02-22
[インベントリ]は使うだけなら難しくなかったので、お昼ご飯前にはある程度使えるようになった。
一番労力が少なく確実に名称が把握できるのは、[倉庫]の魔術に収納する時に目録に書き込むことだ。その目録を元に[インベントリ]で[倉庫]の中にある物品の目録を作るので、取り出したときに目録を修正する必要はない。
[インベントリ]や収納目録でどうにもならなくなったら、最終手段としては建造物としての倉庫を構築することで中にある者を確認できる。
そうなってしまうと、愛染達は手伝ってくれるだろうけど、養母さんや果恵に知られたら確実に叱られると分かっているからそうならないように気を付けていきたい。努力目標ということで。
キリが良いところでお昼御飯のために帰宅すると果恵が居た。なんかマズイ気がするものの、具体的に何がマズイか分からずそのままお昼御飯のカツ丼をいただいた。
午後は何するかなーと食休みがてらぼんやり考えていたら、手首に巻いていたメモを見て、≪[倉庫]の【ブートニア】≫を紋章として入れ墨にしようと思ってたのを思い出した。
あ、魔具の入れ墨入れるから果恵が居たらマズイんだ。養母さんに報告されたらベアハッグから鯖折食らいかねない。どないしよ。
「なにそわそわしてんの?」
「挙動不審だなんてそんなことはございません」
「その言い方が挙動不審じゃん」
誤魔化そうとしたら切り返し鋭すぎませんかね。
「なにしたの。……いや、これからなにするつもりなの」
そこのところピンポイントに言い直す必要ありました?
「ふん。全部、顔に出てるから」
今度は僕喋ってすらいないんですけど。まじで。
愛染さんまじで?
「まじです」
愛染に視線で助けを求めたら、心は通じたのに助けてくれなかった。
「下手に誤魔化す必要はないと思いますがねぇ」
もういっそこのまま走り出して逃げようかと考え始めたところで、漸く躑躅が助言をくれた。
そこんとこどう思うかと今度は弁柄に視線で助けを求めると静かにうなずかれた。何に頷いたのか分からん。
かくかくしかじか。
果恵を言いくるめるとか僕には検討する余地もない難事なのでさくっと説明した。
「ふーん」
興味なさそう。これ、養母さんに叱られたりしない可能性が出てきたんじゃないの。
「ま、私は別に良いんじゃないって思うよ」
「含みがありますね」
「だってママがどう思うかなんて知らないし」
「へへ……その、そもそも養母さんが入れ墨のことを知らないなら、養母さんは入れ墨について何も言わないんじゃないかなって……へへ」
「ふうん」
音はほとんど一緒なのに、さっきとはずいぶん印象が違う『ふうん』ですね。
「……うん。私は、ママに何も言わない。貸しイチだからね」
くるくるじゅわあと炙られる様な心地で果恵の結論を待って居たら、なんと予想外に協力的なお言葉をいただけた。果恵はこれくらいの貸し借りでそんなヤベーこと要求しないって今は理解してるから、実質無条件みたいなもんだ。
「でも」
このタイミングでその繋ぎ方はイカン。上げて落とす感じ?
「あんたの後ろで全部聞いてたママがどうするかは私と関係ないから」
「え……僕の後ろで全部……?」
「はーい。聞いてましたよー?」
居る。居るよ。ホラーかなんかの展開じゃん。じわーっと汗が噴き出すのが実感できるってなかなかできる経験じゃないよね。
その後みっちりと時間と言葉数を費やした説教を受けた。
入れ墨に関しては養母さんが綺麗に消せるので、真っ当な理由なら入れるのも消すのも協力するという大変理解のある結果が早々に出てた。
しかし、なんで火曜日の昼間に家にいるのかが気になって途中で尋ねたら、そんな雑に話を逸らすなと余計に叱られそうになり、純粋な疑問だと主張してどうにか事なきを得た。でももちろん説教は続いた。平日昼間に家にいる理由は分からないままである。
説教の内容は、どうせ隠し事なんてできないんだから下手に隠そうとするんじゃないという、正しいのかそうじゃないのかよく分からないものだった。努力するならもっと建設的に、必要性を説いて理解を得られるようにしなさいとのこと。
確かに最近は果恵に頭の中を覗かれてるんじゃないかってくらいに筒抜けとはいえ、できないことだからこそ努力して改善すべきではないかなんて意見を口にしたところ、そんなことやる気ないんだから思ってもいないことを言うじゃないと更に叱られた。はい。ごもっともです。
なんにせよ紋章の魔具を入れ墨にすることを理解はしてもらえたし、晩御飯ができたのを区切りに説教から解放されたのでよしとしよう。
準備は万全じゃなくても遠征自体はできるが、強引に説教から逃げ出していたらその先の日常生活がどうなっていたか想像もできない。つまり遠征の準備期間を半日失ったのは気にするほどじゃないハズ。
ベッドにもぐりこんでうとうとし始めたころ、果恵からの借りを無駄に作ったんじゃないかと気づいた。
大した取引じゃないので大した要求はされないという信頼はあっても、それはそれとして軽くへこんだ。
≪[倉庫]の【ブートニア】≫
§それはブートニアである§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§




