02-28
人生四度目の遠征が五日目を終えるころには[魔術]の魂象を得ていた。ふらふら歩いてどーんと雷撃つだけの日々が終わったことになる。
たった五日前と比べて十倍くらいの大きさまで成長した自分の魂を感じて、微妙な気分になる。
まあ、成長した分のほとんどを[魔術]の魂象が埋め尽くしてるんですけど。
たぶんこれ、本来だったらあと数年は[魔術]の魂象は得られなかったんだろう。≪[電母]の【クラダリング】≫を拾ったのがターニングポイントだった。
はあ……。
十倍って。
レベル三≪武装人形≫カスタムはそりゃあ今の僕にとっては強敵だし、≪果てへと至る修錬道≫では強敵を倒すほど魂が成長しやすいって言っても十倍って。
成果に対して達成感がまるで無いのがだめだ。
[雷神扶翼番鏡撃]を作るのはぶっちゃけそんな苦労したって程じゃないし、魔術の核になっている≪[電母]の【クラダリング】≫を失えば完全に使えなくなるのが良くない。
しかも、[魔術]の魂象を得たと言っても魔術に精通したわけじゃない感じがする。
[魔術]の魂象……[魔術]の魂象……って念じながら魂を成長させた所為で、そっちの方向に成長が誘導されたみたいな。あんま健全じゃないっぽい? みたいな?
象じゃない動物を思い浮かべてくださいって言われた人の横で象象象って呟いてたら、その人が結局は象を思い浮かべちゃうみたいな。この例えはだめだな。分かりにくいみたいなー。
「とりあえず、[雷神扶翼番鏡撃]は暫く封印みたいな」
RPGでいうとストーリー上の最初のボスすら倒してないのに、終盤ダンジョンの雑魚を一掃できる武器使って無双感が逆にストレス。
これもあんま上手いこと言えてないな。果恵に言っても、だから? とか聞き返されかねない。
ちょっと頭回らなくなってるわ。要らないこと考えるのやめて必要なことを考えよう。そして区切り付けたらさっさと寝る。
まず第一に、現状の我が身に過ぎた魔術は使わないよう自戒して、しっかり魔術に取り組もう。[魔術]の魂象に振り回されることなく使いこなせるのを目標にする。
今回の遠征の主目的の[魔術]の魂象は達成したし、遠征の残りは魔術を一旦棚上げして精気の方の習熟に努める。
これでいいな。寝よう。
遠征六日目。二月二十七日木曜日。
愛染、弁柄、躑躅に感謝して朝御飯を食べ終えたら食休み中に今日の予定を考える。
いや、考えるまでもなかった。[魔術]の魂象を発動した状態で[肉体強化]と[身体強化]を使い、武術の修練だ。魔術関係が一歩先を言ってる感じがあるので当面は武術の方に重心を置こう。
いざ、見敵必殺蛮族デイ。
[魔術]の魂象を発動したり解除したりしてレベル三≪武装人形≫と戦っていると、[肉体強化]も[身体強化]も自覚できるほど上達していく。
[魔術]アリの魔術全般の能力が底上げされた状態の自分を手本に、[魔術]ナシ状態で本来の自分の技量の状態で修練する。ダメなところを修正し、より正確により高出力にと大した苦労もなく上手くなれる。
順調すぎて怖い。
いや、逆に考えよう。≪[電母]の【クラダリング】≫をご神体に[電母]を祀る感じ。[電母]がどういう形で存在するのかは知らないし、今までは神様だからってだけでなんとなくやってたことに、これからはしっかり信心を込める方向でやっていけば精神安定に寄与してくれたりしないかな。これが信仰の芽生え……!
[電母]に感謝するのが信仰なのかはさておき、[魔術]を発動している間の感覚の変化はこれどういうことなんだろうか。普段は分からないものが分かるっていうのがよく分からない。
初めて[魔術]を使った時には、それまで分厚い着ぐるみを着ていたのを脱いだように感じたんだったかな。でも単純に感覚が鋭くなってるのかというと、そうとは断言できない。もうちょっとなんかありそうな気がする。
これまた感覚的に言うなら、<占術>に分類される[方向]の魔術を使った時と似たものを感じる。根拠はほぼないが、もしかしたら[魔術]という魔術は、“術者の知りえない事柄を知る”という<占術>と同じように、その時点では知るはずのない魔術に関する知識をどこかから引っ張ってくる働きがあるのかもしれない。
その辺を意識して使ってみればすぐに分かるだろう。
さー、精気の訓練がてらレベル三≪武装人形≫カスタムを狩って魂を育てるぞー。
自分の魂なのにこの言い方はなんか違和感があるけど、どう表現すればいいのか分からないしまあいいか。
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§




