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魔王の神様15

 漫画描きは自分の漫画の人気をコントロール出来ない。

 無論、今自分の漫画の評価に一喜一憂して制御した気になる事は出来るが、それは結局のところ結果論なのだ。


 漫画の人気は結局読者が決めるのだ。故に漫画描きは漫画を描く事しか出来無い。


 どんな漫画描きも自分の漫画が売れて欲しいと思うのは常だろう。しかし、漫画が売れる売れないを実感出来る漫画描きはあまりいない。

 渾身の出来でも読者はスルーするし、何も考えていない忙しさくる諦めで描いた物が持て囃されたりする。


 漫画描きは漫画にとっての神だが、漫画の世界に浸っている読者、つまり人を自由にする事は出来ないのだ。


 私の漫画に変化が訪れたのを知ったのは実に分かりやすい出来事からだった。そう私の妻であり、尊敬する漫画描きである烈風先生だ。


 烈風先生は人の心理や考えている事を正確に読み取る。それは烈風先生の天賦の才であり特殊能力だ。

 私にはそんな能力は無い。しかし、私は今日烈風先生が考えている事が分かる。


 かなり喜んでいるが、それを隠そうとしている。しかし隠しきれない程に嬉しいのだ。正直、こんな烈風先生を見るのは初めてだ。

 なんと無く烈風先生が言いたい事が分かる気がする。私は自分の漫画な事を電子世界で調べ見聞きするのが苦手だ。しかし、烈風先生は電子世界のヘビーユーザーだ。

 四天王に聞いた話だが、烈風先生は電子世界で勇者を名乗り、スパピンの作者である魔王、つまり私を執拗につけ回していたのだそうだ。


 なんとなく促されている電子世界を確認する。私が見るのはスパピン復活の為の出資者数のみだ。


(登録数 2009)


 この数字は私の漫画が連載として復活可能となった証だ。開始からある程度鈍った登録数が、何があったのか急に増えている。

 携帯端末を見る私の背後に烈風先生が音も無く回り込んでいる。これは完全に何があったのか聞いてほしい流れだ。


「登録数いきなり増えましたね」


「そ、そうじゃの。まあ、スパピンにはこれぐらいのポテンシャルは余裕であるということじゃ」


 烈風先生は隠していた喜びを全力で解放している。満面の笑顔が眩しすぎる。


「何か電子世界であったんですか?」


「何という程の事ではないがの。わしらスパピン勢はいつも通りスパピンの話をしとっただけじゃ。そうなるとまた読みたいとなるじゃろ? じゃが、漫画が復活するなんて話は皆知らんもんなんじゃ。だから、その話をしたまでじゃ。そうしたら、今回は何故か普段はコメントせん奴等も集まってきて登録祭りになったという訳よ」


 また読みたいという読者の気持ちは素直に嬉しい。丁度、復活したらどう連載していくかも決まったところだ。


「烈風先生。ありがとございます。この魔王、至らぬ点も多いですが、スーパーピンクの連載をまたやっていきます」


 烈風先生が後ろから抱きついてきたのが分かる。そして凄まじ力で締め付けてくる。


「…………」


「おごご………、な、どうしたんですか」


 我ながら野暮な質問をしてしまった。烈風先生は嬉しくて泣いているのだ。感情のままに力を解放しているので圧力が凄いだけなのだ。


 烈風先生の圧力は直ぐに優しいものになった。


「魔王よ。待っておったぞ……」


 ―――


 出資者数をクリアしたので、後の動きは早かった。なんせ、漫画復活の最後責任者と運営担当者がすぐ近くにいるのだから。


 原稿はあるので直ぐに提出した。規約に違反した内容になっていないか確認する為に鏑矢さんが中身をチェックする。


 原稿を確認し終えて、珍しく鏑矢さんは笑っていた。


「役職の手前仕方の無いことだが、正直連載版として皆とこれを共有したかったな」


 鏑矢さんはそれだけ言って原稿を受け取った。


「ほぉぉ。鏑矢っちがそんな事言うなんざよっぽどだな。これは俺もうかうかしてらんねぇな」


 神夢々先生はいつも以上に上機嫌だった。


 こうして私の漫画スーパーピンクが連載復活となった。


 ――――


 私の復活連載は電子版としてなされる。紙の本になるのは一年後なので、それまでに装丁を決めなければならない。


 電子版は専用のソフトウェアによって掲載される。神夢々先生曰く、海外にいる共同経営者が電子版の管理をしているそうだ。

 フェルナンドさんという方らしいが、通信、電子制御、セキュリティに関しては天才なのだそうだ。


 そんな経緯を経て私の復活連載一回目は公開された。


 電子版は月一回更新され、その際に掲載可能な漫画は雑誌形式にまとめられる。

 出資者はこの電子雑誌から出資した漫画を読む事が出来る。雑誌形式なので、他の連載漫画の情報も見えるので、興味があれば出資して閲覧可能になる。当然、掲載期間に該当する出資額を支払えばバックナンバーも閲覧可能だ。


 今月の掲載漫画はまだ5種しかない。雑誌としては物足りない構成だが、古い漫画の復活物ばかりなので、雑誌掲載の漫画全てに出資する人もそこそこ居るようだ。


 私の漫画はどうだったのか、それを電子世界に確認しに行く勇気は無いが、私の漫画への出資数は6281に増えた。

 鏑矢さんに聞いたら、異例の増加数なのだそうだ。


 つまり、私の復活連載一発目は大成功となった訳だ。


 烈風先生は自身の事のように喜び、「当然!」と言って踏ん反り返っていた。


 四天王からも相次いで電話があり何度もお礼を頂いた。四天王からは直接無かったが、烈風先生の話では四天王作のスパピン二次創作も注目が集まっている。

 初日で出資者数が爆伸びしたのは、二次創作の効果もあるのではと鏑矢さんも言っていた。通常は既存会員内で出資者が増えるのが一般的だが、私の出資者は新規の割合が半分を占めているらしい。


 私は烈風先生にも四天王にも、神夢々先生と鏑矢さんにも頭が上がらない。


 私は再び連載漫画を描く事が出来るようになった。正に夢のような出来事だ。ここから一年は連載する事が出来るので気合いを入れなくてはならない。


 悩んだ復活連載一発目は、原点に戻ってショッキングムーンのパクリを選んだのだ。神夢々先生作のショッキングムーンは単行本一巻で終了したが、その独創性は読者の度肝を抜いた。

 地下に逃げいるつもりなのに実は地上に戻っている。ストーリー自体、時間が進んでいるように見せかけて実は戻っているという叙述トリックは、アシスタントをしていた私達ですら最終話まで気が付かなかったほどだ。


 だから、私は一度終了し最終回とした旧連載版は、実は新たに始まっていたのだという構成にして、復活連載を始めた。


 正直に言うと皆の評価が怖い。どう思われたのだろうかと心配になる。


 ふと、復活連載のソフトの中に漫画の感想コメントが読める項目がある事に気がついた。

 普段は読者の感想など電子世界では絶対に見ない。しかし、今は評価が気になってしまい一つだけ開いてしまった。


 一番初めに来たコメントは、連載復活のお礼と漫画の内容への素直な賛辞だった。

 特に特徴の無い文なのだが、どこか既視感がある。


 そうか思い出した。これは初め貰ったファンレターの内容とほぼ同じなのだ。


 私は泣いた。


 緊張していた糸が切れたのか、この古参ファンから赦されたという思いなのか、とにかく泣いた。


 この世界に来て、漫画描きになって本当に良かったと今心の底から思う。


 私はもう漫画描きを辞めれ無い。そう確信したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] めでたいですね 良い夫婦だ
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