01-06
≪果てへと至る修錬道≫で指導してくれる師匠方は言葉を発することが無い。
手本を見せてくれたり、≪魔術道≫だったら例外的に山と積まれた本の中からその時の僕に必要な資料を渡してくれたりする。
≪魔術道≫ではたまに事前通達なしのペーパーテストもあるが、その≪魔術道≫を含めた六の戦闘術の修錬はいずれも師匠たちの真似をするのが基本で、ダメなところを指摘されて修正する。
成長のための課題をテキストで渡されたり、日々の訓練メニューもテキストで渡されるのも共通。
こっちが話しかける分には不思議なことになんの誤差もなく理解してくれて、それに対しては答えにたどり着く手掛かり足掛かりや方向性を資料や動作という形で返してくれる。とりあえず会話や筆談がなくても困ってない。テキストを渡されるのは筆談じゃないよね。
今日は≪魔術道≫で修錬の日。
≪魔術道≫の師匠によるペーパーテストを解き終わり自分で設定した課題に臨んでいるが、いつものように芳しくない。
ほかの戦闘手段の武器の扱いに関しては僕との相性は悪くないという自信がある。
見せてもらった動作を真似して少しずつ手本に近づけていくのは細かいことを考えなくても感覚九割で出来る。師匠方からも筋が良いと褒められてる感じがする。
ところが≪魔術道≫での修錬において、魔器の扱いはともかく魔術との相性は僕自身の実感で言えば並以下で、≪魔術道≫の師匠や愛染の評価では魔器と魔術どちらも五点中四点。
学校で教わる魔術は師匠方のそれと系統が違うようなので学校での成績は脇に置く。
結論すれば自他の評価の間をとればあまり良くはないが悪くもない。
普段使っている魔具の内、上手く使えている気がしない≪[鑽鉄][肢骨][骨身]の【プロテクター】≫の魔術をいじくり回しているものの、漠然とではあるが思い描いている完成形にまるで近づいている感じがない。
一つの魔具に込められた魔術だからと三つとも使おうとするのが悪いのか……。
[鑽鉄]は特定の鉱物を<生成>するか、既にある物をその鉱物へと<変換>するか、他の魔術と併用するならその物体を魔術の対象に指定する単純な魔術だ。
[肢骨]と[骨身]の二つはほぼ同じ。単体としての魔術なら指定したその場にある物質で特定の物体を<生成>し、他の魔術と併用するならその物体を魔術の対象に指定する。
三つとも似たような魔術は覚えていられない程たくさんある類の、ごく一般的な魔術だ。
構成要素としても単純な物なので、[鑽鉄]で手足を作って動かそうという簡単な目標を立てた。
簡単なはずだった。簡単じゃなかった。
この三つの魔術には動作や操作に属するものが無い。
[四肢]や[手足]といったパーツの集合体をまとめて指定する魔術であれば多分、その機能も構成要素に内包しているんだと思う。
[肢骨]と[骨身]で手足を作っても、それは手足ではなく手足の形をした物ということだ。動かないから多分そう。
生物を示す構成要素は大概が魔術生物を<生成>する補助をしてくれるのと同じに考えてしまったのが一番の問題だ。
魔術生物と違い、魔術器官はそれそのものに主体性が存在しない以上僕がコントロールしなければならず、その為の魔具を持たない僕が自前の魔術だけでそんな高度なことをできる訳がなかった。
今日は師匠が出してくれた魔術のペーパーテストで満点を取るまで一時間くらい使ったのを除いて、二時間くらい延々と腕のオブジェを動かそうとして呻ったり睨んだりしてたってことだ。そりゃあ動かない。動く機能を備えていない。
とりあえず今後の課題になるだろうと今日やったことやできなかったこと、思いついたことを書き留めて終わりだ。
今日みたいな試行錯誤の労力と時間を成長に必要な積み重ねの一つと理解していても焦れる僕は、やっぱり魔術のと相性が悪い気がする。
「若様は武術で上手くいきすぎってなもんで、普通は日々成長を実感するなんてありえませんよ」
「はい。若旦那の魔術適正は、武術適正と比較すれば劣っているという表現になるだけです。私のおっぱいと躑躅のおっぱいは形でも大きさでも優劣はあれどどちらも“よいもの”でしょう?」
「愛染のその例えは分かりやすいが反応に困る」
≪魔術道≫で修錬した日は運動量的に大したことが無くても、頭を使った分の疲労と魔素を放出することによる倦怠感で頭は回らないし動きたくなくなる。
でもそれぞれに魅力的な女性三人に丸洗いされるのは余計に疲れるので一度しっかり話し合おうと思う。
全裸で洗われる僕に対して三人とも服を着ているのは新しい扉を開きかねない。
じゃあ全員脱げば良いのかというとやっぱり別の形で困るのでそこのところをしっかり話し合いたい。
「というかなんで三人がかり」
「躑躅だけでは不公平なので、弁柄にもこういった機会は設けられてしかるべきです」
「愛染は?」
「私の正当な権利です」
「ああ、そう……」
愛染には口で勝てないし、控えめに口元が綻んでる弁柄に出てけとか言えないし、躑躅に関してはこういうつもりじゃなかったけど多分僕が悪い。
もう何も考えたくなーい。覚えてたら明日にでも賞与に関して話し合えばいいよ。
洗われたらお湯に浸かって、満足したら晩ごはーん。
≪[鑽鉄][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫
§それは上腕部プロテクターである§
§それは鑽鉄である§
§それは四肢の骨である§
§それは骨と肉である§