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タマショックから始まったダンジョンの存在する現代生活  作者: 工具
01_自主的縛り人生でハクスラ
30/68

01-29

 通学路が違うので先に出る果恵(かえ)を見送り、僕は弁柄(べんがら)と軽く約束組手をした。

 前感じた通り弁柄べんがらの方が上手いとすぐに確信した。指導を受けるつもりで取り組んだら、終わったところで弁柄(べんがら)がちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。()き。


 汗を拭いて着替えを終えていつもと同じ家を出る時間には走り始めるのに丁度いい体が出来ていた。

 弁柄(べんがら)のこの意識しようとしないと気づかない配慮がすごい。明日からこの時間帯の管理は弁柄(べんがら)に任せようかな。




 何事もなく授業を受けて放課後になりさっさと帰宅。

 用意を整えて真っ直ぐ≪果てへと至る修錬道≫へ。

 今日は≪刃器道(じんきどう)≫の日だ。


 ≪[呼応]の【短剣】≫を右手に緩く握って構える。

 目の前に思い描いた敵に触れる瞬間だけ、程よく握りに力を籠める。

 前後左右に軽いステップを踏みつつ体の各所の関節を締めないように、居付かないように気を付ける。


 普段のそれらに加えて、今日からは昨日掴んだ精気を扱う感覚も意識する。特に呼吸。


 集中しながらも視野を広く保っていると、気づけば目の前に描いていた仮想敵が白くぼやけた人型をとってイメージよりも遥かに鋭く突き込み、撫でるように切りつけてくる。短剣の扱いが僕の思い描ける一段上の動きを見せる。


 ≪刃器道(じんきどう)≫の師匠と切り合い、いつもと同じく血達磨にされて失血死したので直後にきれいな体で復活。

 師匠達に模擬戦の相手をしてもらった時に防具が壊れないのは温情なんだろうなあ。ゲーム的に言う当たり判定が僕の身に着けている防具に有っても師匠達なら武具なんてないのと同じに切られたり砕かれたり射抜かれたりするし、その度に防具を新調する破目になる。ご配慮下さりありがとうございます。


「ふむ。精進しとるな」


「ありがとうございます」


 ≪刃器道(じんきどう)≫の師匠に端的に褒められた。いえーい。


「次は長物を相手にしてみるかね」


「はい。よろしくお願いします」


 休憩を挟んで両手剣を持った師匠と切り合う。

 創作物によくある使う人と同じくらいの長さに幅も人が隠れるような物ではないが、刃渡り一メートルで身幅が指三本分でも短剣で立ち向かうとなるとまるで届かない。

 こういう場面での短剣は防具と同義だと教わっているのでただただ()なして弾いて避け続ける。集中がぷつっと途切れて呼吸と精気の循環が一瞬乱れたところですぽんと首を飛ばされた。


「昨日の今日で悪くない」


「ありがとうございます」


 褒められてうれしい。でも五体満足で復活しても精気の消耗はそのままなのでお礼に力がない。


「坊主なら自分で得物を振ってみれば直ぐに上手く対処できるだろう」


「そういえば、ここだと短剣しか習っていませんね」


「やってみるかね」


「よろしくお願いします」


 そんな訳で刃渡り七十センチメートル程だという練習用の剣を借りた。

 握り方すら知らないのでそこから教えてもらう。


 師匠と対面で、師匠と並んで、師匠の後ろで。位置を変えつつ師匠を手本に延々と素振りを繰り返す。

 振っている内に自然と思考が単純化されていく。より効率よく肉体を動かし、より正確に師匠の動きをなぞり、それらを自分に出来て当然のものだと自分自身の根底に刻みつける。


 自分の中の根本的な部分に何かが染み込むこの感覚こそ、いつか愛染(あいぜん)の言っていた、技術が魂象(こんしょう)へと変化していく過程だ。

 剣を振ることに集中していた意識の片隅に漠然とした理解が芽生えた。


「ちと想定とは違うが、また一歩進んだな。今日はそれに集中しなさい」


「ありがとうございました」


 お礼を言うか否かという()に師匠の気配が消えた。

 なんだか昨日もこんな感じに≪特器道(とっきどう)≫の師匠が居なくなったなというのは脇に置こう。


 自分自身の最も深いところというか中枢というかなんというか、なにかがある。これまたいつかに愛染(あいぜん)が言っていた魂なのだろう。

 師匠に気を遣ってもらったのだし、魂と思われるそれに意識を傾けながら剣を振る。


 剣を振り、何かしらに気づいて修正すると魂の中身が増える……ような……。

 集中できなくなったのでもう切り上げようと決めたら、手の中に有った剣が消えて無くなった。練習用の貸出品は大体こんな感じなので今更もう驚きはないけど、毎度のことながら不思議だなとは思う。


 ≪[洗浄][水泡]の【ピアス】≫で身綺麗にしたら、胡坐をかいて左右それぞれの膝に上向きの手を乗せ目を瞑る。自分の内面と向き合うならこの格好だ。

 一度意識が離れたので少しばかり手間取ったが、自分の魂を捉えることができた。次からはもっと簡単になるだろう。


 魂の中身は愛染(あいぜん)に言われた覚えがある通りにいっぱいいっぱいといったところ。

 結構な占有率の、大きい塊がある。これは[隠密]だ。

 他にも細々した何かが詰まっている。細かくてなんなのか分かりにくいのは≪魂象(こんしょう)≫には至っていない技術や魔術かな。


 しかしこんな余剰スペースの狭さで魔術の魂象(こんしょう)なんて得られるのか不安になる。

 愛染(あいぜん)は確か、≪果てへと至る修錬道≫で修錬を続ければ良いって言ってた。でもどういう修錬で魂が大きくなるのか分からない。

 前にその辺のことを()いた時は答えてくれなかった気がする。今日()いたら教えてくれるかな。

≪[呼応]の【短剣】≫

§それは短剣である§

§それは呼びかけに応える§


≪[洗浄][水泡]の【ピアス】≫

§それはピアスである§

§それは汚れを洗い浄める§

§それは水である§

§それは球状の薄膜である§

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