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【未完】タマショックから始まったダンジョンの存在する現代生活  作者: 工具
01_自主的縛り人生でハクスラ

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01-25

 毎週日曜の晩御飯だけでも家族そろって食べようねという約束をして最初の晩御飯に遅れかけたことで、養母(かあ)さんはたいそうお怒りであった。

 食後には≪[隠密]の【アームバンド】≫のせいで家族のスキンシップが足りなかった件も含めた説教を懇々とされ、僕のなけなしの良心もじくじくと痛んだ。


 指を一本立てて口の動きで“貸し”と伝えてきた果恵(かえ)の助力を得られなければ、暫くの間は≪果てへと至る修錬道≫への立ち入りを禁止されたかもしれない。

 果恵(かえ)からの借り一つってどんな形で徴収されるのか不安なので愛染(あいぜん)の力を借りて能動的に返済を……借金を返すために借金するみたいな構造……。

 果恵(かえ)はちょっと読めないが、愛染(あいぜん)なら悪質な取り立てはしないと信じてる。




 週が明けて月曜日。


 日中はちょっとびくびくしながら過ごしたけど果恵(かえ)に無茶なことを言われたりはしなかった。

 家に帰った後まともに施行する気力が有ったら、愛染(あいぜん)に相談して≪果てへと至る修錬道≫で拾った魔具からなんか良いのを選んで果恵(かえ)に献上しよう。恐らくそれで借りは返せる。返せるといいな。


 さて放課後になったし、果恵(かえ)の事は一旦棚上げして楽しい楽しい≪魔術道(まじゅつどう)≫での修錬だ。

 [隠密]が魂象(こんしょう)になって魔術の発動や行使を感覚的に理解できたので、魔術に対する苦手意識はすっかりなくなった。むしろ得意で性に合ってると感じる長柄よりも先へ進めてる気がする。


 今は魔術以外の修錬は精気の扱いで足踏みしてる。

 精気か……。


 僕の精気は即ち僕という物体の情報を保有している魔素なわけだ。

 その精気を使って≪[鑽鉄(さんてつ)][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫で手足を作るなら、僕の手足を作り易かったりするのかな。

 そしてそれができたなら、僕という要素で僕との繋がりがあるその手足を制御するのはやり易いんじゃないかな。

 これも試さないと。


 ささっと帰宅して着替えて≪果てへと至る修錬道≫に飛び込んだらしっかり防具を身に着ける。

 ≪魔術道(まじゅつどう)≫の扉を潜り師匠のくれたペーパーテストを珍しく一発で全問正解して、さあ修錬だ。修錬というか、魔具の研究というか、ぶっちゃけ魔具で遊ぶっていうか。


 今日はあれこれやりたいことがあって悩んだのは一瞬。とりあえずメモを整理してメモの古い順にやっていこう。

 ≪[無尽]の【魔本】≫をぱらぱらっとめくって済マークを付けてない一番古いメモを見つけた。

 日付は半年ほど前のもの。『防具を魔具化するにあたり、とりあえずで封入した魔術の試用』という一文だ。


 付記されてるチェックリストを確認すると防具類だけでも全身で十八個も魔具を身に着けてるのに、そういえば普段使いしてるのは一、二、三、四、五……五個だけだった。三分の一以下。

 でも武器類は七分の六で魔術をちゃんと使ってる。≪[無尽]の【魔本】≫と≪[金字]の【ペン】≫は本来の用途ではないけども、武器類に関しては魔術をほとんど使ってない≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫の扱いを優先して改善すべきだ。メモしておこう。


 ちょっと脇道に逸れかけたがメモの整理も終え、漸く≪[鑽鉄(さんてつ)][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫の出番。

 試したいのは大雑把に分けて外骨格の形成と[骨身]の魔術の応用の二つだ。


 まずは外骨格。身体の表面を覆う形に構築はできたが重すぎて実用性がない。

 これこそ発想の元になった強化外骨格と同様に操作や駆動の為の他の魔術が必要だなぁ。

 補助動力もなしに西洋甲冑を着こんでいた昔の人はすごい。昔の人に限らず、現代でも西洋甲冑を趣味で着てる人達は居るんだっけ。そういう人達のコミュニティでも見に行けば何か得られるかもしれない。メモしておこう。


 次は[骨身]の魔術に、もっと幅広い意味合いを持たせて使ってみる。魔術の応用編とでも言うべきか。

 とりあえずで試してみたら以前はピクリとも動かなかった鑽鉄(さんてつ)製の右手が痙攣したようにピクピク動いた。つまり方向性としては間違っていない。少なくとも試す前よりはどこかしらに進んでいる。


 しっかり動かせるようにしてみようと試行錯誤を開始。

 込める魔素の量を変えてみたり、魔素と精気で比べてみたり、鑽鉄(さんてつ)という枠からはみ出さない範囲で成分を変えるように意識してみたり、構造も精巧に人間の手を模したり逆に簡易化してみたり。


 途中で発動の段階では魔素を使い操作する段階では精気を使う方が適していると気付き、肩から先の両腕を作って日常動作はできるだろうというくらいでちょっと満足して集中が切れた。

 遊んでる気持ちも強かったが魔素や精気の消耗に頭を使った疲労感が合わさり、いつもの修錬をこなしたのと同じくらいには消耗している。


「やっと休憩?」


「ぅおぅ」


 全く気付いていなかったので、後ろに立っていた果恵(かえ)に声をかけられて変な声が出た。


「無視されてるのかと思ったら完全に気付いてなかったんだ」


「ええ、はい。その通りです」


 驚いたのが後を引いて地面に座ったままびくびくしながら答えたら溜息吐かれた。

 更に怯えますけどよろしいか。


「はぁ……まあいいケド。もうあんたも帰りなよ」


 果恵(かえ)は時間を確認したのか端末を見て、なんかカッコイイ仕草でくるっと反転すると出口の扉を潜って去っていた。

 なんか用があったのかな。悪いことしちゃったかも。

≪[隠密]の【アームバンド】≫

§それはアームバンドである§

§それは人の知覚から隠す§


≪[無尽]の【魔本】≫

§それは魔本である§

§それは尽きることが無い§


≪[金字]の【ペン】≫

§それはペンである§

§それは金泥で書かれている§

§それは金色の文字である§


≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫

§それはボウである§

§それは薄い織物である§

§それは軽い織物である§

§それは金属線である§

§それは熱する§

§それは赤外線である§

§それは体温の変化を表した線である§


≪[鑽鉄(さんてつ)][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫

§それは上腕部プロテクターである§

§それは鑽鉄である§

§それは四肢の骨である§

§それは骨と肉である§

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