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28.不機嫌な少女

「大丈夫か! 今なんとかする!」


「は? 別に頼んでないけど!」


 ……あれ? なんか思ってた反応と違うぞ?

 少女はさっきの男たちを見る目でこっちを見てくる。俺、何か間違えたか!?


「なんか、助けた方がいいと思ったんだけど……」


「だから頼んでないって。あんな奴、私一人でやれる!」


 すると、少女はモンスターの方を見やる。それと同時に、彼女の体に炎が現れた。


「魔法……炎の魔法です! 初めて見ました!」


「いちいち騒がないで。すぐに終わらせる!」


 刹那、灼熱の炎がまるで波のようになってモンスターを襲う。

 すごい威力だ。こんな綺麗で激しい魔法は見たことがない。


「これで終わり。あんたたちが出る幕はないから」


 少女はそれだけ言い残すと、炎が消える前に足早にそこから去ろうとする。

 その時、炎が弾けて中からモンスターが飛び出してくる。


「ギュイイイイイイイイイイン!」


「……まだ終わってないみたいだぞ」


「魔法が効いてない! なんで!」


 少女は再び炎をモンスターに向けて放つが、モンスターは火を恐れる様子もなく突っ込んでくる。

 モンスターが大口を開けて少女を飲み込もうとしたとき、俺は彼女の前に立ってモンスターに向かって剣を振るった。


「ギュイッ!?」


 モンスターは俺の斬撃をまともに食らうと、真っ二つに裂かれてしまった。


「これでもまだ頼んでないって言うのか?」


「……頼んでないものは頼んでないし。あんたが何もしなくても倒してた」


「それはいくらなんでも無理があるだろ」


「ギュイイイイイイイイイイン!」


 少女と顔を見合わせていると、さっき二つに分かれていたモンスターがまた一つになって起き上がっていた。


「……なんだこいつ? 攻撃が効いてないのか?」


「あんたの攻撃が弱かったんじゃない? だったらもう一回……!」


 少女は憎まれ口を叩くと、さっきと同じように炎魔法を放つ。


「私も援護します!」


 傍から見ていたティナも、弓を手に持ってモンスターに向かって矢を放つ。

 炎と矢が同時にモンスターを襲う。すると、さっきとは違い、モンスターが矢を受けて下がった。


「あれ? 今度は攻撃が当たりましたよ!」


「……そうか、あいつは魔法か物理、どっちかを無効に出来るんだ!」


 奴が泥と固体の二つの姿を持っていることがヒントだったんだ。泥の時は流動で物理攻撃を無効化するし、個体の時は魔法を弾き返す屈強な体となる。

 だったら、攻略法は一つだ。


「おい! 俺の剣に炎を付与してくれ!」


「は? なんであんたにそんなこと命令されなきゃいけないの? 第一、あんたそんなに強くないでしょ?」


「それでいいよ。だが、対案がないのも事実だろ?」


 俺に諭され、少女は不機嫌そうに剣に炎を纏わせてくれた。


「……言っておくけど、別にあんたの意見を聞いたわけじゃないから。あいつが泥になった時は私の炎で焼き尽くすって話!」


「わかったわかった!」


 俺は剣を握りしめ、大口を開けながら再び迫ってくるモンスターに飛び掛かる。


「ちょっと! そんなふうに飛び掛かったら、二撃目を入れられない!」


「――心配ない。一撃で終わる」


 全身に電流が走る感覚。発動にもかなり慣れてきた。


「<疾風怒涛翔>」


 目にも止まらない速度の斬撃。固形になっていたモンスターは顔の中心にある大きな一つ目をぎょっと丸くし、素早く泥に変化しようとする。

 しかし、時は既に遅い。変化を上回るスピードでの斬撃で、モンスターは一刀両断された。


「――嘘。本当に一撃でやった……?」


 俺は着地して、荒く呼吸をした。

 ジャンプの瞬間から5秒間。思ったよりも長い時間<疾風怒涛翔>を使ってしまった。


 ここに着くまでに<疾風怒涛>を多用してきたから、既に限界の30秒のうちの10秒ぶんの体力は使っているだろう。おそらく体力を使い切れば、その場で気を失ってしまう。


「アスラさん、大丈夫ですか!?」


「ああ、さすがに疲れたけど……問題ないさ」


 息を整えた俺は少女の方を見る。彼女は驚いた様子だったものの、俺が自分を見ていることに気づいてツンとした表情に戻った。


「……君、名前は?」


「なんで言わなくちゃいけないの」


「天邪鬼だなあ。名前くらい教えてくれたっていいだろ。俺はアスラ。こっちはティナだ」


「……リーリア」


 少女はリーリアというらしい。ティナと違って髪は長く、年は俺とかなり近そうだ。

 イチゴのような可愛らしい色合いに対し、目付きは悪く、まるで機嫌が悪い時の猫のようにこちらを睨んでいる。


「私、別に感謝してるつもりないから。もう二度と会うこともないと思うし。じゃあね」


 リーリアは手短に挨拶を済ませると、地上に向かって歩いて行ってしまった。

 ティナと二人になったところで、俺たちは顔を見合わせる。


「……なんか、曲者だったな」


 もう二度と会うことはないとか言ってたけど――クエスト的に、これからもまた会うんだけどな。


「上手くやっていける気がしないなあ……本当にあの子が運命の糸(スレッド)とかかわりがあるのか?」


「でも、なんだかんだ言ってちゃんと助けてあげるアスラさんはカッコいいですよ。スキルも手に入ったわけだし良しとしましょうよ!」


 まあ、そう考えればいいのかもしれないな。

 とにかく今日は疲れた。帰って少し休もう。それから、新しく手に入れたスキル――<合成>だったか? あれも試してみよう。

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[一言] 「でも、なんだかんだ言ってちゃんと助けてあげるアスラさんはカッコいいですよ。スキルも手に入ったわけだし良しとしましょうよ!」 魔物に食べられてしまったCランクの三人の男たちのことは、心の片…
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