01-09
夕方になってエントランスホールへ戻った。
魔術主体で戦う今日の修錬は終了。
エントランスホールと≪実践道≫を行ったり来たりあれこれ悩んでたらあっという間だった。
ああ、忘れないうちに欲しいと思った魔術をメモしておかないと。実際に今までメモすることも忘れてた。
レーダー的な魔術と、罠的な魔術と……あと何があったかもう思い出せなくなってる。思い出せたらメモしよう。メモとるのを忘れないようにメモでもしておこうか。
忘れたことはそのうち思い出すこともあるので一旦棚上げして、今日拾った物を≪[開示]の【神壇】≫で確認してしまおう。
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫で箱段を<生成>して放り込んでおいたものを順に取り出す。
ちぎれたキャタピラに見えなくもない板で作った簾みたいな二つ一組のやつ。
三メートルくらいのロープ。
簪に似てるけどなんとなく違う感じのやつ。
雑貨屋入ったら確実に見かける感じの水色のリボン。
縦一横二くらいの比率の長方形を煉瓦の壁みたいに並べたデザインのバッジかブローチかそんな感じのピンで留めるやつ。
全部で五個。
朝潜って夕方上がりの日程だし、あれこれ試してたにしては収穫が多い日だ。というかめちゃくちゃ多い気がする。
エントランスホールの外とつながる扉の両脇にある階段を上がり、いつもと同じく四つ並んだ【神壇】に一礼。
【神壇】は未だに一番左の≪[開示]の【神壇】≫しか使えないんだよな。それどころか≪[開示]の【神壇】≫と同じ形をしてるからほかの三つも【神壇】って呼んでるだけで、実際は名前も分からない。
≪[開示]の【神壇】≫を使えるようになったのが槍の基礎を身に着けたって師匠に認めてもらった時だから七歳になってすぐで、今が十六歳ってことは九年くらい【神壇】に関しては変化なし。
また何かで師匠たちに認められたらもう一つ使えるようになるのかな。最近は武器振り回しながら併せて魔術を発動していると何か掴めそうな気がしなくもなかったりするし、それが掴めたら師匠たちに認められないかな。ないか。
【神壇】に関してはいつものように心の中の棚にしまって、今日拾ってきたものが何か確かめよう。ででん。
≪[青苗]の【大袖】≫
§それは大袖である§
§それは苗である§
§それは青々としている§
§それは植え付けの費用を低利で貸す§
§それは収穫時に元利を回収する§
≪[太陰]の【索具】≫
§それは索具である§
§それは月である§
§それは太陽と対する§
≪[酒家]の【笄】≫
§それは笄である§
§それは酒を売る§
§それは酒を好む§
≪[検品]の【リボン】≫
§それはリボンである§
§それは商品を検める§
≪[壁書]の【ブローチ】≫
§それはブローチである§
§それは壁に書く§
§それは壁に書いたものである§
ダンジョンダイバー御用達の端末を出して、名前だけではよくわからないものを電子百科事典で調べる。早くダンジョン内でもネットに繋げられる端末が市販されないかな。
大袖。日本式の鎧の肩を守るパーツ。
索具。ロープ。
笄。髪型を整えたりする道具だったけど時代で用途が変わっていったもの。
リボン。平たい紐。
ブローチ。胸元の飾り。
大袖は名前の通り大きくて、肩に着けたらすごい邪魔くさい。防具として使うことはない。
でも[青苗]って魔術はもしかしたら家庭菜園で凄まじい猛威を揮うんじゃないだろうか。
ロープは多分初めて拾った。
分類は何だろう。体に巻き付けて防具にするってマンガで読んだような気はする。武器として使う作品の方が多いかも。
魔術はよくわかんないな。夜系の魔術と合わせればいいのかな。
笄は、どう使うにしても僕の髪は長くないし愛染にでもあげるか。
魔術はお酒限定の取引系っぽいし、愛染だってたまにはお酒飲むでしょ。弁柄と躑躅も飲むなら愛染がどうにかすると思う。
リボンの魔術はなんだろう。売ってるものに使ったら品質が分かるとかかな。
たしか店で売り物に魔術かけたら犯罪なんだよな。でも自分で買ったらその時点で商品じゃないし。使い道……工場とかで出荷前のチェックなら役立ちそう。
ブローチの煉瓦の壁みたいに四角が並んでるデザインは煉瓦の壁だきっと。
魔術は壁に魔術式を書き込んで罠にできたりしないかな。忘れる前にメモしておこう。条件で発動する魔術もそれはそれでちゃんと作ろう。
よし。今日拾った物の確認が最後で、メモしようと思ってたのもメモしてる。帰る前にやらないといけないことは終わった……はず。
明日はどうしようか。本当なら魔術を主体にした修錬のつもりだったけど、課題はもう分かったし今度はいつものスタイルで魔術の比重を増やしてみようか。
普段使いしてる武器も魔具なのに、師匠相手の修錬はともかく≪実践道≫じゃあんまり使ってない気がする。なんとなく≪実践道≫で武器使うなら魔術に頼りたくないって意地張ってるよなぁ。改善していかないと。
ああ、逆に普段使ってる魔具全部取っ払って、魔具じゃない武器で≪実践道≫行くのも良いな。
普段から魔具は使わないようにしてるって言っても実際にあるとないとじゃ気持ちが違う。
いっそ魔具化したプロテクターもなしで服もただのジャージにして、武器はただの木槍っていうか棍にしよう。
うん。明日の予定は変更して、初心に返ってジャージに棍で≪実践道≫だ。
来週の≪魔術道≫の日に今日欲しいと思った魔術を作って――次の≪魔術道≫の日は再来週だった。≪実践道≫の日を減らして来週の土曜は魔術を作るのに充てて日曜は魔術を主体にした≪実践道≫での修錬をしよう。
一日上手くいかなくて頭の中も靄がかかったみたいだったのがなんか気分がすっきり。さっさと帰って風呂入ってさっぱりして御飯食べよう。良い感じに眠れそう。
≪[開示]の【神壇】≫
§それは神に近づく場所§
§それは明らかにして示す§
≪[箱段]の【上腿部プロテクター】≫
§それは上腿部プロテクターである§
§それは階段である§
§それは引き出しである§
――本日の戦果――
≪[青苗]の【大袖】≫
§それは大袖である§
§それは苗である§
§それは青々としている§
§それは植え付けの費用を低利で貸す§
§それは収穫時に元利を回収する§
≪[太陰]の【索具】≫
§それは索具である§
§それは月である§
§それは太陽と対する§
≪[酒家]の【笄】≫
§それは笄である§
§それは酒を売る§
§それは酒を好む§
≪[検品]の【リボン】≫
§それはリボンである§
§それは商品を検める§
≪[壁書]の【ブローチ】≫
§それはブローチである§
§それは壁に書く§
§それは壁に書いたものである§