02-06
レベル二≪武装人形≫なら水撒いたり砂撒いたりで足元を崩せると実証できた。
次はこれからを見据えて、≪武装人形≫が靴を履いて水や砂じゃ転ばなくなった場合を考えてみる。
まずは小部屋で安全を確保。ダンジョンに入る際に身に着けている魔具を順に確認していけば、搦め手として使えそうなのは見事なまでに<呪術>に分類される魔術ばかりだった。
<呪術>ではないもので強いて言えば≪[空気][寝具]の【チェーン】≫で作った空気製のマットを障壁代わりにするとか、≪[洗浄][水泡]の【ピアス】≫の[水泡]なら水や砂より滑って転びやすいかもしれないくらいの応用しか思いつかない。
他には……≪[装甲]の【ライディングパンツ】≫は甲を装うってくらいだしあんまり自分から離れたところに展開できない印象を受ける。というか身を守るのにこんな使い勝手の良さそうな魔術の存在を忘れて放置してたのか……。
今身に着けている魔具は、ほとんどが市販品のプロテクター類を魔具にするため『これ使えるかもしれない』と感じた魔術を込めただけ。
半年前の僕は<呪術>を積極的に試したりもしてなかった点を鑑みれば、使い勝手を把握していないのは仕方ないと言えば仕方ない。
[装甲]に関しては遠征しなければ防御面に不安がなかったから必然ということで。
<呪術>そのものは悪くない。
[錯行]なんてレベル一≪武装人形≫を手早く仕留めるのに凄まじく使い勝手がいい。
[惨刑]だって、ここぞという時に[金剛]と合わせて全力を込めればなかなか悪くない。
それに、今手元にはないが自分自身を対象として発動することで[肉体強化]とは別で身体能力を増強したり身を守ったりできる、ゲームなんかだとバフと呼ばれる類の<呪術>もある。家に有ったかは分からないけど。
しかし、攻撃的<呪術>というのは同格を想定すると頼るのは危うい。
ゲーム的に言えばデバフに相当する攻撃的<呪術>、俗に言う<呪い>は相手の抵抗力をねじ伏せなければ効果は何も現れない。
オールオアナッシング。
単独行動中のここぞというところで抵抗されてしまうと、発動に意識を割いた分自分の方が隙だらけになってしまうハイリスクな手札として扱わざるを得ない。
手持ちの魔具でいい案を思いつけなかったので、搦め手に使える魔術はあったかなと≪[無尽]の【魔本】≫を開いてみる。
今求めているのにぴったりな魔術が三つあった。
足元を凍らせて滑らせる[フリーズ・スリップ]。
躓くように段差を作る[ノックアップ]。
なんかねばっとして動きにくくなる[粘着空間]。
前後にある魔術や注釈を見るに、いつだか魔術のみで≪実践道≫へ繰り出した際に魔術のみで立ち回るには足止めやらが足りてなかったため作ったもののようだ。
うん。思い出した。あとノックアップはできちゃった的意味合いの英語のスラングでもあるのを、どこの誰を妊娠させたのかと愛染にからかわれた記憶と一緒に思い出してしまった。
ちょっと居心地の悪くなる記憶は脇に置いて、それよりも重要なのがその三つの魔術と並ぶページに[封入弾]という魔術が作ってあったこと。
注釈によると、[フリーズ・スリップ]、[ノックアップ]、[粘着空間]の三つを位置指定で発動するのではなく、僕の技術で位置指定できるよりも遠くに発動できるように射出するための魔術らしい。
自分で作ったもののはずなのに注釈見ないと細かいことを思い出せないのはなんでなのか。
この[封入弾]は、もしかしたら魔具に込められた<呪術>の類も射出できるんじゃないだろうか。そうなると、≪武装人形≫を直接対象にして<呪術>を発動するよりも抵抗を受けにくいんじゃないだろうか。
でも[錯行]の対象を僕にしたときと同じように、[封入弾]そのものが斜めに飛んだりしそうだ。
なにか、[封入弾]に込めた<呪術>が[封入弾]をぶつけられた相手に影響を及ぼす一手間が要りそう。いや、[封入弾]を対象に<呪術>を発動するわけじゃないなら[封入弾]が斜めに飛ぶことはないな。
悩んでも仕方ないのでとりあえず試してみた。
まず、[錯行]を[封入弾]で飛ばしても斜めに飛んだりはしない。
でも≪武装人形≫にぶつけてみてもなんか真っすぐ走ってるのか斜めに走っているのかは微妙。
何回かためしたところ、微妙に効いているときがないわけでもない。
十の威力で発動して成功すると十全部の効果が表れている普段とは違い、完全に抵抗をねじ伏せている訳じゃなく十の威力で発動して一か二くらいは効果が表れている。
[封入弾]が当たって弾けることで≪武装人形≫の周囲にぶちまけられた<呪術>が、どういった経緯により≪武装人形≫に影響を及ぼしているのかよく分からない。気になるので遠征を終えた後に≪魔術道≫でちょっと調べてみよう。
[フリーズ・スリップ]、[ノックアップ]、[粘着空間]の三つを試して順当に使えそうだと判断。
でも≪[無尽]の【魔本】≫に書き込んだ術式は≪[無尽]の【魔本】≫を手に持って魔素を込めないと発動できないのがボトルネックだ。
[低威力固定誘導弾]で戦力判定をしていたのは余裕があったからこそで、ブックバンドで胸元や腰元に固定すると≪[金剛][惨刑]の【槍】≫を振るう邪魔になる。
まだ魔器である魔本なしの魔術は実戦に耐えられない程度の技量でしかない。術式を簡素化することで魔本なしに発動できないかを模索……するのは時間がかかりそうだしこれも遠征を終えた後の課題にしよう。
あれこれ試している内に今日の活動を切り上げる時間になっていた。
小部屋の安全を確保して≪[歩哨]の【メガZIP】≫で[歩哨]を発動し、<生成>された半透明の幽霊みたいな人型のナニカに見張りを任せたところ、その没個性というか自我の薄さが気にかかった。見た目的に薄いのもちょっと気になる。
愛染、弁柄、躑躅は人そのものの自我を有しているのに[歩哨]で<生成>した見張りは会話とか成り立たないのは不思議だ。
もしかしたら見張りだけを任せる存在にそういう人間らしさを求めていない僕の意識が関係しているのか。
あー……ちょっと気になったけどもう眠い。ぱぱっと御飯を済ませて寝よう。
遠征三日目終了。
≪[空気][寝具]の【チェーン】≫
§それはチェーンである§
§それは空気である§
§それは睡眠時に用いる§
≪[洗浄][水泡]の【ピアス】≫
§それはピアスである§
§それは汚れを洗い浄める§
§それは水である§
§それは球状の薄膜である§
≪[装甲]の【ライディングパンツ】≫
§それはライディングパンツである§
§それは護る為の板である§
≪[無尽]の【魔本】≫
§それは魔本である§
§それは尽きることが無い§
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫
§それは槍である§
§それは金剛である§
§それは惨たらしい刑罰をもたらす§
≪[歩哨]の【メガZIP】≫
§それはメガZipである§
§それは武装している§
§それは見張る§