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12.私のヒーロー

 しばらく歩いて街の方へ差し掛かった時、ティナが俺の腕を引いた。


「……アスラさん、待ってください。私、このままお別れなんて嫌です」


 そう言ったティナの顔は今にも泣きそうだ。俺はかなり怖い顔をしていたんだろう。


「ごめん、ティナ。俺が不甲斐ないばっかりに、ティナまで悪く言われて。これじゃ先輩失格だな……」


「それはアスラさんのせいじゃないです! 悪いのはあの人たちだって、私にはわかります!」


「でも、話を誰にも信じてもらえなかったのは俺が弱いせいだ!」


「違います!」


 ティナが大声を上げた。彼女の目からはボロボロと大粒の涙が流れていた。


「3日前におじいちゃんが家に帰った時、アスラさんの話を聞いたんです。勇敢にゴブリンから守ってくれた冒険者がいたって。私、本気でそういう冒険者になりたいと思ったんです」


 ――違う。


「昨日、アスラさんに会った時、本気で運命だと思ったんです。この人にならお願いできるかもしれないって、心から思えたんです」


「違う! 俺がティナを助けたのは、クエストの報酬のためなんだよ!」


「――え?」


「俺のスキルは、これから起こる事件をクエストにして表示するんだ。ティナのおじいさんを助けたのも、冒険についていったのも、そのクエストを達成した報酬を得るためなんだよ!」


 軽蔑してくれ。そしてごめん。君が憧れた俺という冒険者は、正義の味方でもなんでもない。

 自分の利益のためにクエストを受け続けるだけの、ただの弱い人間なんだ。


 ティナから背を向け、その場を去ろうとした瞬間。


「……ッ!」


 背中に柔らかい感触が伝った。ティナが抱き着いてきたのだ。


「アスラさんは、そんな人じゃありません!」


「……離してくれ」


「アスラさんは、報酬のために動いてるんですよね? だったら、なんであの時私を助けてくれたんですか!?」


 あの時――ブラッディボアから逃げる途中で、ティナが転んだときか。


「報酬目当てなら、私なんて見殺しにして逃げれば他のクエストで回収できるじゃないですか! でも、アスラさんはそうしないで私を助けてくれた。それは、アスラさんが優しい人だからじゃないんですか!?」


 ティナの涙が俺の服を濡らす。背中を通じて感じるティナの温度に、俺は何もできなくなる。


「本当はわかってるはずです。アスラさんは酷い人じゃない。だから、そんなふうに自分を傷つけないでください」


「俺は――弱い。そのせいでティナを、そのほかの人を、たくさんの人を傷つける」


「だったら、手を繋ぎましょう」


 ティナが俺の手を握った。冷たくて柔らかい。自分よりも小さな手が、俺の大きな手を包んでいく。


「アスラさんは私のヒーローです。傷ついたら、手を繋ぎましょう。そうして一緒に前に進んでいきましょう」


「……ティナ。俺とこれからも一緒に冒険をしてほしい」


「はい。よろこんで」


 俺は脱力感からその場に座り込んだ。

 心の中に3年間――いや、それよりずっと前から俺を苦しめていた重りが外れたような――そんな感覚だ。


「……いいのか」


「はい。むしろこちらからお願いしようと思ってたので」


「……そうか」


「アスラさん」


「……なんだ?」


「泣きたいときは泣かないと、笑いたいときに笑えなくなっちゃいますよ」


 そうか。笑いたいときに笑えないのは――嫌だな。


 俺はそれから、大声を上げて泣いた。多分、こんなに泣いたのは初めてだろう。

 ティナは、ただ黙って涙を流す俺の頭を撫でてくれた。それから10分は経ったと思う。



「……ありがとう、ティナ。落ち着いたよ」


 もう、これまでの一生分は泣いたはずだ。いつまで経っても泣いているわけにはいかない。

 俺はウィンドウを呼び起こし、一覧の文字に目を通し始めた。


「うわっ!? なんですかその板みたいなの!?」


「えっ、ティナにも見えるのか!?」


 まさか、ティナもウィンドウが見える体質――とは考えがたい。見えるようになったとしたら、原因はおそらく――、


「俺たちは仲間になった。パーティを組んでいる相手には、ウィンドウが見えるってことだと思う」


 ティナは初めて見るウィンドウを前に、得体の知れない食べ物を与えられたウサギのように見つめる。

 最初は警戒している様子だったが、俺がウィンドウを操作しているのを見て、ノリノリで一緒に見始めた。


「へえー、これがアスラさんのスキルですか! 確かにたくさんクエストがありますね!」


「そうだな。ティナのおじいさんを助けたときも、この一覧から見つけたんだ」


「じゃあ、ますます私たち運命みたいですね!」


 運命、か。ティナはそういうのが好きな年ごろなのかな?


「でも、なんでいきなりクエストを見始めたんですか? いくらなんでも今からは体力的に厳しくないですか?」


「ああ、今から受けるわけじゃない。時間制限を確認したいんだ。あるクエストの」


 俺の予想が正しければ、俺が次に受けるべきクエストはもう表示されている。


 あのハイエナの金髪――ブラッディボアの素材は譲ってやったが、このまま引き下がるつもりはない。


「――あった」


 俺たちを殺そうとしたこと、それ以上にティナを侮辱したこと。それを何度でも謝らせて、死ぬほど後悔させてやる。


 クエストは、進行するごとに条件が追加されていく。今回のクエストは、おじいさんのクエストのクリアが条件だったように。

 だから、次に受けるべきクエストは、今回のティナのクエストのクリアが条件になっていると仮定したのだ。


 そして、そのクエストが一つだけ見つかった。


――


・『ギルドマスターの苦悩』 難易度2 残り3日 【『孫娘をよろしく』ほか より】


――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間も、クエストの力を手に入れるっていう事は良いですね これから、仲間も強化できるのは、良いですね [一言] 最弱だからこそ、信じられないか…… 相手側の意見も分かるけど、主人公の頑張りも…
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