01-21
「目指せ百六十センチ!」
養母さんは精気を活用した肉体改造で身長を伸ばすという、人生における新しい目標を定めたらしい。
「私もここ通ってこのやり方の魔術勉強しようかな……」
野望に燃える養母さんを眺めていた果恵が、ぽそっと独り言みたいにこぼした。
今まで僕か愛染か躑躅しか入ってなかった≪果てへと至る修錬道≫の利用者が、人間に限れば三倍になるのかー。
愛染と躑躅は人型魔術生物なので人間とカウントするのは間違っているらしい。愛染に言われたことがある。
こうなると弁柄も連れて来ようかな。愛染に指導されて護身術頑張ってるみたいだし、家事が本分って言っても一人だけこっち来てないのが気になる。本人に訊いて意思を尊重しよう。
僕がなんか嫌だからで無理やり連れて来るのも本末転倒だ。
「これからのことは一旦脇に置いて今はお昼御飯食べよう。丁度良い時間だよ」
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫で箱段を作り出して、しまっていたバスケットを二つ取り出す。
それぞれ愛染・弁柄・躑躅三人の合作弁当と養母さん作の弁当だ。
全部合わせると、普段飲食しない愛染を含めて四人でも食べるの苦しくないかなって量がある。うちのが余ったら晩御飯にしよう。その時は家に居る弁柄と躑躅に晩御飯用意しなくていいって、愛染に伝言して貰わないとな。
「たっくんどーお? どーお?」
「美味しい。愛染達の料理食べ慣れてるのに美味しいとか養母さんの料理めっちゃレベル高かったんだなぁ」
「うへへへへー。崇め奉りなさーい。でもこれかえちゃんも一緒に作ったから半分ね」
「え、まじで?」
まじで? 語彙力無くなるくらい驚いたけど本当に?
人類に出来ることなら最高峰の水準で何でもこなす愛染が率いる橘家の台所チームや、肉切ってると落ち着くとかヤバイ理由で料理ゲロウマになった養母さんとタメ張るクッキングスキルをその年齢で修めてるの? 果恵さんヤバない? 生まれながらの鉄人だったりすんの?
「なに」
「なんでもないです」
猛禽類みたいな目つきで睨まれた。
しかも“なに”って今の絶対疑問符ついて無かったよね。なんで威嚇されたの。
おめーそんなナリで料理上手いとか家庭的気取りですかー? って感じに煽ったと思われたとか?
「かえちゃん照れてるー。ひゅーひゅー」
「ママうるさい」
え、いてこましたるぞワレって目つきで睨まれた今の照れ隠しだったんですか。分かるわけないよ。
「なに」
「なんでもないです」
こっちに怒りの矛先を向けるのやめて頂きたい。完全にとばっちりじゃないですか。
果恵さんによる八つ当たりを回避しなければならない以外は穏やかに昼食を摂って食休み。
食べてすぐ頭や体動かそうとすると効率悪くなっちゃうらしいので、食後は効率を考えないことをやるか座ってぼーっとするのが橘家の習慣。
短期目標をどうしようかなー。
≪魔術道≫の中伝認可を得て勢いがあるということでその先を目指すか。
他の中伝を目指して精気の扱いに集中してみるか。
中伝といえば、中伝の認可に伴い利用許可の下りた【神壇】も忘れてた。週末に時間とって愛染に話を聞いたり試したりしようと思ってたんだっけか。
食休みの間考えてみたが、結局は今までと同じように平日はローテーションを組んで修錬を積み、週末は≪実践道≫で修錬を積もうと決めた。
魔術は武器を扱うのに比べて苦手ではあるものの、一歩先に中伝になったので優先して時間をとるほどでもないだろう。≪実践道≫へ行く機会を減らすと日々のメリハリが足りなくなりそう。
思考に区切りをつけて周囲を見てみると、養母さんと果恵は再び自身の魔術修錬に戻っていた。
今日は≪魔術道≫でこんな感じにやってるって見せた後は、シメに≪実践道≫でも行こうかと思ってたんだけどどうしよう。
二人ともなんかもう≪魔術道≫から出る気なさそうだし気にしなくていいかな。これから通うつもりなら機会はいくらでもあるか。
じゃあ、僕は僕で自分の修錬に励もう。
予定だと明日は≪魔術道≫の日だったかな。予定を繰り上げて、今日の午後は≪魔術道≫で修錬して明日は≪特器道≫にしよう。
前に≪魔術道≫の師匠から貰った指南書だと、次のステップは魔術の同時発動だったはず。
最初は一種の魔術を同時に二つ発動できるように目指す。
その次は二種の魔術を一つずつ同時に発動できるように。
三種の魔術を三つずつ同時に使用できたら一区切りだったかな。
とりあえず一番使い慣れてる[隠密]でやってみよう。自分と愛染に同時にかけて……うん。魔術を二つ同時ってどうやるんだ?
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫
§それは上腿部プロテクターである§
§それは階段である§
§それは引き出しである§