02EX-02_|愛染《あいぜん》との関係性は何一つ明示されていない。
橘家の人型魔術生命三人組の筆頭たる愛染の行動は凄まじく迅速であった。
動画配信者を名乗る犯罪者や犯罪者予備軍を忌々しく思っていたまともな動画配信者から協力者を得て、まずは立件されていないだけで違法だったりグレーな動画やその関係者に攻撃をしかけた。攻撃というか、そういった動画の何が違法なのかを明確にして周知させていった。
動画配信関連の話題に火が付き始めると、次はそういった自称配信者と関連する社会的地位の高い人物がいるという方向へ誘導していく。
実際に、久宿延市や仁礼市のダンジョンで問題行動を繰り返していた集団は親族やその知人の協力を得ることで法の目をすり抜けていた。法律に捕らわれないためには、それを作ったり運用する側になるのが良いと言われる見本ですらあった。
当初は一部の迷惑行為であったり違法行為を動画として投稿する自称動画配信者をやり玉に挙げた騒動は、いつの間にかそういった人々と関わりの深い社会的地位のある人々へと矛先が向いていく。
一連の流れを世間に気づかれないようプロデュースしたのは、三つ目六本足の獅子が蓮の花の上で寝転ぶアイコンの吒枳公主という人物だとまことしやかにささやかれている。なお、橘家の人型魔術生命である愛染との関係性は何一つ明示されていない。
そうして迷惑な自称動画配信者の関わる事件という本筋とは何の関係ないところにも適度に飛び火させつつ、世の中の関心が本題から離れないように構築された騒動は拡大の一途を辿り警察関係者は大層忙しい日々を送ることとなった。
このあたりで二月の終わり頃。
橘樹はダンジョン遠征を終え、大部分の学生は後期開始に恐れおののいていた。
世の中の騒動としては、本来ありえてはならない介入により野放しにされていた犯罪者を正しく捕縛したり、職権を濫用し公権力の信用を多大に損なった者の責任が追及されたり、関連諸所を正常化する方向へ進み始めていた。
なあなあで切り抜けようとする動きは、まっとうな動画配信者が自浄作用のアピールやイメージ改善のために吒枳公主から情報提供を受けてそれとなく妨害するよう頑張った。
なお、豊饒豊実の魔法系診療所は五月開業を目指して鋭意準備中。
骨肉スムージーな手足も時間をかければ再生可能な豊饒診療所 (仮)は一見さんお断り (予定)で事前予約必須 (場合によっては一分前の予約可)な狭い間口でスタートすると決まっている。
アホや害悪によるストレスから一度解放されたことで、当面は忙しくしたくないそうだ。
余談ながら、豊饒診療所 (仮)は予約の際、三つ目六本足の獅子が蓮の花の上で寝転ぶアイコンの『ダンジョンダイバーの人間性相互評価アプリ』を参考にするとの噂があるとかないとか。




