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魔王の神様3

 私は神夢々先生の仕事場を再び訪れていた。


 何年も時間の止まっていたあの古いだけの平屋が、今少しだけ時間を刻み出していた。


 再び主を得たあの部屋は、より雑然としてきた。


「さて魔王よ。もう一度確認するがよ。お前さんはどうしたいんだっけか?」


「それは、連載の終了したスーパーピンクを復活させたいです」


 私の言葉に神夢々先生は頭を掻く。


「分かっていると思うが、スーパーピンクはもう元通りにはならねえ。俺が出来るのは漫画の生まれ直しを手伝うくらいだ。そこんところは間違えるなよ」


 元には戻らない、確かにそうだ。

 マイナー誌であっても商業で連載していたのだ。その大きな枠組みから外れたという事は変えられない事実だ。


「新たに始めるという事ですね」


「そうだが、そうでもない。まずははっきりさせる事から始める。魔王の思う漫画が何で、そしてお前さんの読者がどういう人達なのか、それを明確にするのさ」


 私の漫画の読者は居る。居るが、それが何処の誰なのかは一部の人を除いて知らない。

 烈風先生や四天王や菅田氏等の一部の人は把握しているが、それ以外の読者は知らない。

 稀に来るファンレターから推察するくらい事しかして来なかったが、何となく年齢層が安定しないイメージぐらいしか無い。


「私の読者に出資者になってもらうという事なんですよね? そこで誰が出資してくれるのかはっきりさせるんでしょうか?」


「まあ、そうなんだが、魔王よお前さんはどうして終わった漫画の続きを描くんだ? はっきりさせる事の中でそれが一番大事なんだぜ?」


 どうしてと問われて答えに困ってしまった。漫画を描いて読んでもらえる事が嬉しいから。それをスーパーピンクで知ったからまだ続けたい、それが素直な感情なのだが、そんな理由でいいのだろうかと思う。


「どうでしょうか…。単にスーパーピンクが読まれる事が嬉しいから、まだ続けたいというだけなのですが」


 神夢々先生は胡座をかいてカクカクと貧乏ゆするしていた膝をピシッと打った。


「いいね! いい理由だ。さて、ここで一つクイズなんだがよ。なんで俺はこんな仕事をしているでしょうか?」


「ええ? そうですね。本を作るのが面白いからですか? 昔からそう言ってますよね」


「そうよ!それそれ! 俺は外国に行って思った訳よ。何がやりたいのかってな。そんで思った。本を作るのは面白れえ。作った本は読みたい奴に売ってやりてえ。後はなんだ? そう、俺の本じゃなくてもいいんじゃねえかとも思った。そしたらフェルナンドの奴を手伝いたくなったって訳よ」


 分かっていた事だが神夢々先生は天才なのだ。


 ただ天才の中にも二種ある。考える天才と行動する天才だ。先生は明らかに後者だろう。


「私の漫画をまたやるのも面白そうですか?」


「違うな。俺の面白味は関係ねえんだ。面白さは魔王が感じてくれ、それをやる度量がお前さんにある。俺が何を言いたいかと言うと、俺はコレを仕事でやってはいるが、俺もお前さんもそんなに儲かりはしねえぞって事だ。まあ、金の話は鏑矢っちに任せるが」


 少し離れた場所でコンピュータ端末を触っていた鏑矢さんが反応する。


「連載であれば出資者は単行本1冊から3冊の範囲で出資額を調整出来る。出資額の大小への優劣は無し。連載するには最低でも2000人の出資者が必要だ。成立すれば出資額の三割を運営が取り残りは作者の物だ。連載は年間契約であり月刊連載となる。連載中も追加の出資者は受け付けており、月刊連載の閲覧権と連載された漫画を収めた単行本を受領出来る。翌年も継続するかは作者が意思決定出来る。以上だ」


 鏑矢さんは早口でさっさと説明した。


「鏑矢っちは話に色気がねえな。ま、大体そんな感じだ。本は俺らがしっかり作ってやるから、漫画描きは安心して描きやがれって事だな」


「私としては以前と変わらない感じなんですが、これ〆切に間に合わなかった場合はどうなるんですか?」


「契約としては細かく指定があるが、基本的には遅れようとも12話描いてもらう」


「俺が選んだ漫画描きがやってるんだぜ。今のところばっくれた奴は零よ。俺は連載能力の有無の見抜きに関しちゃ宇宙一なんだぜ?」


 鏑矢さんの冷静な分析に、感覚で語る神夢々先生。懐かしい光景だ。


「それではここで復活した漫画描きの人達は順風満帆なんですね」


「そうだな。連載が始まれば、それなりよ」


 神夢々先生は歯切れが悪そうに語った。


「これを見ろ魔王」


 鏑矢さんが画面に出したページには漫画の題名と数値が並んでいた。


「出資者募集中の漫画…ですね。20以上あります」


「そうだ。作者がやる気でも出資者が規定人数まで集まるかは分からんという事だ」


「俺もよ。連載じゃなくて本を出すだけに切り替えたらどうだってのは提案してる。だがよ。やっぱり一度連載した奴はよ。またしてーわな」


 神夢々先生は画面を操作してある漫画のページを開く。


「ジョッキングムーン。出資者121人」


 私がそう読み上げると、神夢々先生は肩をポンとたたいてきた。


「俺も苦戦中よ。鏑矢っちはどうしても連載させてえみてーだがな。たがよ。一冊で終わった昔の漫画はきちーわな」


「ジョッキングムーンは蘇らせる。どんな手段を使ってもな」


 鏑矢さんから気迫が伝わってくる。


 だがその気持ちは私にも分かる。当時あの漫画を手伝った者達からすれば、長く続いて当然だと思っている。

 私も自分の漫画というものから完全に離れていたならば、神夢々先生への協力を惜しまないだろう。


「ま、どうあれ連載へのハードルは高えってことよ。まだ連載漫画は10に足りてねえ。本一冊ってだけなら結構あるがな。漫画描きを一度やったらひと花咲かせたくなるわな。魔王の漫画がどうなるかは分からねえが、終わりたてなのは好都合だぜ。まだ読者の熱が冷めてねえからな」


「神夢々先生が自分の読者を分かれという意味理解出来ました。私もどう人を集めるか考えてみます」


「おうよ。なんでも使えよ。特にコネは使え。俺はコネで生きてきたようなもんだ。ここで漫画やり直している奴も同人時代に知り合ったのが殆どだ。コネも実力のうちだぜ」


 神夢々先生には人を惹きつける魅力がある。それは私と鏑矢さんがよく知るところだ。


 私にそんな能力があるのだろうかと思う。


 まずは身近なところから当たっていくしかない。私のファンと言えば四天王と烈風先生だ。


 烈風先生には既に知っているのでいいとして、とにかく四天王の面々と直接会う事から始めよう。


 実を言うと私から四天王会のお誘いをした事は無いのだ。アレは四天王の赤石さんが毎回開催してくれていたので、完全にお任せでやってきた。


 いざこちらから連絡しようと思うと、どう切り出していいものかと考え込んでしまう。結婚式に来てくれたのだからいけるだろうとも思うが、これはまた別件な気もする。


 一つ分かっている事は、私も神夢々先生のように行動しなければ活路は開かれ無いという事だ。


 意を決して携帯端末を起動すると烈風先生からメッセージが入っていた。


(四天王+勇者会の開催をここに宣言する)

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