02-13
二月十二日。人生で三度目の遠征に出発。
右上腿のプロテクターが壊れたのを忘れていたが、昨日の朝に愛染が指摘してくれて急いで予備のプロテクターを魔具化しておいた。
しかし、壊れたのが右上腿で良かった。左上腿の[箱段]だったらなんて考えたくない。
[箱段]がこんなに有能だって知ってたらプロテクターの魔具化なんかに使わなかったんだけど、二つ目拾えてないんだよなあ。≪[融合]の【神壇】≫でアクセサリーに移しちゃおうか。
今回の遠征で似たような魔具を拾わなかったらそうした方が良いかも――
あ、あー。人生二回目の遠征で拾った魔具がどういうのか調べるのさっぱり忘れてた。もしかしたらもう持ってる可能性すらある。
はぁ……まあいいか。≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫は壊さないように気を付けつつ、それで動きがおかしくならないようにも気を付けて行こう。
人生二回目の遠征である前回とは違い、レベル一≪武装人形≫のエリアは[隠密]頼りで駆け抜けた。予定通りウォーミングアップはレベル二≪武装人形≫相手に開始。
今回の遠征の主目的は魔術そのものの習熟と、叶うならば銀の槍持ち≪武装人形≫との再戦がしたい。あの≪武装人形≫がオンリーワンの個体という可能性もないわけじゃないが、似たような奴が居ないと決まったわけでもない。
あの≪武装人形≫が居た辺りをうろつけば他に同じようなのが居るか居ないかはわかるのだし、細かいことは考えるだけ時間と労力の無駄だろう。
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫は使わず、≪[無尽]の【魔本】≫を手にできる限り魔術だけでレベル二≪武装人形≫を壊していく。なんとなく、前よりも魔術を扱いやすくなっているような、そうでもないような。
遠征前に間に合わせのつもりでプロテクターの魔具化に使った[喞筒]の魔術の使い勝手がいい。
喞筒ってなんだと思って調べたらポンプのことだと知り、じゃあ[造水]となんか相性良さそうだしと雑に決めたのに……狙って水をかけるのがこんなに楽になるとは予想以上だ。
そして、水をかける事が出来たら、その水に[低調]をかければレベル二≪武装人形≫くらいならターキーショットも同然だ。七面鳥なんて銃で撃ったことないけど。
[造水]と[喞筒]と[低調]のコンボはだめだな。効けばそれで片が付くくらいに便利だ。
魂に刻まれた技術の痕がそれぞれある程度の規模になったら封印しないと、魔術の魂象が遠のく。できれば多くの魔術を同程度で維持し続けた方が魔術の魂象は得やすいって≪魔術道≫の師匠がくれたアドバイスのメモに書いてあったし。
そうなると、<呪術>系ばかりでもちょっと宜しくないかもしれない。
今更ながら気づいた点を確認すべく手近な小部屋で[歩哨]に警戒を任せて自分の魂を確認する。
うーん……魂に刻まれた技術の痕で魔術に類するものだと、すでに魂象になっている[隠密]が飛びぬけていて、かなり差があって<呪術>系のアレコレの割合が高めかもしれない。次いで<召喚>と<生成>。
魔術じゃなくて<呪術>が魂象になっても凹みそうだし、ここは念には念を入れて[喞筒]の習熟が他のと並んだ辺りで<呪術>を控えよう。
<生成>は気にするほどじゃないが、<召喚>は……愛染、弁柄、躑躅を考えるとどうしようもない。次に得る魂象が<召喚>にならないよう祈るだけだ。
レベル二≪武装人形≫相手のウォーミングアップに戻って数体を仕留めた。
自分で作った魔術だと[誘導弾]が秀逸だなあ。込める魔素の量で威力調整も任意とあって、牽制から止めまで活きるシチュエーションが幅広い。
レベル二≪武装人形≫くらいじゃそこまで硬くないのもあって、[貫通弾]の出番が少ない。盾持ち相手に盾の上から致命傷を与えるのが一番の活躍だ。
[炸裂弾]はちょっと僕には扱い難いものになった。
相手の体表で弾けてもイマイチ効きは良くないせいで、体内に弾体が留まるよう威力調整する必要がある。戦闘中の一瞬に丁度いい威力を判断するのは僕にとって容易じゃない。
補助用の魔術だと、[魔素体探知]は伸びしろに期待している。
どうも僕の習熟が足りていないのか、こっちで相手の位置を把握できるのと同じように相手も僕の位置を把握できてるっぽい。今のところは奇襲をかけるのに向いていない。
まあ、気づかれないようにを意識して使っていけば改善されていくだろう。
主要通路近辺の狭い範囲とはいえど、探し歩く手間と時間は無視できない。それを減らせるのはとても大きいので今のままでも問題ないっちゃ問題ないし。
足止め系は[粘着空間]がひとつ抜きんでていたが、[造水]と[喞筒]を絡めた[フリーズ・スリップ]が一歩劣るところまで追い上げた。
何もないより水があった方が凍り易いという認識の為だろう。
ふと閃いた。[造水]と[喞筒]を参考にして[放水]の魔術とか作れないかな。試してみよう。
そんなこんなで人生三回目の遠征初日終了。




