02-27
人生四回目の遠征も早五日目。
出発が二月二十二日だったから、ダンジョン泊四回後の今日は……えーっと……二十六日……? 寝起きの自分の頭が行った足し算結果に自信が持てず、結局ダンジョンダイバー向けの端末で日付を確認した。今日は二月二十六日水曜日で合ってた。
ダンジョンダイバーズデバイスをデデデって略したりするらしいって聞いた覚えがあるけど、実際に日常会話で使って通じるのかな。橘家は端末と略す派だ。養母さんは昔“でっさん”て略してたんだったか。果恵が分かりにくいって文句言ってたのを覚えてる。
どうでもいいことを考えつつあったかい朝食を[倉庫]から取り出し、愛染と弁柄と躑躅に感謝て食べ終え一息。
なんというか、想定とあまりに違う進捗状況に戸惑っている。
移動に充てた遠征一日目を除いた昨日までの三日間で斃したレベル三≪武装人形≫カスタムの数は、なんと自分でも驚きの六十超え。一日あたり二十体。
睡眠時間と休憩時間を別にした遠征中の僕の一日の活動時間は大体十二時間なので、三十六分に一体を斃している計算となる。しかもこの三十六分は移動時間を含んでいる。
ちょっと前までの、一体のレベル三≪武装人形≫カスタムが相手ですらにヒーヒー言って一戦毎に心身どちらも半死半生みたいな僕とは格段の差がついている。
前回の遠征にて、魔術のみでレベル三≪武装人形≫カスタムを相手取るのは不足が多すぎたため予定を大幅に短縮してまで今回の遠征に備えたのは正しかった。そうやって確保した準備期間のおかげで、今回の遠征が素晴らしく順調に進んでいるのは疑いようもない。
その際に[魔術]の魔術の存在を思い出したというかちゃんと認識して持ち出し、その後ガンガン使い倒しているおかげでそろそろ[魔術]が魂象に至りそうだというのは、今回の長期休暇中に[魔術]の魂象を得るべく遠征をおこなうという本来の目的を達成できそうな点を鑑みても、やはりしっかりと準備期間を設けたのは正しかったと言える。
でもちょっと順調すぎてムズムズする。
というか、≪[電母]の【クラダリング】≫を使った主砲的切り札な魔術が予想以上にすごすぎて、[魔術]の魂象を得るために努力してる感覚が一切ない。
レベル三≪武装人形≫カスタムを発見。ちょっと引いて仕込み。じわじわ近づいてズドンで終わりって三ステップがどうにもよろしくない。
何がダメなのか言語化できてないけど、これ本当に大丈夫なん?
そんな不安を抱えながらも今日も今日とてレベル三≪武装人形≫カスタムを探しに繰り出す。だって[魔術]の魂象欲しいし。
使い勝手が良すぎて僕を悩ませる、[雷神扶翼番鏡撃]――『雷神の助けを得る番の鏡でブチかます』と名付けた儀式魔術は七段階のステップにより構築され、最終ステップに至ると対象は雷でズドンされて破壊される。
第一ステップ。
[魔術]の魔術を発動し、魔術に対する感性や魔術の制御能力を補助する。
第二ステップ。
≪[電母]の【クラダリング】≫を触媒に<祈禱>の魔術で<加護>を授かる。
言い方を替えると、≪[電母]の【クラダリング】≫の要素である §それは神である§ と §それは雷を生む§ で雷に関する扱いを底上げしてもらう。
自身よりも上位の存在に助力を願う魔術は<祈禱>という分類らしい。そしてその助力を<加護>と呼ぶそうだ。最近知った。
第三ステップ。
<仙術>に分類される[チャージフィールド]で任意の対象に充電する力場を構築する。
[雷神扶翼番鏡撃]としての媒質である“雷を溜め込む対象”にするのは、左右の手で一枚ずつ掲げた同じ形の二枚一組の鏡。電母という神様が鏡持ってるしなんかご利益あるだろうみたいな。
既に存在する自然物や自然現象を強化したり操作する魔術は<仙術>に分類される。
第四ステップ。
[ジェネレイト・エレクトリックパワー]と名付けた魔術で発電する。
魔素から物品やエネルギーを生み出すのは<生成>に分類される。
第五ステップ。
<占術>に分類される魔術で対象の急所を探る。
これは我ながらかなり上手くいったと自負してるポイントで、≪[電母]の【クラダリング】≫の要素である §それは正体を暴く§ と、≪[方向]の【前腕部プロテクター】≫の §それは二者を結ぶ直線を理解する§ を組み合わせることで“急所”なんていう漠然としたものを知ることができる。
自身の知りえない物事に対する答えを世界から引き出す魔術は<占術>に分類される。世界から引き出すって何? って≪魔術道≫の師匠に訊いたら、アカシックレコードがどうこうという資料を渡されたがまるで理解できなかった。世界は世界の内側の出来事を全て記憶しているとかそういうアレらしい。
第六ステップ。
<仙術>で媒質の鏡二枚に溜め込んだ雷を制御する。魔術の名前は[インダクトライン]とした。
周囲の光を鏡に集めて鏡を発光させ、その光を対象の急所に照射することで雷を誘導する。雷を誘導するための線を対象まで引くことで、自分の<生成>した雷を神様の雷の呼び水にするイメージ。
第七ステップ。
鏡に溜め込んだ雷を、[ディスチャージ]と名付けた魔術で開放する。
できるだけ多くの分類の魔術を使うことで[魔術]の魂象を得ようとしたが、これも<仙術>になってしまっているのは仕方ない。他で<仙術>なんて使ってないし、[魔術]より先に[仙術]が魂象になることはないはずだ。大丈夫でしょ。実際、[仙術]の魂象じゃなくて、<仙術>を内包する[魔術]の魂象が完成するまでもう少しっぽいし。
七ステップという僕史上最大規模の<儀式>を行うことで電母の助力を得た雷は、狙ったレベル三≪武装人形≫カスタムをワンパンで炭化させる威力を有するに至った。急所を狙うとかどうでもいいくらいの範囲を破壊しつくす点には目を瞑るものとする。
愛染がどこかの量販店で大量に買い込んでくれた二枚一組の鏡は使い捨てになってしまうが、そんなもの気にならないどころか楽し過ぎてこれで良いのか悩むくらい高速高威力高コスパだ。
順調なのはいいけど、落ち着かないー。
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§
≪[方向]の【前腕部プロテクター】≫
§それは前腕部プロテクターである§
§それは二者を結ぶ直線を理解する§




