33.奇跡の異能
「アスラ! 話は聞いたぞ! また無茶をしたようだな!」
その時、救護室の扉をこじ開けて入ってきたのはシャロンだ。
「えっ……ギルマス!?」
「君は……リーリア・ミスレインか。さてはアスラ、また女性をたらしこんだのか?」
「シャロンはリーリアのこと知ってるだろ! からかうな!」
「ふふふ、すまない冗談だ。怪我をしていると聞いたから、栄養のある食べ物を買ってきたぞ。リンゴだ。今皮をむいてやるから、少し待てよ……」
「ゴホンゴホン! 私たち、今から病院に行かないといけないので! それじゃあ!」
「ちょ、リーリア!」
リーリアはわざとらしく咳ばらいをし、俺の手を引いて救護室の外まで引っ張って行ってしまう。
リンゴ……食べたかったのにな。
「着いたよ」
リーリアに袖を引かれてやってきたのは、街の病院だった。
小さいが、街の人からは人気があるところだ。俺も何度かお世話になったことがある。
建物の中へ入ろうとしたとき、すれ違いざまに人とぶつかってしまった。
「おっと失礼、約束の時間に気を取られて前方不注意でした」
「こちらこそすみません」
あの人は確か……この病院の院長だったか。
それからリーリアに案内されたのは、病院の中の一室。扉を開けると、そこには一人の少女が横たわっていた。
長髪なリーリアよりも髪は長く、腰ほどまで伸びている。髪色はリーリアよりも色素が薄いが、眠っていてもわかるほどリーリアとそっくりだ。
「この人が、私のお姉ちゃん。名前はロゼリア」
なるほど、まるで凍ってしまったかのような綺麗な寝顔だ。話を聞く限り、2年間はこうして眠り続けているのだろう。
「ちょっと触るぞ」
俺はロゼリアさんの白い細腕に触れ、手のひらを握ってみる。
「エクスポーションに毒消草、月見草に聖水……らしい」
「何の話?」
「ロゼリアさんの病気を治すために必要な素材だ。エクスポーションはハイポーションの上位互換だから普通に買うと高価になるけど……<合成>があれば作れるはずだ。大丈夫、治せる」
そこまで言ったとき、リーリアは俺にしがみつくようにして、後ろから抱きしめてきた。
「ありがとう……私、まだ何も出来てないのに……」
背中に熱い液体がこぼれる。リーリアの涙だ。
「……言っておくが、タダじゃないからな」
「……お金でもなんでも用意する」
「違う。素材集めは一緒にやるんだ。明日から、みっちりやるからな」
「……うん」
俺とリーリアはしばらくそのままでいた。リーリアが泣き止むまでかなりの時間がかかったが……2年分の思いが溢れたんだから仕方ない。
リーリアは病室に残るそうなので、俺は先にその場を後にすることにした。シャロンも置き去りにしてしまったし。
「ん……?」
入口に差し掛かった時、足元に何かが落ちているのに気づいた。
白い板のようなものだ。大きさは手のひらに乗るくらいで、これは……。
「ネームプレート?」
裏返して見てみると、そこには『ワイズマ・ローミス』と書かれていた。
「すみません、それは僕のものです」
まじまじと見つめていると、前方からやってきたのはさっきの医者だった。
「ぶつかってしまったときに落としたみたいです。どうもありがとう」
医者は胸にプレートを付け直すと、病院の中へ入っていく。
「あ! 見つけましたよアスラさん!」
その時、前方から姿を見せたのは手にカゴをぶらさげたティナだった。
「ティナ! 怪我は大丈夫なのか?」
「それはこっちの台詞ですよ! 私はアスラさんがくれたハイポーションで元気ですけど、アスラさんは疲弊して大変だったんですから! シャロンさんが病院に行くって言ってたから、深刻なのかと思っちゃいました!」
「ああ、そういうことか……それなら大丈夫だ。1日安静にすれば大丈夫だろう」
「それはよかった! 快気祝いに、これを召し上がってください!」
そう言ってティナがカゴを開けると、中から顔を出したのは色とりどりのサンドイッチだった。
「おおっ! ティナの作ったサンドイッチは美味しいんだよな!」
「ギルドに戻ったらシャロンさんのリンゴと一緒に食べましょう。それから……これはおじいちゃんから教わったんですが!」
ティナは俺の横に立つと、耳打ちをしてきた。
「隠し味は、アスラさんへの愛の気持ちですっ」
……あのじいさん、無垢なティナに何を教えているんだ。
まあ嬉しいからいいんだけど。
「どうですかっ? ドキドキしましたか!?」
「……大人をからかわないでくれ」
「大人って言っても、そんなに歳は離れてないじゃないですか! あ、ちょっと! おいていかないでください!」
危なかった。子どもだと思って隙を見せたら痛い目をみるぞ、これは……。




