01-04
“開門”の以前は高校くらいまで三十人程度のクラスで顔ぶれを固定して、大体授業はそのクラス単位で受けていたと大人から話を聞く度、ちょっと羨ましいなと思う。
個々の能力に合わせるため学期の成績でそれぞれの科目のクラス分けをし直すのは授業を理解する面としては有難くとも、僕みたいなコミュ力弱者は強制的に同じ時間を過ごさざるを得ないのでもなければ交友関係を築けないのでそこは困る。
僕の個人的な都合で言えば学業成績が落ち始めたら家で愛染に教えてもらってすぐ立て直せるし。本当に個人的な都合だ。
そんな訳で今日も一人飯。
僕自身としては食事は一人がいい。食事中は会話とかなしに食事にだけ集中したい。食べる早さとか会話の流れとか他人の食事マナーとかそんなのに意識を割かれたくない。ただただ食事の見た目と香りと味と食感に全ての意識を注ぎたい。
でも一人で食ってると僕とは別の主義主張の人に気にかけられたりとか、更に踏み込んで声をかけられたりする。ぶっちゃけちょっとメンドクサイ。
「また一人で食べてるの?」
「友達いないのは事実だし僕もそれは気にしてるけど、それはそれとして御飯は一人が良い」
「一人で御飯は趣味にしても、友達いないの気にするなら人付き合いより趣味を優先するから友達作れないのも理解した方が良いよ」
「友達居たことないから趣味より友達を優先する気にはならないなー」
「……当人がいいならいいケドさ。はぁ」
耳が見える長さの髪を今日はスーパーカー的な印象を受けるカッコイイ髪型にした鋭いまなざしの果恵は、声をかけてきたもののいつもと変わらないやりとりを終えると去っていった。
やりとりは月一くらいで繰り返すいつもと同じ内容で、ちょっと怖いのもいつものことだ。
小学校の途中から始まり、中学は一貫して、そして高校でも一人で居るのを本気で心配されてるっぽい。
わざわざ僕が食べ終わるの待って話しかけてくれるの有難い。
でも話題は提供してくれないと僕のコミュ力じゃキャッチボールが続かない。
僕の生活はシンプルだ。
日中は学校で授業。
夕方は≪果てへと至る修錬道≫で師匠の指導を受けて修錬。
その後は家で御飯・課題・睡眠でシメ。
つまり話題がない。テレビとかネットとか流行り物に触れる時間はない。
近場のダンジョンは中高生でもダイブ可能なので話題になるのかもしれないが、≪修錬≫を冠するダンジョンは他のダンジョンと別物だし、僕は≪果てへと至る修錬道≫一筋なので他所のダンジョンはよくわからない。
今朝のヤベー人達に関しては人が居るところで下手なこと言って公権力側のヤベー人達に目を付けられたくない。
何か提供できるような話題はないものかと来月に備えて考えていたら、果恵は月一くらいで話しかけてくれているのだと今更気づいた。気づいたというか正しく認識したというか。さっきも月一だなーって思ってたし。
そういえば果恵は愛染のことも弁柄のことも知らないから、彼女にとっては僕は家に帰っても一人なのか。そりゃあ心配にもなる。養母さんの実子である彼女と血縁関係はないが、一応今の親は同じなのだし。
昔は僕も普通にみんなの中で遊んで、もう少し果恵とも接点あったよな。
なんで減ったんだっけ……なんか、彼女に睨まれるようになったのは覚えてる。
同じくらいにあんまり人に話しかけられなくなったのも覚えてる。
学校内に限った話ならいじめだなで済む……学校の外でも人に話しかけられなくなったんだっけか。
知らないうちに呪われたのかな。
ま、何でもいいか。人付き合いの少なさが理由で困ってるわけでもない。友達が居なくて気にしてるのもそれが原因でトラブルに巻き込まれないかが問題なのであって、現状では悪目立ちもしてない。
とりあえず今は午後一の体育のために余裕をもってさっさと着替えよう。
体育は体を傷めないように気を付けて軽く流す。
体を作るのが目的なら、全てを僕に合わせてメニューを組み立ててくれる師匠や愛染の指示に従う方が無駄がなく質も高い。
ダンジョンダイブに積極的か、消極的もしくは全くダンジョンに入ったことがないかに二極化する傾向にある生徒たちを指導するカリキュラムでは、どちらにも属していない僕は真面目にやっても意義がほとんどない。
ダンジョンダイブで積極的に“レベルアップ”と呼ばれる肉体の強化を行っている層と比べると、僕の身体能力は何の強化もしていないのと変わらない。
≪修錬≫を冠するダンジョンにいくらダイブしてもレベルアップはしないという調査結果があり、実際に僕もレベルアップを実感したことはない。
逆にダンジョンダイブに消極的だったり全くダンジョンに入ったことのない層というのは、日常生活における運動量という点で僕とは明確な違いがある。
そういう人達は端的に言えばインドア派で、体を動かすこと自体に慣れていなかったりする。
レベルアップ組のカリキュラムを僕の身体能力でこなすのは物理的に不可能で、インドア派のカリキュラムでは負荷が足りない。
不適当な授業を真面目に受けても得るものがない僕は、学校の体育を真面目にやる理由がない。
完璧な理論武装を内心で整えてインドア派に合わせて準備運動をしたりだらだらと走ったり、居心地のいい場所で座り込んでサボる。
十月の晴天とあって風が吹かなければ陽気で心地好く、いつの間にかぼんやりしていたら突然悲鳴が聞こえてびくっとした。
視線を周囲に走らせると種馬ンのハーレムメンバーが叫んだらしかった。
ああ、悲鳴じゃなくて歓声だったのか。種馬ンがなんかカッコ良かったのね。いつものことだ。
友達は別に欲しいと思わないけど、人生のどこかで一回くらい一対一の結婚はしてみたいかもとなんとなく思った。たとえ機会があったとしても種馬ンみたいなハーレムは刺されそうで無理。