむと、ワイズマは数メートル地面を転がって仰向けに倒れた。
「く、くらえ! 夢遊病者の悪夢!」
ワイズマは懐から小瓶を取り出すと、俺の方へ投げつける。
しかし、空中で斬撃を浴びた小瓶は真っ二つに割れ、地面にこぼれてしまった。
「ああああああ!! 夢遊病者の悪夢が!!」
「お前……それを誰かに渡したのか?」
「そんなこと言うわけ……」
「お前は立場が分かってないみたいだな。お前が拒否できる状況じゃないんだよ。早く話せ」
「わ、渡しました!! ラグルクさん……黒き雨粒に!」
確定だな。シャロンを傷つけたあの毒は、こいつが製造元だったらしい。
「気が変わった。お前は地獄に叩きこんでやるつもりだったが、死ぬほど苦しませてから地獄に落とすことにした」
「ヒッ、ヒッヒッヒッヒッヒッ!!」
剣の切っ先を向けたとき、ワイズマはひきつったように笑い始めた。
「どうした、頭がおかしくなったのか?」
「僕の勝ちです! 自分の足でも見てみたらどうですか、この間抜け!」
ワイズマに言われた通り、自分の足を見てみると――ズボンが溶けている。
その内側の足が、真っ黒に変色していた。そのことに気づくと、ズキズキとした痛みが襲ってくる。
「さっきあなたの攻撃を食らったとき、右手で触れて遅効性の毒を塗っておきました! さあ、早く解毒薬を飲まないと腐り落ちますよ!?」
言われた通りに動いたようでイライラするが、足には代えられない。俺は予備の解毒薬を一気飲みし、その場に小瓶を投げ捨てた。
なるほど、確かに厄介な奴だ。触れられたら毒を浴びてしまい、解毒薬を飲まなければ致命的になる。
「さっきの威勢はどうしたんです!? 死ぬほど苦しませてから地獄に落とすことにしたんじゃないんですかぁ!?」
ワイズマは豹変してゲラゲラと笑い、こちらを指さしている。
「あなたを毒漬けにしたら、あの女3人も苦しめて殺す! 最後に死ぬのはリーリアさんです! あの子が全てを失ったときにどんな顔をするのか、楽しみで楽しみで!」
このゲス野郎め。こんな奴が医者の仮面を被っていたことが恐ろしくなる。
「診断ミスだな、ヤブ医者」
「はぁ?」
「お前を地獄に突き落とすことは変わっていない。リーリアも殺させない」
「だったらとっとと来たらいいじゃないですか! どうせ怖いから遠巻きに言ってるだけでしょう!」
「……ようやく準備が出来たところだよ」
その時、ワイズマが大きく目をひん剥く。俺の姿を見て、驚いているんだ。
「あなた……何を!!」
俺の体の周りには、まるでアウターを羽織ったようにして、真っ赤な炎が揺らめいている。
俺だって、この一週間ただぼうっと素材集めをしてきたわけじゃないんだ。
「新技――行くぞ」
魔法を使えるようになった俺の<疾風怒涛>は、さらに進化する――!
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