01-15
今日は実家に顔を出す日だ。実家?
今住んでるのが生まれ育った家だし、養母さんと果恵の住んでる隣家で暮らしていた期間の方が短いけど今の親が住んでる以上は実家になるのか?
今僕の住んでる家もその家の裏にある祖父母が住んでた家も、今は確か養母さんがもともとの自宅と合わせて所有している。広い一つの敷地に家が三軒あるって状態のはずなので、本籍地って表現も合っていない気がする。
実家で良いか。
いや、僕の住んでる家と元祖父母の家は養母さんが維持管理の責任者でのまま、所有者は僕の方に移してくれてるんだっけ?
うーん。一回ちゃんと確認しておかないとだめだな。愛染に頼んでおこう。
そのためには養母さんと愛染を会わせないといけない。
そうするとどうやって人型魔術生物なんて<召喚>したのかを説明する必要がある。
つまり、もう結構長いこと養母さんに無断で≪果てへと至る修錬道≫へ通っていることも言わなければならない。
……家や土地の事を自分で直接養母さんに確認する方が面倒は少なそうだな。愛染にチェックリストみたいなの用意してもらおう。
実家に顔を出すのは午後になってからだ。予定のない午前は軽くトレーニングしておこう。昨日作った魔術を試すのに師匠に模擬戦をお願いするのが良いか。
[隠密]が魂象化したおかげか、魔術の感覚的な使い方が分かってきてる手応えがある。
理論先行で扱わざるを得なかったせいでイマイチ魔術に苦手意識を持っていたのを、この勢いで払拭してしまいたい。頻繁に使ってる魔術の内、簡単な魔術ならもう少しで魔器に頼らず使えそうな気がするし。
というか他の武器みたいな感じで魔術を使うのが楽しい。やっぱり自分は感覚派なんだと強く実感している。
昼前にトレーニングを切り上げて帰宅。ぱぱっとシャワーを浴びた。
ふへへ。≪魔術道≫の師匠に[隠密]を褒められたぜ。[隠密]の魂象をつかって逃げ回っていたら、より練度の高い[隠密]の魔術で忍び寄った師匠がおでこに花丸書いていったのは多分褒められたんだと思う。
うん。慢心よくない。十分喜んだんだから切り替えていこう。
「かーえーちゃん。あっそびーましょ」
「何してんの? 早く入りなよ」
「はい」
インターホン押して入れて貰ったら叱られた。
ちょっとテンション高すぎましたね。ごめんなさい。
「たっくんおかえりー。この親不孝者めー」
リビングに入ったら壁の陰に隠れていた養母さんに捕まって頭をわしゃわしゃされた。養母さんの腰まで伸びてる髪が顔に刺さったりくすぐったりであばばば。
果恵は僕の持っていた手土産が振り回される前に、箱をそっと持って行った。熟練の技を感じたわ。
「いやんたっくん頭つるつるー。ひわいー」
午前中にシャワー浴びた時、愛染が丁寧に剃って頭皮のケアもしてましたのでね、そりゃあツルツルでございますよ。しかし卑猥ではない。
「やだーたっくん筋肉ー。お腹とかばきばきなのー?」
頭を撫でまわすのに満足したら今度は体中をぺたぺたして、挙句Tシャツをまくって人の腹筋を撫でまわし始めた。今日は一段とスキンシップが激しいですねお養母様。
荒ぶる養母さんを鎮めて貰おうと果恵に視線を向けると、我関せずとばかりに積み上げてあるクッションの山に沈み込んでダイバー向け端末をいじっていた。
果恵もたまにダンジョンダイブするって言ってたし、普段使いの端末もダイバー向けの方に統合してるのかな。
「んー……よし。健康的で何より。気付いたら一人暮らししてるし全然顔見せないし、不健康そうなら家に連れ戻してやろうと思ってたのにー。ま、元気ならいっか。でももっとこっちの家にも帰ってきなさいよー?」
「はいすみません以後気を付けます」
「雑な返事しやがってこのーうりうりー」
あ、もしかして今ちょっと本気でイラってしましたか。胴体に巻き付けられてた腕の力がちょっと強くなって痛い痛い。あなたレベル高いでしょうにちょっと僕レベル一度も上がってないんで洒落で済まないだだだだ。
「誠意のない謝罪は許しませんからね」
「はい。ごめんなさい」
「よろしい」
言い訳に聞こえるのを承知で言いたいんですが、さっきのも本心で謝りましたからね。言いませんけど。ええ、言えませんけども。
それはそれとしてずいぶんと激しい歓迎でしたね。
「ママが子煩悩なの知ってて放置してたあんたの自業自得」
「エスパー?」
「ふっ。鏡見てくれば?」
鼻で笑うほどか。
「まあいいや。僕が持ってきたその箱の中身を知ればもっと僕に優しくしたくなることでしょう」
「ママ結構仕事先の人に貢がれてるから、箱でわかる」
「え、マジで?」
「ママ一人で他の人十人分とか仕事回してるらしいよ。田淵さん……運転手さんなんて、今じゃ運転するだけじゃなくてちょっと頼んだら大体のことやってくれるし」
なんかやべー人になってない養母さん。
「さてたっくん。おかーさんのことはいいんです。それよりも、ちょいちょいたっくんの家に出入りしたり玄関先の掃除してる女の人達はなんなのか聞かせてもらいましょうか」
いつもは真円かってくらいまん丸の目が半円になってる養母さんから目を逸らして咄嗟に出口を確認したら果恵が立っていた。
いや、果恵さんさっきまでクッションの中に埋もれてたじゃないですか。