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魔王の神様9

 フィギアの造形は自分から遠い存在だと思っている。


 頭の中にある物を二次元に起こす事は出来るが三次元にはどうやっても持って来れないと考えるからだ。

 故に三次元造形物には畏敬の根があり、それと同時に距離を感じているのだ。


 四天王である赤石さんはフィギアの造形師だと言った。そうしてスパピンの二次創作の許可を取りに来て、実際に作るに至っている。


 許諾書類の入っていた封筒にあった差し出し人は赤石という名ではなかった。

 差し出し人の名を調べると、一線を退いた有名な造形師と一致した。


 今回の許諾用に撮影されたフィギアは、一朝一夕で造られたモノでは無い事が分かる。素人の私でも分かるのだから、この作り込みは尋常では無い。

 赤石さんをはこれをコツコツと個人で造っていたのだ。どこにも出さないつもりでも、四天王会でお披露目するならありなのではと思ったが、会は互いに素性を明かさないルールだ。見せれば感の良いメンバーに素性が知れると分かっていたから、この素晴らしい造形物は秘匿されて来たのだ。


 このフィギアはスパピンという元ネタを知らなくても欲しくなる魅力がある。赤石さんの造形師としての実力と築いてきた実績の成せる技だ。


 この許諾を断る理由は無いので、当然承認という形で返す。


 しかし、赤石さんはこれをどうして世に出す事にしたのだろうか。

 もし、スパピンがまだ連載していたとしたら、私はこのフィギアの存在すら知らなかっただろう。


 スパピン復活の為の知名度アップに使うという趣旨だったが、赤石さんにもこのフィギアを秘めておきたい理由があっただろうに。

 私からは感謝と感激しかないが、赤石さんは本当に良かったのだろうかと考える。


 私は漫画を描くなら誰かに読んでほしいと思う。一方で三次元の造形技術があったとしたらどうだろうか。

 好きな造形をしてそれを誰かに配るまでするだろうか。きっとしない。自己で満足し日々の視界に入れ愛て終わりだろう。

 私が漫画描きだからこう言った発想なのかもしれないが。三次元の物を量産して他者に届けるのは大変な事だ。そこまでやれる根性は無い。


 ともかく赤石さんのやりたいようにしよう。私はそう考えて返送する準備をした。印鑑などは私の家にあるので、また烈風先生に戻って来る旨を伝えなくてはいけない。


 烈風先生は寝室だろうから、そちらに向かおうと席を立った。すると廊下から足音がして扉が開く。


 パジャマ姿の烈風先生が興奮した様子で部屋に入って来た。


「ま、ま、魔王よ。これを見るんじゃ!」


 いつも冷静な烈風先生が取り乱している。お腹で私達の子を育みつつ漫画連載も進める烈風先生は大変なはずなのに、常に冷静で先を考えているのだ。

 烈風先生の精神を揺らす事などそう起きないと思っていたが、これは一大事のようだ。


「落ち着いて下さい。まずは何があったのか話して下さい」


 烈風先生はプルプルした手つきで携帯端末の画面を見せて来た。何かゲームのトレーラームービーのような物が再生されている。


「してやられたわ!」


 ムービーはインディーズゲームっぽいが良く出来ている。何か良く見た事のあるキャラクターが動いている。よく見たというかさっき見たのだった。


 ムービーにはスパピンのキャラクターである盾子と委員長がしっかりアクションしているのだ。しかもキャラクター造形は赤石さん作のフィギアとほぼ同じなのだ。


「やられたというのはどういう事ですか? これはスパピンのゲームムービーなんですかね」


「ここを読むんじゃ!」


 烈風先生は画面をこちらに向けたまま、画面をスクロールさせて文字の書いてある場所で止めた。このムービーはどうやらメッセージに添付された物だったようだ。


(勇者王氏へ。いつぞやのスパピンファン作品論争の結論ですが、我々の答えはこれです)


「何の事か良くわかりませんが、これを送って来たのは四天王の白鳥さんなんですね」


「そうじゃ。これはわしと四天王で繰り広げてきたスパピン論争の一つで、スパピンの二次創作は何が一番良いかと物なんじゃ。わしはエロ同人が一番合うじゃろうと提言し実際に作った訳じゃ。対して奴等はゲームにする派なんじゃ。実現出来んじゃろうと思っとったが、まさか本当にやるとはの」


 私と烈風先生が知り合う以前から、四天王と烈風先生は電子世界で知り合っていた。当然、電子の海での出会いなので互いの素性は知らないのだが、かなり濃密な議論を繰り広げたという事は聞いている。

 今となっては全員面識のある仲になったが、まだ電子世界での関係も続いていたようだ。


 私は自身の漫画が電子世界でどう思われいるのか知りたく無い派なので、そういったコミュニティは極力見ないようにしていた。

 違う、本当は見に行って何も無かったり、圧倒的に過疎状態にあるという残酷な現実に直面したく無かったのだ。


「そう言えば前にここで四天王に会った際にゲームの話出てましたね。編集部が絡んだ公式の許諾じゃないですけど、作者の私は許可しているので、ゲームが出るのはまあいいんじゃないでしょうか」


 烈風先生は改めて携帯端末の画面を見ながらワナワナしている?


「二次創作の見た目においてわしに負けは無いじゃろうと思っておった。じゃが、奴等の中にこれ程の造形美を持つもんがおるとはの。3Dでこんないい感じの造形にするなんぞ反則じゃぞ」


 これは赤石さんの造形だろう。だが、どうやってゲームの中に取り込んだのだろうか。もしや、3Dモデルが先でフィギアは3Dプリントした物なのだろうか。


「よく出来てますね。どうやって作ったんでしょうか」


「キャラの動きは微妙なんじゃが、とにかくモデルが良すぎる。三次元に馴染み過ぎなんじゃ。奴等、ゲーム化への方法論は色々と展開しておってな。実体の造形物を3Dスキャンして電子データとして取り込む事を研究しとったようじゃ。現物があれば立体としての存在感は増すからの。問題はどうやって現実の立体にしたかという事じゃ」


 なるほど、赤石さんがフィギアの造形をガチでやったのは間違い無さそうだ。


「オフレコのお話ですが、赤石さんは有名な造形師らしいですよ」


「なんと、情熱のエイジヤがの」


 烈風先生は何やら納得いったようだ。


 しかし、四天王の皆がまさかここまでスパピンの二次創作を本気で取り組むとは思わなかった。


 あっても何年後かに個別で何らかの同人が出るものだと思っていた。

 まさか、全員で共通の創作物に向かって行動していたとは夢にも思わなかった。


 皆予想の範疇をいい意味で超えてくる。


 烈風先生から私に伝わる前提なのか、この同人ゲームに関する許諾の連絡もセットになっていた。

 正式な申し出は私宛に直接来るそうだ。今回は様子見の為の連絡だったようだ。


 やはり協力して一つの事をやろうとするのは良い。向きさえ合っていれば、単独個人の何十倍の成果となるのだ。


 そう何事も皆んなで同じ向きにが良い。


 そんな考えが私が持つ悩みの糸口になった気がした。あちらの世界でも全が一の方を向けばチャンスがあるかもしれない。そんな閃きが今まさにあった。

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