02-01
十月に思いついて始めた、一ヶ月に一回の初期装備での≪果てへと至る修錬道≫挑戦も五回目。
武器は相変わらずホームセンターに売ってる丸棒に手を加えたお手製の棍でも、精気による[肉体強化]の扱いが上手くなったことで≪武装人形≫を壊しきるのに分単位で計るどころか数合で足りるようになった。
時間的には十月には三十分かかってたのが、二月になって数秒から数十秒へ短縮されているのには成長を感じる。
反面、[肉体強化]を活用すると初心に返れなくなり、帰り道に限定して[肉体強化]禁止の制限を増やすことで帳尻を合わせてるのは本末転倒気味な座りの悪さがある。
横道に入って二体を同時に相手取ったりもしたけど負荷の種類が違うと感じたので、そっちは万全の状態の修錬でボチボチ進めている。
僕の肉体で発揮できるスペックを安定して発揮するための[肉体強化]ナシだと、僕の見た目相応の身体能力を常に発揮できるはずもない。当然、往路での疲労分は身体能力が低下してるわけで、帰り道はもちろんボロボロになる。
技術的に成長はしていても、お手製の棍で≪武装人形≫を壊すには物理的な破壊力の限界があるので仕方ない。力のかけかた間違えて、途中でお手製の棍をへし折ったのは忘れない。
「はー生き返る」
≪果てへと至る修錬道≫のエントランスホールに着いたら精気禁止の制限も解除というルールだから、[自己流応急処置]の魔術で擦り傷や打ち身を自分で治す。
精気を使って自分に発動する分には魔術式が要らず、何も考えたくないほど頭が疲れていても差し障りはない。魔術の修錬になっているのかは微妙なのはささやかなデメリットか。それだって精気の修錬にはなっていると考えればデメリットと言うほどじゃないな。
「おつ」
「うーっす」
≪魔術道≫の扉から出てきた果恵に短く労われたので返事をしておく。果恵もすっかり≪果てへと至る修錬道≫に入り浸りだなー。
「なに」
「なんか気になったんだけど、頭回らないから後で思い出したら言うー」
果恵の『なに』にもやっと慣れて怯えずに返せるようになった。
僕が何か言いたそうだったり変な顔してる理由を訊いてるだけだと当人に教えてもらい、こっち見るな的な意味合いで受け取ることはないと自分に言い聞かせ続けた甲斐がある。
「マゾいヤツ、今月はやるの早かったね。なんかあるの?」
御飯を食べてる最中に意識が戻った時、果恵が対面に座ってるのももう慣れた。
果恵の方も≪果てへと至る修錬道≫から帰宅する途中に僕の意識がどこかへ行ってまともに会話が成り立たなくなり、御飯の途中で意識が戻ってくるのに慣れたようだ。
「せっかくの冬休みだし二月の分は早く終わらせて、泊りがけで≪果てへと至る修錬道≫の奥を目指してみようと思って。日曜の明日は≪実践道≫で軽く流して、月曜の三日からとりあえず一週間を目処に≪果てへと至る修錬道≫に潜る予定」
「ふーん。あんたも遠征とかするんだ」
「遠征……遠征なのかな? 果恵はダンジョンで遠征したことあるの?」
断り切れなくて知り合いとダンジョンへ行くこともあるとか、前に聞いた気がする。
ああ、そうだ。今日の帰りにエントランスホールで気になったのこれだ。
最近は≪果てへと至る修錬道≫で見かけることが多いものの、友達付き合いとか大丈夫なのかな。
まあ、前も今も果恵の生活サイクルなんて知らないんだけど。
「遠征は絶対しない。普段まともな人でもダンジョン泊なんて何されるかわかんないし。ママの知り合いのプロの人達も『ダンジョンの遠征に軽い気持ちで参加しちゃいけない』って皆言ってるし」
「≪果てへと至る修錬道≫での遠征と他所のダンジョンでの遠征って別物だもんね」
≪果てへと至る修錬道≫での遠征はソロ登山みたいな自分だけでどこまでやれるか試したい感じ。
他所のダンジョンの遠征だと南極地域観測隊とか遠洋漁業とか潜水艦乗りみたいな集団行動を前提にした仕事って感じ。
僕は他所のダンジョンの遠征なんてしたことはないので完全に想像だけの比較だ。
ついでに≪果てへと至る修錬道≫だと死ぬまで突き進むなら帰り道を気にしなくていい。なお、死ぬ瞬間まで向上心があるものとする。向上心なくしたら≪果てへと至る修錬道≫でも本当に死んでしまう。
「前にも遠征したことあるの?」
「遠征のつもりで試したことはあるよ。中学の最後の夏休みだったかな。武器は今でも使ってるくらい良いやつだったけど防具は間に合わせだったし、自分で怪我治す方法がなくて全然深くまで進めなかった。十日くらい潜るつもりだったのに実際は二日もかからずエントランスホールに戻された」
多分死因は失血死だったんじゃないかなと思う。最後の方はふらふらし過ぎて記憶もあやふやなくらいだった。
あと“中学最後の夏休み”って、中学二年から三年に進級する期間の夏休みなのか、中学三年から高校一年に進学する期間の夏休みなのか。日本語ってムズカシイ。
「他のダンジョンには行ってみたりしないの?」
「うーん……≪果てへと至る修錬道≫の師匠達や愛染には一人前になるまでは他所のダンジョンは行かない方が良いって言われてるし、正直他所のダンジョンに大した興味もないし」
正確には、ダンジョンダイブが楽しいって言うよりも≪果てへと至る修錬道≫で修錬するのが楽しい。
「ふーん」
果恵が訊いてきたのにさっぱり興味なさそう。でもこの流れなら訊いてもきっと怒られない。
「果恵は最近≪果てへと至る修錬道≫に居るの結構見るけど、友達と遊んだりとかしてるの?」
じっと視線を向けられる。イエスでもノーでも『は?』でも何かしらの言葉がすぐに返ってくると思ってた所為で黙られるととても居心地が悪い。
「べつに。フツー」
「あ、はい」
訊かなかったことにしてもう部屋戻って寝ようかと悩み始めたら、それだけ言われた。
なんか機嫌悪そうだ。どこで何を間違えたのか。それとも僕の考えすぎなのか。
答えは出そうにないので今日はもう寝よう。




