34.繋がった糸
「ついにこの時がやってきましたね……」
「ああ……ようやくだ……」
膝を付き、地面に置いたものを眺める俺とティナ。恒例の<合成>の時間だ。
だが、今日は二人だけではなく、リーリアもいた。
「まず、ハイポーションを作って……このハイポーションに、マナスライムの体と白銀草、仙人花を合わせて……合成!」
魔法陣の出現とともに、今度は色違いの液体が入ったポーションが出てくる。
「出来た! エクスポーションだ!」
液体の色が本当に赤い。これがハイポーションの上位にある、エクスポーションか!
「これを売ったら、向こう10年は遊んで暮らせるぞ?」
「アスラさん! 売っちゃダメです! これは大事なポーションなんですから!」
「悪い悪い、冗談だ」
リスの頬袋のように口を膨らせたティナから、エクスポーションを受け取る。
さて、ここからが本番だ。
「エクスポーションに毒消草、月見草に聖水……完璧だ」
いつも通り、アイテムを円形に配置し、俺は手をかざす。
「頼む、上手くいってくれよ……合成!」
そうして煙の中から姿を見せたのは――水色の液体で満ちたビンだ。
「出来た! 解毒液!」
これが、この一週間頑張って素材集めをして作ったロゼリアの治療薬!
「これを飲ませれば、ロゼリアさんも目を覚ますはずだ」
俺は完成したビンをリーリアに手渡す。
リーリアはそれをじっと見つめた後、首を横に振った。
「……ごめん、やっぱり受け取れない」
「は? 何言ってるんだ?」
「私、まだアスラに何も出来てないし。何も渡さなくていいっていうのが気持ち悪くて……私、アスラの言うことならなんでも聞くよ?」
「なんでも、か。それはちょっと迷うな」
「アスラさぁん?」
「……冗談だ。こういうのは持ちつ持たれつだ。俺たちが困ったときは助けてくれればいいさ。もう友達だろ?」
「友達……そういうのよくわかんない」
俯くリーリアに、俺はビンを押し付ける。
「少しずつわかればいいさ。さあ、ロゼリアさんのところに行ってこい」
「……わかった。ありがとう!」
リーリアは大事そうにビンを抱えると、街のある方へ走り出す。
「……ねえ、アスラ!」
「ん? どうした?」
「私、全部終わらせてくるから。そしたら――」
そこまで言って、リーリアはなぜか言いよどむ。
「やっぱり何でもない! 後でね!」
リーリアは肝心なところを言わず、走り去っていってしまった。
「なんだ、あいつ……?」
「でも、よかったじゃないですか。リーリアさんはお姉さんに会えるわけですし!」
……まあ、確かに後で聞けばいいだけの話ではあるな。
「それにしてもすごいですね、アスラさん! エクスポーションだけじゃなくて、病気まで治せる薬を作っちゃうなんて!」
「ああ、そのぶん解毒液を作るのは大変だったけどな……ここ一週間はいろいろな場所に行ったから、少し休みたいな」
「でも、なんで解毒液なんて名前なんでしょう? まるで病気じゃなくて毒を治してるみたいですよね」
言われてみれば……素材集めで必死だったから、名前のことなんて気にも留めなかったな。
解毒につかえる薬がたまたまロゼリアさんの病気に流用できるとか、そういうことなんだろう。
「それより、これでようやく運命の糸への道が開けた。シャロンからの依頼も解決できそうだな」
俺はウィンドウを開き、『糸を開け』を探す。
「あれ……なんだこれ?」
その時、見覚えのない一つのクエストが目に留まった。これは……ここ一週間で新しく出てきたものか?
――
『リーリアの本心』 ★★★
【概要】
リーリアが一番言いたかったことを聞けば達成。
【報酬】
・経験値10
・スキル<無色一閃>
【条件】
このクエストは、『共同攻略』をクリアした場合に表示されます。
――
リーリアが言いたかったことって、もしかして別れ際に言いかけていたことか?
しまった、あの時に聞いておけばよかった。もう少し早くにウィンドウを開いておけば、スキルが手に入ったのに。
まあ、それは後で聞けばいいとして……問題なのは運命の糸だ。
「……!!」
「どうしたんですか、アスラさん!?」
いや、まさかそんなわけ……何かの間違いじゃないのか?
でも、もしこれがそういうことだとしたら……全ての辻褄が合う。
嫌な感覚だ。パズルのピースが少しずつ組み合って、景色が見えてくるような――そして、その景色が想像を絶するようなもののような。
「ティナ、急ぐぞ」
「え? また緊急でクエストですか?」
「違う――全部繋がってたんだ」
――
『糸を断ち切れ』 ★★★
【概要】
ローミス診療所にいる運命の糸の一員、ワイズマ・ローミスの魔の手からリーリアを救えば達成。
【報酬】
・経験値50
・スキル<ランクアップ>
【条件】
このクエストは、『共同攻略』をクリアした場合に表示されます。
――
ワイズマ・ローミス。間違いない、あいつが運命の糸のメンバーだったんだ!




