02-20
遠征の準備としてやることリストを作ったので、その日の内にリストに従い行動を始める。
まずは魔術という枠内における僕の切り札を用意する。
それぞれの分野での切り札といえば、弓もテコ入れが必要だ。レベル三≪武装人形≫カスタムを相手にした時の、じわじわと追いつめられる恐怖は本当にキツかった。対等以上を相手にする経験を積めばマシになる見込みがあるだけ上等ではあるけど、その経験を積むのがしんどいなあ。まあ、これは今の話じゃない。今は魔術優先だ。
今回作る魔術で最も大事なのは、少なくとも今手持ちにある魔術では不可能な破壊を一撃で行えること。次に狙った対象に中てられること、長くとも数分の準備で発動できること。
ま、第一歩として威力を確保できれば良い。中て易いとか、早く発動できるとかは、威力が確保できたそのあとに改良を加える方針だ。
鍵となるのは≪[電母]の【クラダリング】≫の §それは雷を生む§ という構成要素。神様の落とす雷とか、絶対すごいことになる。
≪果てへと至る修錬道≫の≪魔術道≫で学んだ魔術には、<祈禱>という分類が存在する。神様とか精霊とかの超常存在にお願いして術者に本来不可能な現象を起こしてもらうというもの。
この<祈禱>で≪[電母]の【クラダリング】≫から上手いこと力を引き出せたら、ガツンとでかいのを撃てる気がする。
僕はもともと家に仏壇も神棚もなく十字架を身に着けたりもしない無宗教だし、神様自体にしても無神論者寄りだったので<祈禱>に関してはあんまり気にしていなかった。
けど、“地上に生きるヒトよりすごい存在”を神様っていうなら神様は存在するよねってことで、視点を変えた今は自称有神論者ビギナーになっている。
≪果てへと至る修錬道≫の師匠たちとかも神様の一部の一部みたいなものなんじゃないかな、という漠然とした憶測も無関係じゃない。
自称有神論者ビギナーの僕でも、日々敬意を払って磨いたりしていれば≪[電母]の【クラダリング】≫は力を貸してくれるはず。果恵に大して特別甘かったとかそんなことはないと信じる。
今は<祈禱>に分類される魔術で助力を得られるという仮定の下、どうすれば僕の求めるモノに沿ったコンボができるか考えよう。
……。
具体的なことがなにも思い浮かばない。
そもそも、神様が助力してくれるとしてどう助力してくれるんだろうか。
それ以前に、どこまで自力でやればいいんだろう。雷をどかーんとやりたいとして、 §それは雷を生む§ だしお願いしますって言ったら雷落としてくれるもんなのか?
ああ、うん。そうだ。最初にそこを確認しよう。
やってみると決めたからには家でうだうだ悩んでも仕方ない。≪魔術道≫へやってきた。
自分で軽く調べてみたところ、電母とか閃光娘々と呼ばれる神様へのお祈りとか祀り方は分からない。
なので用意してもらった人間台の藁人形みたいな試し撃ちの的の前に立ち、少し俯いて目を閉じ、両手で≪[電母]の【クラダリング】≫を握りこんで掲げる。
いざ。
祈る。
祷る。
斎宣る。
「電母様、お願いします……!」
いや、だって“祈る”の意味を調べたら、もともとは神様の名前を口にするのどうこうって出てきたし……。
自分でもちょっとこれはどうなのかなと意識がそれた瞬間に、瞑っているはずの目の前が真っ白になった。あと耳をぎゅっと圧された気がする。
気づいたら≪[電母]の【クラダリング】≫を掲げる姿勢のまま、俯せに転がっていた。
イマイチ頭が働いていないまま体を起こす。
人が数人転がれるような大きさで黒く塗られている床に寝ていたらしい。焚火の跡みたいなのも見える。
ぼーっとそれを眺めてから周囲に視線を巡らせる。
離れたところに無作為に本棚が林立しているので≪魔術道≫に居ると理解し――連鎖的に何をしていたのか思い出した。
焚火の跡みたいなのって、これたぶん魔術の的だわ。
魔術の試し撃ちをしようとしててそれで狙った魔術の的が全損しているなら、魔術は放たれたのだろう。床の黒い部分は余はか何かで焦げたのかな。
僕が転がっていたのは自爆みたいな……? 目の前に雷が落ちて……発生源が僕が両手で掲げていたクラダリングなら落ちるでいいのか? 雷が目の前に落ちたのだとしたら、その衝撃で気絶みたいな? 焦げの広さからすると、もしくは自分もろとも吹っ飛んで≪果てへと至る修錬道≫のルールによりその場で生き返ったか。
……。
やべー。かみなりコエー……。
新しい魔術を使えるようになるための実験だから、向上心があると認められたんだろうか。そうじゃなかったら暴発で事故死していた可能性。
≪[電母]の【クラダリング】≫で雷そのものを<生成>するのはアカン。自前で<生成>した雷に大して神様パワーをほんのり乗っけてもらう感じでいこう。
言葉でお願いするのもさっきみたいな漠然としたやつじゃなくて、『ささやかなご助力をお願いします』みたいにかなり制限しないとアブナイ。
≪魔術道≫の師匠に相談すると、雷というよりも発電と充電と放電に関する魔術の資料を貰えた。さくっと僕に合わせてマイナーチェンジさせられたことに自分の成長を感じる。
集中が途切れるたび≪[電母]の【クラダリング】≫に手を合わせていたおかげかサクサク作業が進み、余裕をもって晩御飯に間に合う時間で僕の主力となりうる魔術が完成。まさか実質一日も要さないとか恐ろしいほど順調だ。
明日一日使って完熟訓練と修正をすることで上手くいきすぎてる不安を払拭できれば良いなあ。
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§




