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魔王の神様11

 自分の生まれ世界に対して何かを主張した事があっただろうか。そんな事を考えていた。


 世界に興味を失う前も後も、何も主張してこなかった。どうせ変わらない、変わらなくてもいいと思っていた。


 いや、一度だけ主張した事がある。


 あれは菅田氏を使ってこちらの世界が私にアプローチしてきたときだ。

 菅田氏が烈風先生のアシスタントだと知って、好きな漫画に手を出されたと思って、つい感情的な警告をしたのだ。


 何故感情的になったのか。


 こちらの世界の虚無をあちらに持ち込まれたく無かったのだ。だから強く警告した。


 そう、こちらの世界は思考の実現性が高い。実現された思考は可能性を失い、人は叶わぬ事は無いという思考に捕らわれる。

 無制限に叶うという可能性が人から思考の深さを奪う。何でも叶うなら人は自らが考える事も放棄する。既に誰かの考えた有益な物があるのだから、自分で考える必要は無くなるのだ。


 漫画描きの描く漫画の世界の多くは、現実になる事は少ない。叶わないからこそ、これがあればいい、こんな出来事があれば楽しいと必死に考えるのだ。

 私はそうして生み出された漫画に衝撃を受けたのだ。人の想像力に限りは無いと思った。


 私はこちらの世界にも期待しているのかもしれない。だから世界の構造に手を入れたのだ。


「これを聞く全ての人に断っておく。私は世界を救う者ではない」


 私の言葉は一方的に放たれる。聞いている人の反応を見てはいないし、この場にも誰もいない。いや、誰もこられない場所で喋っているが正しいだろう。


「以前の世界構造は失われた。これは私が世界への関与を止めた事を言っているのでは無い。むしろ私は世界に関わろうとしている。ただし以前のようにでは無い」


 私の変えた世界構造に誰も気が付いていないだろう。気付いていたならば、誰かが止めに来ているはずだ。


「私はある場所で魔王を名乗っている。こちらでも魔王と呼ばれた事があったので、奇妙な運命を感じている。魔王とは不確かな魔を統べる者として、畏敬の念を持って呼ばれるが、私の知る魔王は少し違う」


 神夢々先生から漫画を描くなら魔王を名乗れと言われたときは、何という皮肉かと思った。しかも意図を聞いたら漫画描きは変な名前で十分なんだと、妙な暗号を仕込まれただけだった。


「魔王とは既存主勢力への反抗者だ。魔王は主勢力を滅ぼしてでも達成する目的を持った悪者だ。物語の中で多くの魔王は討ち滅ぼされるが、始めの一撃で必ず世界を揺るがしている。故に私はこの名のとおり世界に魔王たる一撃を入れた」


 私の話を聞いた人達は何を考えるだろうか。恐らく多くの者が態度を変えないだろう。世界の一部の犠牲を盾に私に世界の管理者を強い続けるだろう。


「世界燃料という概念は消失した。世界の中身を見る事無く、薪のように焚べる行為は出来ないだろう。世界同士手を組むも良し、敵対して他世界を征服するのもいいだろう。ただ誰も無関係を決め込む事は出来なくなった。産み育むも殺し奪うも自由だが、それは各々の意思で決めよ」


 既に東極世界を燃料に他の世界束が延命する事は出来ない。世界を炉に焚べれば、全ての世界が燃え盛るのだ。

 当然、簡単に火が点かないようになっている。もし、まだ世界を燃料にしようと行動すれば、それは長大な時間を要し他の世界からは簡単に知れるようになっている。


「一つ安心して欲しいのは、この思考の渦の中心に私は魔王として居座り続ける。新たな仕組みが嫌ならば、私に力づくで元世界への巻き戻しを強いればいい。魔王はいつ何時も世界からの挑戦者を待っている」


 私は世界に関わる事にした。納得のいかない者は私のところに来て倒し望みを叶えればいい。ただし、誰も来なければ私は何もしない。


「ただし、私に挑戦する暇があるのかどうか、今一度自分に問うてもらいたい。世界から便利な管理者は失われた。世界は世界人全てに委ねられた。私と闘争するという意味と時間を考えて行動せよ」


 私は世界人が今のままでは私に対して無力である事を知っている。故にこの問いをした。

 皆、想像力を持って生きねば未来の無い世の中になったのだ。それは新たな想像力が私を討ち滅ぼす力となる事の裏返しだ。


「世界がどうなるかは、既に私の手の中にはないが、魔王としての役目を果たす事をここに約束する」


 言いたい事は言った気がした。たが、何か心残りがある。


「最後に、無意味な言葉かもしれないが一つの真理を語ろう。魔王を討ち滅ぼすのは決まって勇者だ。勇者が何者なのか、それは皆に答えを任せようと思う。以上」


 勇者か。そう言って思い浮かんだのは烈風先生だった。


 私はやる事をやったので、漫画描き魔王双区に戻るために扉を潜った。

 私があちらで色々やった時間は一週間とちょっとだった。


 烈風先生の防音室から出ていつもの部屋を見ても特に変化は無い。何なら私の描きかけの原稿は全くそのままになっている。


 私の気配に気がついて烈風先生が部屋に入ってくる。


「あ、ただいま戻りました」


 烈風先生は一瞬何かの気配を解き放とうとしてそれを止めたようだ。


「戻ったか魔王よ。風呂出来とるぞ」


 そういえば一週間同じ服のまま風呂にも入らずそのままだ。

 烈風先生が私の手をキュッと握って風呂の方へ連れて行こうとする。一週間の汚れで匂いもキツイので気が引けてしまうが、烈風先生には寂しい思いをさせたかもしれない。引かれるままに従った。


 烈風先生は風呂場に於いて完全に私の視界をコントロールしていると言っても過言では無い。

 どんな角度からも私の劣情を刺激してくる。視界から外しても鏡や金属の反射を使って私の視線を休ませる事をしない。

 脱衣所で烈風先生の布が減っていく過程に出会うたびに私は気が気でないのだ。


 妊婦として命を預かる者として大変な烈風先生に対して、主砲を大きくするだけの自分が情けない。


 浴室に逃げ込もうと体を反転させるが、何故かそこから歩み出す事が出来ない。

 動いた事すら認識させない烈風先生が私の主砲を背後から押さえ込んでいるのだ。


「あ、あの、まだ体を洗ってませんし、ほら、ね?」


 私は焦った。主砲を押さえる烈風先生の手には殆ど力がこもっていないのに、背後から密着されている感覚からは凄まじい圧を感じる。

 まるで巨人の手の中にやさしくすっぽりと包まれたようなそんな感覚だ。


「わしはいっぱい待ったんじゃぞ。堪能させよな」


 そんな甘い言葉の後、私の記憶はぷっつりと途切れたのであった。

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