01-22
実に久々の≪実践道≫の日だ。
先々週は魔術の見直しと実家に顔出すため≪実践道≫での修錬を中止した。
先週は……先週の日曜は養母さんと果恵を≪果てへと至る修錬道≫へ連れてくるのに使ったけど、土曜はいつもと変わらず≪実践道≫に来てたな。
別に久しぶりって程でもなかった。
久しぶりではなくとも今月に限れば≪実践道≫での修錬はぐいっと減ってる。そこのところはしっかり意識して鈍ってる前提で居た方が良い。
そろそろ横道を辿って対複数戦闘の修錬も始めようかなと思っていたのはまた延期だな。普段と同じように一対一の奥へ向かう最短距離の主要通路から逸れないように、でも普段は控えてる強い武器を使って安全マージンを確保しよう。
こっちは本当に久しぶりの≪[金剛][惨刑]の【槍】≫の出番だ。
防具は特に変える必要もない。インナーキャップにライディングスーツの上下とプロテクター一式で足は山林用の作業靴といつもの恰好。全部魔具化した物なので頑丈さに不安はない。
剥き出しの顔というか目鼻口はフェイスガードゴーグルで良いのが見つからないとどうしようもない。
向上心さえあれば≪果てへと至る修錬道≫内で死ぬことはないし、ゆっくり良いのを選べば良いさー。
フェイスガードゴーグルでふと閃いた。
≪[鑽鉄][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫を使って外骨格を身に纏うのはどうだろう。パっと思いつく範囲でダメそうなところはいくつかあるものの、思いついた以上はそのうち試しておきたい。
次の≪魔術道≫の日は明後日の月曜だったかな。やってみよう。メモメモ。
≪実践道≫の扉を潜り少し歩けばすぐに武装≪武装人形≫と遭遇。
いざ実戦。
左半身を前に、重心を右足に、槍を肩と同じ高さでほぼ水平に構え、武装≪武装人形≫の接近を待つ。
間合いへ一歩踏み込んで来るのに合わせ、半歩踏み込む。剣を持つ武装≪武装人形≫の右腕を一突きするのに合わせ、[金剛]と[惨刑]の魔術を同時発動。武装≪武装人形≫の体内で<生成>した金剛を弾けさせる。惨い。
≪武装人形≫は右腕と共に武器を失いすでに死に体だが油断はしない。間髪入れず、重心を揺らすように前後へ往復させて勢いを生みさらに半歩踏み込む。今度は胸元を一突き。再び内側から金剛を弾けさせる。惨い。
お。なんか落ちた。輪になってるチェーンがついてる洗濯バサミみたいな……なんだろう。
洗濯ばさみっぽいのを拾いながら思う。やっぱり武装≪武装人形≫相手に≪[金剛][惨刑]の【槍】≫は過剰だ。元の槍としての性能が高いのに加えて魔術が攻撃的だもんね。魔術の名前からして強そうだもんね。[金剛]って字面だけで強い。[惨刑]は字面だけで痛い。
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫は過剰気味でもこのまま武装≪武装人形≫相手に何度か体の調子を確かめて、問題ないならいつも使ってる武器を順に使ってみて扱いが鈍ってないか確認しよう。
実戦でやることじゃないのかもしれないとは思うものの、愛染相手にガチの得物振り回してコンディション見るのは嫌だし、師匠相手にそんなことするなんて敬意がない気がする。愛染も師匠達も気にしないんだろうなぁ。
昼をまたいでいくつかの武器を振り回した後、普段使いしてる内では最後になる≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫で≪武装人形≫を射倒し続ける。たーのしー。
手に一番馴染むのは長柄でも、使ってて一番楽しいのは弓かもしれない。……大差ないくらい全部楽しいな。弓は爽快感が強いのかな。一矢で仕留めるとすごくテンション上がる。
とりあえずの予定を消化し、特に思いつくこともないので≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫の実戦を続ける。
やっぱり広い射程を活かすのに、レーダーみたいな魔術を魔器なしで使えるようになりたい。いつだったか作ったのが一応あるし改良を続けていくしかないか。
ふと矢を二本同時に放とうとした瞬間、これがそうだと感覚的に理解した。
魔術を同時に二種扱う感覚。多分≪[無尽]の【矢筒】≫の[無尽]の魔術を発動するのと、意識しなくても使い続けている[隠密]の魔術を意識したタイミングが丁度重なった瞬間の感覚だった。
そうか。魔術を二種同時に使うのは、両手でそれぞれ物を掴む感じか。
今までその感じで同じ魔術を二つ使おうとしてた。それなら片手で二つ掴むのが同じ魔術を二つ一緒に使う時の感覚かな。
物は試しと自分と≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫にそれぞれ[隠密]の魔術をかけてみる。上手くいった。でも予想と違って、箸を二本一組使う感じではなくスプーンとフォークでサーバー替わりにする感じだった。対象が人間と弓で別物だったからかな。この辺は後で試してみよう。
一種の魔術を二つ同時に使う感覚と、二種の魔術を一つずつ使う感覚。実戦を重ねてこの二つをしっかり自分のものにした。
二種の魔術を二つずつ使う感覚もぼんやりとイメージできているので、そこまでは近いうちにたどり着けると思う。
問題は腕の感覚を基にしてる現状だと三つ目や三種目を同時に扱う感覚を想像できないことだ。僕に三本目の腕はない。魔具頼りなら三つ四つ同時に発動できるし、それをとっかかりにするしかないかー。≪魔術道≫の先は果てしない。
≪[金剛][惨刑]の【槍】≫
§それは槍である§
§それは金剛である§
§それは惨たらしい刑罰をもたらす§
≪[鑽鉄][肢骨][骨身]の【上腕部プロテクター】≫
§それは上腕部プロテクターである§
§それは鑽鉄である§
§それは四肢の骨である§
§それは骨と肉である§
≪[薄紗][熱線]の【ボウ】≫
§それはボウである§
§それは薄い織物である§
§それは軽い織物である§
§それは金属線である§
§それは熱する§
§それは赤外線である§
§それは体温の変化を表した線である§
≪[無尽]の【矢筒】≫
§それは矢筒である§
§それは尽きることが無い§
――本日の戦果――
≪[雪堤]の【グローブホルダー】≫
§それはグローブホルダーである§
§それは雪でできている§
§それはブロックである§
§それは滑り落ちる雪を堰き止める§
≪[羽軸]の【バレッタ】≫
§それはバレッタである§
§それは羽である§
§それは太い軸である§
≪[内示]の【ロザリオ】≫
§それはロザリオである§
§それは公にしない§
§それは示す§




