02-21
魔術という括りの中では僕にとって切り札となる魔術が粗方完成し、その完熟訓練と修正も終わった翌日。
次の遠征は二月二十二日土曜日出発だから、火曜日の今日を含めて準備期間は残り四日。できれば片付けておきたいものも合わせれば片付けたい予定は結構あるし、どんどん消化していこう。
今日の一発目はコレ。[箱段]の魔術で箱段に収納した物を、箱段を展開せずに取り出せないか試してみる。
≪[鎧櫃]の【紋章】≫だと、[鎧櫃]の魔術を使って防具を出し入れする時に鎧櫃という物体を<生成>せず出し入れできてる。つまり、[箱段]の方も“それができる”という認識さえできれば箱段という物体を<生成>する必要はなくなるはず。
試した。 (試行)
できない。 (失敗)
なんでかな。 (疑問)
考えてみよう。 (思考)
いつもの四ステップをしっかり踏んだ。
とはいえ≪[開示]の【神壇】≫を使ってそれぞれの魔具の詳細を見てみれば、なんとなく原因はわかる。
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫
§それは上腿部プロテクターである§
§それは階段である§
§それは引き出しである§
≪[鎧櫃]の【紋章】≫
§それは紋章である§
§それは防具一式を収納できる§
[箱段]は、収納することもできる物体を<生成>する魔術。
[鎧櫃]は、収納することを目的とした魔術。
たぶん、そういう微妙な違いがある。
この予想を検証するために取り出しましたるはこれ。
≪[倉庫]の【ブートニア】≫
§それはブートニアである§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§
いつだったか忘れたけど拾って、≪[電母]の【クラダリング】≫のついでに≪[開示]の【神壇】≫で詳細を調べたやつ。
この[倉庫]の魔術で物を出し入れする時に、倉庫という物体を<生成>する必要がなければ僕の推測は正しいってことにする。 §それは物品を収容する§ って構成要素のニュアンス的にわざわざ倉庫を<生成>しなくても良いハズ。
試した。 (試行)
できた。 (成功)
嬉しい。 (歓喜)
軽くやってみた感じ、内部を区分けする感覚で普段使いする物を取り出しやすくしておけそうなので、戦闘中に武器を持ち替えられないか考えるというタスクも消化できたことになりそう。
でもぶっちゃけブートニアっていう形状が邪魔くさい。コサージュのうち、結婚式で新郎が胸元にさしてるのを細かく呼び分ける名称らしいけど、こんなもん身に着けて≪武装人形≫とやり合うとかちょっと遠慮したい。なにより僕は新郎ではない。
よし。普段から使う機会が多そうなこれも紋章にしちゃおう。
入れ墨はあんまり増やしたくないって言っても、すでに一つ入れちゃってる以上要らなくなったら消す方法考えるのは変わらないさー。養母さんなら入れ墨も綺麗に消せるかもしれないし。
……入れ墨だけど入れ墨という形の魔具なのでセーフとはいかないだろうから、養母さんに頼むのは最終手段だ。また脳味噌使わずに行動したって叱られそう。
心変わりしない内に済ませてしまおうと[箱段]の中身を漁ったところ、[倉庫]の魔術を紋章って形の魔具にするための魔具が手元になかった。そんなに頻繁に使うものでもないというか、今まで≪[鎧櫃]の【紋章】≫でしか使ったことがなかったので持ち歩いているわけもなかった。
紋章に作り変えるのはお昼ご飯で一度帰宅するのに合わせることにしようと、次にやることを確認すべくメモ帳――もとい≪[無尽]の【魔本】≫の遠征準備メモを開く。
うん。次はアンダーウェアや靴下なんかの魔具化だな。一度家に戻らないといけないので保留っと。……忘れそうだし手の甲にでもメモしておこう。確か手首に巻くメモ用紙を愛染が持たせてくれて[箱段]に放り込んであったはず。
[箱段]の引き出しが気づかないうちに増えていた見つけるのに手間取ったけど、結果的に見つかったのでセーフ。
しかし探している間に≪[倉庫]の【ブートニア】≫が視界に入って、ふと気づいてしまった。[倉庫]の魔術の内容量次第じゃ、もっとヒドイことになるのでは?
広さを気にしつつ[倉庫]の魔術を使ったところ、漠然とだが僕が住んでいる橘家の家よりも容積が大きい感じがした。ほいほい物を放り込んでいたら絶対に何を入れたかわからなくなる。
そのまま小一時間ほどあれこれ解決方法を考えたものの何も思いつかず、すがるような思いで≪魔術道≫の師匠にアドバイスを求めたら[インベントリ]という名前の魔術の手引書をいただいた。
インベントリはゲーム……よりはそういうのをネタにした小説でよく見かけるやつだ。[倉庫]の魔術みたいな収納空間だった気がする。なぜこのタイミングで教えられたのだろうか。
疑問はさておき、≪魔術道≫の師匠に渡された資料はまず目を通すのが最短経路だ。資料にちゃんと目を通さず散々無駄な遠回りを繰り返したのでそれくらいは学習している。
手引書を開いて最初のページには、『英単語としてのインベントリとは収納空間ではなく、一覧表や目録を意味する単語である』と書かれていて合点がいった。つまり対象空間に存在する物品の目録を作る魔術だ。
ピンポイントで欲しい魔術を教えてくれる師匠スゲー。
≪[鎧櫃]の【紋章】≫
§それは紋章である§
§それは防具一式を収納できる§
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫
§それは上腿部プロテクターである§
§それは階段である§
§それは引き出しである§
≪[開示]の【神壇】≫
§それは神に近づく場所§
§それは明らかにして示す§
≪[倉庫]の【ブートニア】≫
§それはブートニアである§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§
≪[無尽]の【魔本】≫
§それは魔本である§
§それは尽きることが無い§




