01-27
本日の≪特器道≫での修錬はなんだかんだ延々と動いていたし、精気に関してももあれこれ試してみたりしたので消耗が激しかった。
端的に言えば、帰宅して上がり框に腰を下ろしたらもう人の形の泥みたいな状態だった。
「あんたいつもそんなんなるまでダンジョンに居るの?」
いつもと同じく気づいたら御飯を食べていて、いつもとは違って対面の席に果恵が居た。
「あれ……果恵どうしたの」
まだイマイチ頭が回らないので考えるよりも訊いてみた。
「はあ……本当に今まで気づいてなかったの……」
最近、なんか溜息吐かれるの多い気がする。
それはそれとして、果恵は愛染達と仲良くなってたみたいだし普通に遊びに来てたとかかな。でもこんな時間に家に居なくて養母さんに叱られ――叱られることはなくともあとでタコみたいに絡みつかれて放してもらえなくなるんじゃないの。
「奥様の勤め先に集団の急患が運び込まれ、それが近辺では高レベルのダンジョンダイバーだったため奥様は臨時出勤せざるを得なくなったそうです」
僕の疑問を汲み取った愛染が教えてくれたってことは僕が覚えてないだけで果恵が一通り説明したあとっぽい。
「あちらのお宅よりもこちらの方がセキュリティが強固なので、奥様が夜間の臨時出勤をされる場合は果恵さんはこちらへいらっしゃることになっています。この件について伺った際には若旦那も正常な判断能力を持っている状態で了承されました」
そう言われると思い出した。家の事は万事を愛染に任せてるし僕が何かするわけでもないしでオッケーって言った。
でも果恵も律儀にこっち来なくても友達の家とかカレシの家とか泊りに行けばいいのに。
「若様、そこら辺は繊細な部分なので口に出さなかったことに二重丸あげましょう」
「あざーっす」
躑躅が二重丸をくれるらしいのでとりあえずお礼を言っておく。
愛染も弁柄も躑躅も果恵も僕が何を考えたか理解してるみたいだけど言ってはいないのでお目こぼしを貰えた。皆エスパーかよ。
「エスパーじゃないからね」
果恵さんエスパーじゃん。なんであえてエスパーなんて単語使ったのにぴったり言い当ててくるのか。
「何不思議そうな顔してんの。前に同じようなタイミングであんたが自分でエスパーって使ってたんだからね。何回同じようなやり取りすんのよ」
大したことのないやり取りを即座に思い出して会話に盛り込む。これがコミュ力か。僕にはできない。
「そうだ。果恵に訊きたいことあるんだよ。愛染、持ってきてくれる?」
訊きたいことがあるなら訊けばいいくらい言われるかと思ったが、何も言われなかった。愛染が戻ってくる前に御飯食べちゃおう。
「若旦那、この三つですよね」
僕が晩御飯を食べ終わって弁柄が食器を下げたころを見計らい、愛染が魔具を三つ持ってきてくれた。
「ありがとう愛染。果恵さん、これらは日曜日の件のお礼にと見繕ったものです。気に入ったものがあったら持って行っておくんなせぇ」
「何その口調」
「気にしないでください」
愛染が魔具三つとそれぞれの魔術の内容を書いた紙を果恵の前に並べると、溜息は吐かれたが流してくれた。
悩んで選んだ魔具ではあるけど、これでお礼になるかっていうと果恵次第なのでびくびくしてる。
≪[人人]の【ピアス】≫
§それはピアスである§
§それは女性である§
§それは貴種である§
§それは仕える§
§それは多い§
≪[呪医]の【バングル】≫
§それはバングルである§
§それは呪術である§
§それは病気の診断をする§
§それは病気の治療をする§
≪[着料]の【シュシュ】≫
§それはシュシュである§
§それは衣服となる§
§それは衣服である§
§それは金銭である§
「……ピアスはいい。開けたくない」
言われて耳を見たら、確かに穴はない。ピアス好きじゃないのかな。僕は耳朶だと引きちぎられそうなので上側の凹んだ部分に左右一つずつ穴を開けてる。
「ちょっと性能下がっても良ければ別の形にもできるよ。中身の魔術は多分便利だし」
「いい。人型の<召喚>でしょ? 登録とか手続き面倒だもん」
それもそうだ。僕は大体愛染に任せて言われる通りにサインするだけなのでその辺り忘れてた。
「他の二つはこれだけだとよくわかんない」
[呪医]は外傷は無理だし魔術強度相応でしかないものの、説明書きの通り病気ならそれが分かって治せる。少なくとも風邪は一発で治る。
果恵は養母さんと一緒に暮らしてるし要らないかとも思ったが、自分でどうにかできて損はない。
[着料]はいつだか愛染にあげた[酒家]と同系統の、衣類に限定した取引系魔術。
魔化した貨幣なり貴金属や宝石を用意して衣類で欲しいのを求めると、対価が足りてるなら目の前にそれが現れる。
あと魔素さえ頑張って溜めれば一月に一回は魔素と交換で魔化された貨幣を得られる。被服費ってことだと思う。
布を対象に発動すればその布を服に作り変えることもできるので、人によってはとても便利に使える。愛染にも[着料]は一つ預けてある。
使い方を説明したあと何度か試して貰うと、悪くはなかったのかピアス以外の二つを受け取ってくれた。一安心。
――本日の風呂場での一幕――
「精気の制御を磨くならとても良いやり方があるんですよ」
「んあー? なに?」
「房中術って言うんです」
「ぼーちゅー? むし? なんで虫?」
果恵が来たので愛染は手早く僕の洗髪洗体を済ませ、何食わぬ顔で果恵を迎えたらしい。躑躅がにまにまと教えてくれた。あと房中術の修錬をする時は自分も呼ぶようにと。
≪[人人]の【ピアス】≫
§それはピアスである§
§それは女性である§
§それは貴種である§
§それは仕える§
§それは多い§
≪[呪医]の【バングル】≫
§それはバングルである§
§それは呪術である§
§それは病気の診断をする§
§それは病気の治療をする§
≪[着料]の【シュシュ】≫
§それはシュシュである§
§それは衣服となる§
§それは衣服である§
§それは金銭である§




