02-18
「神様って……」
果恵が絶句するの分かる。めっちゃ分かる。分かりみが深い。なんか違うか。
「……んぅ? でもさっき言ってた“なんかすごい圧”って別になくない?」
突いたら出るのかな、と言いながらそーっと指を近づけるのはやめなされ。そんな危ないことするんじゃない。
「やめて。まじでやめて。フリとかじゃなくてガチのやつ。中の人がイラっとして雷落とされたらどうすんの」
果恵がびくっと手を引っ込めた。よろしい。
中の人は確実に居ると僕は認識している。神様だし、分霊とかそういうやつ。だから下手なことは――
あれ? もしかして、各地の神社とか寺って実際に神様が居るの?
≪[電母]の【クラダリング】≫の中の人が神様なら、神様の類の実在が証明される……と思う。
そうなると、あっちこっちの神様にかかわりがある物品とか土地に神様がいてもおかしくない……じゃないかな?
あ、いや。それが事実でも何も変わらないか。日本だと陛下があれこれ儀式して国土とか国民とかを加護して下さってるのが目に見えて分かるようになってるもん。ああいう儀式って、天照大神とかそういう陛下のご先祖様な神様と無関係じゃないって前に聞いた覚えがある。
つまり日本はとっくに神様に守られてるし、現世利益もあったってことだ。
なんか無駄に考えて遠回りした徒労感がある。
今回拾った≪[電母]の【クラダリング】≫も、八百万の神様にその時々で祈ったり縋ったりする日本人的宗教観ならなんの問題もない物だな。普段はちゃんと敬意を払って扱っておいて、助けてほしくなったらお祈りして、ご利益あったら参拝とかお供えする感じ。一般的な日本人だ。
自分の中で方針が固まったことで周囲に目をやる余裕ができると、なんか四人でわいわいきゃいきゃいとリングを安置した台を飾り付けていた。花は生花みたいだけどいつの間にどこから持って来たんだろう。
「日本の神様じゃないらしいし、軽くネット調べてもよく分かんないし、なんとなくでやっちゃったけどイイカンジじゃない?」
雑。めっちゃ雑。でもこういうのも日本人らしいっちゃらしい。
「シンボルになる鏡二枚さえ置いておけば、後はほどほどに飾っておけば十分ですよ。当人もそう言ってます。たぶん」
元が他所の国の神様なので僕じゃ詳しく調べられないが、愛染はどこの言語でもすぐ読めるようになるだろうと視線を向けてみる。
「躑躅の言っていることはまるっきりの的外れでもありません。地上での祀り方が必ずしも正しいわけでもありませんし」
「あー……空想上の電母という神様と、ここに実際存在しているらしい電母という神様が完全に同一の存在ってわけでもなく、仮に完全に同一の存在でもその祀り方まで同じとも限らない?」
「その認識で問題ありません」
僕なりに愛染や躑躅の言っていることを咀嚼して出した結論は間違ってはいないらしい。実害がないなら完全に正しくなくても良いでしょ。ヨシ。
「うん。これでいっか」
僕から見ると何が変わってるか分からない変化をリングの台に加えていた果恵が、一つ大きく頷いた。僕としては二時間くらい前にそれでいいんじゃないかと思えている。
「で、これどうすんの?」
「どうしよう。祟られそうだから持って帰ったけど、もうそんな空気ないし……」
気づいたらざわざわするような圧はなくなってた。正直アレが怖かっただけなので、アレがないならもうそれでいい気もする。
「またそういうこと言う。拾ったんだから最後まで責任持ちなよ」
「言ってることは果恵が正しいけど、そんな犬猫みたいな表現したらだめじゃない?」
「そう?」
果恵としてはそんないとはなかったのかな。僕が穿った見方したっぽい。
「話は聞かせてもらったー!」
静かにドアを開きつつ、ばーんと自分で効果音をつける養母さんが颯爽と登場。
「おかえりママ」
「おかえり養母さん。どこから聞いてたの?」
「ん? たっくん猫飼うんでしょ?」
まったく聞いてなかったのね。
「奥様、こちらへどうぞ」
愛染がそっと養母さんを連れて行ってくれたので説明もしてくれるだろう。愛染に任せておけば万事オッケー。
「で、どうすんの?」
「どうするにしても、あの怖いヤツがもうないのか調べてからかなー」
今日のところはあのまま台に置いておこう。ご神体? を安置するなら台じゃなくて祭壇なのかな。
あとなんかあったかな。なにか忘れてる気はするのに頭が働かなくなってきた。そういえば遠征からかえってすぐなのか。そりゃーつかれてるよねー。ごはんたべたらもうねよう。
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§