02-25
基礎訓練をしつつ[達眼]を上手く使えないか考えていたが、もしや魔素や精気の流れが悪いと感じたのは[達眼]の §それは物事を深くまで見通す§ という要素に理由があるんじゃないかと気づいた。
というか、[達眼]を解除したら普段と変わらず魔素や精気を制御できていたので、関連性は明らかだった。
僕が鈍っていたわけじゃないようなので一安心したものの、日課の基礎訓練が惰性にならないよう気は引き締めよう。
そんなわけでなんとなく方向性が絞られた。[達眼]を使い魔術の練習をしよう。上手くできない自覚があるところに限らず、改善点に自分で気づけるはずだ。
丁度良い魔術の練習となるとなにかあったかな。[電母]を主軸に据えた主砲の練習をしてもいいけど、アレは精神的にとても疲れるので、練習で軽くやろうなんて気にはなれない。後でがっつりとやろう。
結構がんばって考えて、漸く思いついたのは[倉庫]の魔術を利用した武器の持ち替えくらいだった。
壊れても良い食器を[箱段]から取り出し、まずは直立したまま[倉庫]に入れて出してを繰り返す。位置は無難に紋章を入れた左胸の前。
最近気に入っている音楽の鼻歌に合わせてテンポ良く出し入れできるようになったら、次は少しずつ取り出し位置を変えていく。最終的には両手を伸ばした範囲内ならタイムラグはないくらいを目指す……つもりだったけど直ぐにできて次の目標設定に困った。
物を出し入れする以外で[倉庫]でできることって他に何かあるかなとの閃きを求めて、一回≪果てへと至る修錬道≫の外でネット検索してみる。倉庫って用途に合わせて設備の差が大きいんだなあ。
定温定湿に冷蔵冷凍に保温。これ上手く使えばあったかい御飯をそのままとか……流石に無理かな……[箱段]みたいに一回魔素に分解するならいけるか……? いや、それで長持ちさせられるなら[箱段]でいい。それを諦めたのは、あったかいまま収納しても[箱段]に物を出し入れしてるうちに御飯が痛みそうだと判断したからだったはずだ。
あ、でも[倉庫]は物を取り出すときに倉庫を丸ごと構築しているわけじゃない。[箱段]は箱段ごと毎度構築するせいで徐々に冷めたり痛みそうだけど、取り出していない物は魔素のままならそういう少しずつの変化は気にしなくて良さそう。その辺り確かめておこう。
あとはなにかあるかな。廃倉庫の再利用でアパートメントに改装って部分を僕に都合よく解釈すれば、持ち運べる休憩室に……これは考えるまでもなく無理そう。むしろ成功するヴィジョンを描けない。
ん……んー? 倉庫を丸ごと構築するならいけるか……? そんな空間が≪果てへと至る修錬道≫の≪実践道≫にあるとは思えないのをどうにかできるなら。逆を言えば、いざというときに備えた一時的な居住空間を確保できるならそれはそれで使い道がある。これも確かめておこう。
もう案は出尽くしたかなというところで≪果てへと至る修錬道≫へと戻り、≪魔術道≫で試行錯誤を開始する。
とりえず[倉庫]に収納した物の時間経過に関して何かに使えるかと[箱段]に入れていた砂時計で試してみたところ、[箱段]は構築するごとに開閉していない引き出しでも時間による変化は進んでいたが、[倉庫]だと砂時計そのものを取り出さない限り変化はなかった。
つまり[倉庫]に暖かい御飯を入れるなら、もう電子レンジな魔術は要らないということでは?
今日は十九日だから、遠征の二十二日まで痛みやすそうな食べ物を[倉庫]に入れておいて、大丈夫そうならお弁当は温かいまま持っていこうかな。
気づいた時のショックから立ち直れたし、次は≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫の[魔術]を介して魔術を使ってみよう。そうすれば[魔術]の魂象を得やすくなるハズ。
今まで入れ墨入れるときとその練習に魔具の魔術三つをまとめて発動してばかりだったものの、複数の魔術を持つ魔具でも個別に発動できることは知っている。
で、[魔術]を試したらめっちゃ楽しい。もうすごい楽しい。ヤバ。
≪[無尽]の【魔本】≫に書き込んである魔術あれこれが、≪[無尽]の【魔本】≫なしで使える。なお、その場合は術式を暗記していなければならないので僕にできるわけではない。
大事なのは魔本ナシで魔術を仕えるけど使えないことではなく、魔術の手応えが別物だということ。今まで着ぐるみ着て生活してたのが全裸になったんじゃないかってくらい感覚が違う。たぶん、僕五人分くらい魔術が上手くなっている。五人分に関して根拠はない。
ともかくやばい楽しい。誰かと分かち合いたいけどそんな相手は誰もいない。もう奇声あげたりして発散しようかな。
「なに気持ち悪い顔してんの?」
「果恵さん見てこれ。これ見て。見て見てこれこれ。見てよこれ」
左手中指にとりあえずでつけている≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫を全力でアピールする。
「指輪? 遠征で拾った魔具かなんか?」
ものすごい顔をしかめてるのに相手をしてくれる果恵さん優しい。
「魔具だけど、前から持ってたやつ」
言いたいこと言おうとすると要らないことだらけになって果恵を怒らせそうなので、訊かれたことだけ答える僕エライ。
間。
「……で?」
要らないこと言わないようにしたら足りなかったらしい。
「すごいんです」
ごすっと足を蹴られた。肉体は痛くないけど心が痛い。
「分かってやってるでしょ」
果恵の眉間のシワがすごいことになっている。僕の言葉が足りてないのは僕でもわかるけど、具体的に何を足せばいいのかは分からないのでカームダウン、カームダウンプリーズ。
「はぁ……。で、その指輪はどういうもので、なにがすごいの」
「あ、はい。ええとですね」
[魔術]の魂象に関してと、≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫に入っている魔術三つと、[魔術]の魔術を使うと世界が変わることを説明した。[魔術]の魔術って頭悪い字面だなあと思いました。
僕なりにかなり気合を入れてプレゼンして果恵にも試しに使ってみてと薦めたが、すごいのは分かったからもういいと断られてしまった。残念。
でも、なんだかんだ二時間くらいハイテンションの僕に付き合ってくれたので感謝。こういうところがコミュ強の必要条件何だろうか。パねぇっすわ。
≪[無尽]の【魔本】≫
§それは魔本である§
§それは尽きることが無い§
≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫
§それは指輪である§
§それは術式により魔素を操作する技術である§
§それは平面でものごとを表す§
§それは皮膚に描く§




