02-23
昨日は休養日ということでしっかり休んだので朝から元気だ。
いややっぱり無理があるわ。
[倉庫]の確認とか[インベントリ]の習得が想定以上に捗った分、午後はまるっと説教で占められてトントンになってたら良いなくらいの進捗だろう。なにより、午後の件でかなり気疲れしたのかイマイチ活力が足りないカンジ。自業自得なんだよなあ。
では、昨日のことは昨日のこと。絶好調ではなくとも体調が悪いわけでもない。弁柄に軽く体術の稽古をつけてもらって朝御飯を食べたから、今日の予定を消化していこう。
≪[倉庫]の【ブートニア】≫を紋章に作り変えて入れ墨にする。
紋章を作るのは本番一回とその練習をした時以来だから、[倉庫]の魔術でやる前に練習をしたい。
ダンジョンダイブ用のアンダーウェアとかを魔具化する。
使わない魔具を放り込んでる部屋に何があるのかすっかり把握できてない上に、何があるか確かめて今の僕に必要なものを必要なだけ見繕う必要もある。
この二つを片付けるだけで午前中は埋まりそうだ。
それに他にメモしてあるのは、新しい魔術を作ったり既存の魔術の挙動を確かめたりしかなく、家でできることはない。いくら考えなしの僕でも自分の家で魔術をいじったりはしない。床や壁に穴開けたり家具壊したりで何度も愛染に苦笑されていればさすがに学ぶ。
まずは魔具置き部屋から練習用の魔具持って来よう。
いつぞや作った木製おでんを持って庭に出た。
より正確には単なる木製のおでんではなく、使わないけど家に置いておこうと省スペースのため魔術を積み木に乗せ換えた魔具のなれの果て達だ。いつもあれこれ実験のお世話になっています。
そして今回の練習により積み木から紋章へと形を変えられ……作り変えた後どうしようか……。魔術的な要素の大きい金をインクにして描いた図形だし、大きさも融通が効くからまた積み木に刻めばいいかな。
試してダメならその時考えなおせばいっか。
使う魔具は三つ。≪[抽出]の【根付】≫、≪[金字]の【ペン】≫、≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫だったはず。
紋章にしたい魔術を魔具から[抽出]する。
抜き出した[魔術]を[図形]として[刺青]にする。
この時、抜き出した魔術を物理的に描くためのインクを[金字]で生み出す。インクは体に害がなければ何でも良いんだけど、魔術で<生成>する金は魔素の伝導率が高いし体に害がないらしいので手軽に調達できるならこれでいい。魔術で<生成>したわけではない金を体に埋め込んで害があるのかは知らないが、物理的に存在した金って中毒起こしたりするんだろうか。気になったら愛染にでも訊こう。
≪[抽出]の【根付】≫を手に取ったところで、ふと、[結合]は物体同士をくっつけることはできなかったが本当にそうなのかと疑問が芽生えた。
今まで“こういう魔術”と思っていたものが、実際はそうではなかったという経験を何度もしている。それだったら今回が例外と考えるのはちょっと了見が狭いんじゃないだろうか。
この後アンダーウェアの魔具化もするつもりで≪[結合]の【根付】≫も持ってきていたので、ちょっと試すだけなら手間でもないしとやってみた。メモ用紙製の崩れないトランプタワーが出来上がってしまった。トランプじゃないからメモ用紙タワーかな。
視線を巡らせて丁度良い物がメモ用紙しかなく、ぴとぴとっと三枚で三角の筒みたいなものを作ってしまったのが事の始まりだ。もしやこれをいくつもくっつければ僕でもトランプタワーを作れるんじゃないかと、悪魔が囁いてきたのだ。ダンジョンにいるらしいガチの悪魔じゃなくて慣用句的な意味の悪魔が。
あれだ。このメモ用紙タワーはさておき、やっぱり魔術は使う人の認識一つで色んな使い方ができると学び直した。
じゃあなんで前はできなかったのかというのは……その時のことを詳しく思い出せそうにないし、調べ方に見当もつかないし、気にしなくていっか。
で、思考が完全に逸れてしまう前に紋章の魔具を練習で何度か作り、肝心の≪[倉庫]の【ブートニア】≫を≪[倉庫]の【紋章】≫へと作り変えた。刺青は左胸。
≪[鎧櫃]の【紋章】≫は左前腕の内側だが、最近、遅まきながらこの位置の危険性に気づいてしまった。腕切り落とされたらもう使えなくなるんじゃない? と。もっというと、切り落とされるだけなら腕を回収すればワンチャン魔具の刺青を使いまわしたりできそうだが、腕を回収できなかったらもうどうしようもない。
あ……。
刺青として紋章を体に刻むんじゃなくて、紙とかに刻んだら術式が丸見えのまま物に刻んだらそれを基に複製とかできた可能性が……。
自分の左胸の刺青でも、見難いだけで不可能ではないしまだ大丈夫。完全に取り戻せない失敗ではない。ちょっと試してみたら首痛めそう。
失敗はともかく、アンダーウェアの上下と靴下の左右で計四か所を魔具にする魔術もざっくり見繕ってしまおう。下着一体型なのでぱんつははかない。
最初にこれと決めたのは≪[壁書]の【ブローチ】≫。拾った時に、踏んだら発動する魔術式という罠に使えないかと考えたのを見た瞬間に思い出した。
次に選んだのは≪[過熱]の【ハットピン】≫。遠征でスープを温めたりできそう。一定の温度まで上げることしかできなかったらムリかな。
特に悩むこともなかった三つ目は≪[達眼]の【ネクタイピン】≫。≪[心眼]の【ケブラー製インナーキャップ】≫の[心眼]とはまた違う目を持てそう。
最後に悩みに悩んだ≪[根冠]の【キーホルダー】≫。 §それは重力を感じる§ の要素で何か面白いことができそうな気がした。ほかの要素はシラン。
なんとなく時計を見たら、魔術を乗せ換え終わったらお昼御飯くらいの時間だ。午後は予定通り性能テストでもしよう。
あ、いや違う。≪[融合]の【神壇】≫で魔具化させる方が性能は良くなるんだった。ご飯食べてから≪果てへと至る修錬道≫へ行くんだし、実際に魔具化するのはその時だ。
微妙に浮いた時間をどうしようかと手に持っていた物を手のひらで転がしていたのだが、なんとなく目を向けて確認すると、それは≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫だった。
あれ? この[魔術]って魔術を介して他の魔術使ってたら[魔術]の魂象を得られるんじゃないの?
≪[融合]の【神壇】≫
§それは神に近づく場所§
§それは溶かし合わせ一つにする§
≪[倉庫]の【ブートニア】≫
§それはブートニアである§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§
≪[魔術][図形][刺青]の【指輪】≫
§それは指輪である§
§それは術式により魔素を操作する技術である§
§それは平面でものごとを表す§
§それは皮膚に描く§
≪[金字]の【ペン】≫
§それはペンである§
§それは金泥で書かれている§
§それは金色の文字である§
≪[抽出]の【根付】≫
§それは根付である§
§それは抜き出す§
≪[結合]の【根付】≫
§それは根付である§
§それは結びつく§
§それは合わさり一つになる§
≪[倉庫]の【紋章】≫
§それは紋章である§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§
≪[鎧櫃]の【紋章】≫
§それは紋章である§
§それは防具一式を収納できる§
≪[壁書]の【ブローチ】≫
§それはブローチである§
§それは壁に書く§
§それは壁に書いたものである§
≪[過熱]の【ハットピン】≫
§それはハットピンである§
§それは度を越えて熱する§
§それは沸騰させない§
≪[達眼]の【ネクタイピン】≫
§それはネクタイピンである§
§それは眼である§
§それは優れている§
§それは物事を深くまで見通す§
≪[心眼]の【ケブラー製インナーキャップ】≫
§それはケブラー製インナーキャップである§
§それは五感ではない感覚を授ける§
≪[根冠]の【キーホルダー】≫
§それはキーホルダーである§
§それは根の先端である§
§それは柔らかい§
§それは伸長を助ける§
§それは重力を感じる§




