00-00_プロローグ
ある日、世界にダンジョンが発生した。同時に、後に魔素と呼ばれる”何か”がダンジョンから噴き出し世界を塗り替えた。
その日起こった出来事で一・二を争う大きい変化はダンジョンの発生と魔素の噴出だが、それらはすぐに何らかの影響を感じられるものではなかった。そもそもそれら二つをリアルタイムで認識していた人間は全体からすると一摘みだった。
その日人々に認識された最も大きな変化は――睾丸が破裂してショック死する大量の男性と、その二次災害による地獄絵図だった。
日本だけに限っても人口の六分の一が失われ、その男女比は十対一だった。男性だけならどんぶり勘定で三人の内一人が亡くなった。
後の調査により分かったのは、魔素と名付けられることになる“何か”が男性の睾丸に急速に蓄積された結果破裂したということ。女性の場合は卵巣ではなく子宮に蓄積され、一定の条件の下排出されるということ。女性の場合、死にはしないがめっちゃ痛いとのこと。
次に大きな変化が日本の人々に認識されるのは“その日”からおおよそ三ヶ月後、ダンジョン及びそこから溢れるモンスターという存在が公表され、同時にごく初歩的な魔法が指導されるようになる日。
表現を変えると、“その日”から三ヶ月ほど経って情報伝達手段や多少のライフラインが復旧したことで存在を確認されていたそれらの公表を保留し続けることができなくなったのだ。加えて復興の為の人手が足らず、手っ取り早く個人あたりの労働力を強化できる魔法を他国が有効活用し始めていたのが大きい。ダンジョンに関してはそこから流出したモンスターによって少なくない死傷者が発生していたので今更といえば今更の公表であった。
日本で真っ先に国が指導した魔法は[凝水]、[加熱]、[光源]のインフラの一部を代替する三種に、自身と三親等以内の名前を空間に投影する[自己証明]を合わせた四種。このうち[自己証明]は表示された三親等以内の人物の生存確認も可能かつ四種の内でも最も簡単とあって、満五歳以上の国民には習得が徹底された。
実のところ、原因不明と言われていた睾丸の破裂による男性のショック死はこの時点で「体内に蓄積される”魔素”を意識的に排出すれば良い」との対処法が確立されており、魔法を使うだけで命が救えるならばという目的も魔法の指導には含まれていた。
“その日”から一年が経つ頃には“ダンジョン”、“モンスター”、“魔法”、“魔素”といった存在は常識ともいえるほど浸透していた。同時に、日本人口のおよそ五分の一が失われた激動の時期も一年で沈静化したと判断された。
“その日”だけで人口の六分の一を、そこから一年の内の死者数を含めればたった一年で五分の一の人口を失った影響は少なくとも十年を超えて尾を引くこととなる。
“その日”より十三年後の今日では“その日”は“ダンジョンの門が開いた日”から“開門”と呼ばれることが多い。