02-16
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫の横でターン。再度レベル三≪武装人形≫カスタムと向き合う。
全力で逃げるんじゃなく、相手が諦めないように距離を調節して走るのは冷や冷やものだった。嫌な汗で背中がじっとりしている。
さ、≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫だけで片付ける気で全力で射よう。できるかはともかく気持ちが大事。
更に、今回は珍しく[熱線]も使う。レベル一≪武装人形≫なら戦いにすらならず黒焦げにする、とっておきの魔術だ。
§それは金属線である§
放ち続ける矢に隠し、≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫から金属線を伸ばす。
自分でも驚くことに一発でレベル三≪武装人形≫カスタムの左足、脛の辺りに突き刺さった。
§それは熱する§
突き刺さった金属線を全力で熱する。
あくまで熱するのは金属線だけなので、<呪術>のように抵抗されて何も変化がないという事態は起こらない。≪武装人形≫の脛のところが焦げたように見える。
成功体験に従い、矢と金属線をひたすら突き立て続ける。
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫の間合いへあと一歩で踏み込まれるというところで、≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫を布状へと変え左前腕に巻きつけ布そのものを金属線へ変えて固定。そこらに放り投げるよりはよいだろうと即席の腕甲にしてみた。
呼吸一つ。
[肉体強化]と[身体強化]を重ね掛けしているにもかかわらず、自身で認識するよりも早く≪武装人形≫の腹、首元、口元への三連突きを終えた。
残心。
周囲に≪武装人形≫がいないことを確認。極力何も考えないように意識して、落っこちていた指輪っぽいものを拾ったら急いで走る。
安全を確保した小部屋へ逃げ込んだら、どっと色んなものが圧し掛かってきた感じがして思わず膝と手を地面についてしまった。
ムリ。もう、ほんと無理。
大きい刀みたいな刃物を持ったレベル三≪武装人形≫カスタムがじわじわ近づいてきているのに相対して、無心で矢を射続けるとかストレスが凄まじい。
[熱線]が僕の想像以上に≪武装人形≫を消耗させたから≪[金剛][惨刑]の【槍】≫に持ち替えてすぐ斃せたけど、その点で上手くいってなかったら精神的消耗の所為でエントランスホールに死に戻りしていたかもしれない。
で、戦闘が終わった時点でもういっぱいいっぱいだったのにそのあと残った指輪っぽいもの。
いつもなら魔具落ちた嬉しいやったーとなる。でも、なんというか、今まで感じたことのない圧力が指輪から放たれている。握ってる左手が重いようにすら感じる。ぶっちゃけぶん投げたい。そしてもう触りたくない。
実際はそんなことするとなんだか祟られそうな気配があって、逆に落としたりしないように左手が痛いくらい握りしめちゃってる。
こんなよく分からない感覚今までに一度もなかった……と思ったら、そういえば昨日からできるだけ[心眼]を使ってるからその所為だたぶん。
[心眼]を使ってなかったら、こんなよくわからない感覚で気が滅入ることもなかったんだろうか。なんかすごい使い勝手が良いと上げてから落とすとは、[心眼]はヒドイやつだ。
大人しく持って帰ろう、と心を決めたらなんとなく手の中から放たれていた圧力が霧散した気がする。それに合わせて僕の緊張も緩み、指輪っぽいリングを[箱段]にしまうだけの余裕ができた。
指輪っぽいリングが手から離れてくれて良かった。もう二度と左手を開けなくなるんじゃないかって怖い想像すらしていた。良かった……。
大きい刀みたいな刃物を持ったレベル三≪武装人形≫カスタムとの戦闘と、そいつが残した指輪っぽいリング以外は何事もなくエントランスホールまで戻れた。二連続のイベントは濃すぎた。
さっさと帰って休もうとへろへろのまま出口に向かって歩き始めた途端、どこかから凄まじい圧力を感じた。
他に理由も思いつかないので[箱段]に収めていた指輪っぽいリングを取り出せば、発生源の予想は合っていた。[箱段]に入れた物は、[箱段]を解除した後に一度魔素へと<還元>されているはずなんだがあの圧力はどうやって発していたのか。
疲れているし、疲れたくないし、細かいことは脇に置いて何をすべきかを考えてみる。ちゃんと詳細を確認してから帰れってことだろうか。自己主張激しすぎませんか? 僕、憑かれてる?
憑かれているだけとは思えない思い体を引きずるようにしてエントランスホールの階段を上がり、≪[開示]の【神壇】≫の前に到着。
大物は後に回して[箱段]に放り込んだまま確認していなかった魔具を≪[開示]の【神壇】≫に順に乗せていく。≪[妾宅]の【ショール】≫と≪[蘭房]の【マフ】≫が連続したのは偶然だと思いたい。
一つ魔具を[開示]する度に一喜一憂、一番は造花のアクセサリーみたいなのが≪[倉庫]の【ブートニア】≫と判明して一瞬疲労も忘れて飛び上がって喜んだ。使い道をあれこれ考えたりしているうちに最後の一つ。
ナムサン。
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§
§それは神である§
§それは神である§
見なかったことにできないかなあって思考が脳裏を過ったが、流石に神様に不敬を働く度胸などなかった。
僕はできる限り丁寧な扱いを心掛けて、≪[電母]の【クラダリング】≫を掲げるように手に乗せたまま帰宅の途に就いた。
神様に関連した魔具って存在するんだなっておどろきました。
人生三回目の遠征は予定を大幅に短縮してこれにて終了。
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫
§それは槍である§
§それは金剛である§
§それは惨たらしい刑罰をもたらす§
≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫
§それはボウである§
§それは薄い織物である§
§それは軽い織物である§
§それは金属線である§
§それは熱する§
§それは赤外線である§
§それは体温の変化を表した線である§
≪[開示]の【神壇】≫
§それは神に近づく場所§
§それは明らかにして示す§
――本日の戦果――
過去の未確認分を含む
≪[妾宅]の【ショール】≫
§それはショールである§
§それは家である§
§それは妾が住む§
≪[蘭房]の【マフ】≫
§それはマフである§
§それは女性である§
§それは美しい§
§それは寝室である§
≪[達眼]の【ネクタイピン】≫
§それはネクタイピンである§
§それは眼である§
§それは優れている§
§それは物事を深くまで見通す§
≪[根冠]の【キーホルダー】≫
§それはキーホルダーである§
§それは根の先端である§
§それは柔らかい§
§それは伸長を助ける§
§それは重力を感じる§
≪[倉庫]の【ブートニア】≫
§それはブートニアである§
§それは物品を収容する§
§それは物品を保存する§
§それは建造物である§
≪[帆布]の【足袋】≫
§それは足袋である§
§それは綿である§
§それは麻である§
§それは亜麻である§
§それは厚手の布である§
§それは丈夫である§
≪[怒潮]の【ラリエット】≫
§それはラリエットである§
§それは海水である§
§それは激しく打ち寄せる§
≪[文杖]の【靴】≫
§それは靴である§
§それは白木である§
§それは文書を挟む§
§それは文書を貴人に差し出す§
§それは一.五メートルの長さである§
≪[小吉][根城]の【半衿】≫
§それは半衿である§
§それは少し縁起が良い§
§それは根拠地である§
§それは城である§
≪[延寿]の【スカーフ】≫
§それはスカーフである§
§それは寿命を延ばす§
§それは長生きである§
≪[電母]の【クラダリング】≫
§それはクラダリングである§
§それは神である§
§それは女性である§
§それは雲を起こす§
§それは雨を降らせる§
§それは雷を生む§
§それは罪人を暴く§
§それは罰を下す§
§それは正体を暴く§