烈風と魔王13
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漫画スーパーピンクが終わる、それはこの最新話を読めば明白だ。次が最終回である事は間違いない。
スパピンには漫画の本筋とは関係無い仕込みがいくつもある。そのルールが突然変わり、それが終わりを告げているのだ。
今どきこんな面倒な連載をしている漫画描きは魔王くらいだろう。
こんな仕込みが詰まらなければ、本編をしっかり描けと読者は反発するだろうが、世界観の補足とサイドストーリーとして機能しているのだから、追わずにはいられないのだ。
スパピンの終わりで頭がいっぱいになり、仕事にも身が入っていない。
幸いにしてネームと仕上げのチェックしかしていないので影響は少ないが、それでも作業の手は確実に遅くなっている。
ボーっとしていると、お腹の我が子からツッコミのように蹴りが入る。
最初はそんな位置の内臓に蹴りが入るのかと驚いたが、最近では動きが読めるようになったので、インナーマッスルの操作で躱している。
ぼんやりとした思考の逃げ先として電子の世界を選んでいる。
気になるのは四天王の同行だ。彼らは確実にスパピンの終わりに気が付いているだろう。
歓喜のオーランジャこと嬉野は今も仕事の関係上繋がってはいるが、アニオリのコンテ仕事も殆ど片付いてしまったので、最近では直接会う事もない。
本当は今すぐにでも彼らと会いスパピン終了の胸の内を共有したいのだ。
しかし、身重てあるわしがホイホイと外出して、彼らと語り明かして来る事も出来ない。
そんな歯痒い時間が続いているので、彼らの痕跡が無いか電子の世界を頻繁に訪れている。
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スパピン終わるってマジ?
ソースどこ
テンプレ見ろカス
まだわからんぞ
魔王から世界終了のお知らせがきたんや
意味不明で草
終わる気配なくね?作者なんかやった?
JK百合を漫画に書いてるような奴は犯罪者予備軍よ
作者童貞オタでしょ
黙れ童貞
誰かDMして聞け
作者SNSやってねぇ
ネットでも引きこもりなの?
最近の漫画家は出版社が露出制限してるでしょ
今の漫画家は売れるのに必死よ露出ないのは甘え
これくらいの漫画家は漫画だけじゃ食ってけない
魔王先生終了のお知らせじゃん
こいつ同人上がりだろまた戻るんじゃね
魔王先生の次回作に期待してます〜
まだ終わると決まった訳じゃない!
信者乙
漫画家の不祥事は大体淫行
漫画家に出会いなんてあんの?
そこはお店でしょ
魔王先生…どんなプレイをしてしまったんや
未成年にお金を払ったんやで
童貞にそんな度胸はねえ
魔王は童貞では無い?
シロウト童貞でしょ
漫画家はどうやったら童貞捨てられるんや
売れるしかない
印税で億いくような奴は芸能人でもいける
それ破局するまでがセットな
魔王の罪状は?
未成年との淫行よ
淫行しても復帰出来る漫画家ずるい
作者はゴミでも漫画に罪はないんやで
スパピン高くなるかな?
微妙じゃね
漫画家は漫画家どうし付き合えばいいと思う
それだ!
結婚した途端に漫画はゴミになる
有名漫画家は大体既婚なんやで
やっぱり漫画家出会いあるじゃん
編集者とか出版関連の出会いなんかな
夫婦で漫画家もいなくはない
伝説の漫画家合コン!?
同じ出版社ならあるんじゃね
出版社も作家に辞められたくないもんな
近いとこでまとめとくに限る
夫婦で漫画界のライバルになるなんて地獄やで
片方は半引退するでしょ書かなくても印税がある
魔王先生が女子で寿引退の可能性が微レ存
いやどう考えても犯罪よ
<EOF>
電子世界でもスパピン終了は話題になっている。四天王の影は感じない。
四天王は魔王に聞くだろうか。いや、彼らはその手のルール違反はしない。漫画の感想を魔王に直接伝える間柄ではあるが、読者が本来知り得ない情報の収集をしたりはしないのだ。
わしが4年間電子世界で見てきた四天王はそうだし、実際に会った今でも認識は変わっていない。
四天王の中で嬉野だけが、わしを魔王を追う勇者が如月烈風である事を知っている。魔王はBCのファンである事を公言しているから、この循環的なファン構造も把握されているのだ。
嬉野はわしの妊娠は知っていても、相手が魔王である事は知らない。これを知る人物はわしが契約している出版社の一部と親族、そしてアシスタントの皆だけだ。
電子世界で魔王がスパピンを辞める理由に何か指向性のような物を感じた。
魔王は犯罪をした故に契約解除となり、その罪は未成年への淫行である。そんな噂がどこかにあるのだろうか。
わしの近しい人達から漏れたという事は考えられない。もし、どこかで語っていれば、多少の罪悪感があるだろうし、それをわしは察知出来る。アシの皆やアキ姐は付き合いが長い分、よりよく分かるのだ。
噂と実態に何か共通点があるように感じる。本質としては違うが、見方によって勘違いすれば、事実が噂のような形にはなり得る。
魔王が誰かに話したという線も考えたが違う。わしは毎日のように魔王の肌にふれているのだ。そんな魔王からは嘘や罪悪感は感じない。ただ、自身の漫画が終わってしまうという喪失感にのみ捕らわれているのだ。
仕事をしたり携帯端末を触ったりを繰り返していると、珍しい人物からメッセージが届いた。
端末に表示された名前は歓喜のオーランジャだ。
時間があるならば、電話で話したい事があるそうだ。
別に時間は大丈夫だと回答すると、すぐに携帯担当に電話がかかってきた。
「どうした嬉野。久しぶりじゃの」
「どうも如月先生。お久しぶりです」
嬉野は仕事で会うときとプライベートで会うときで態度を変える。
わしは気にしないと言ったが、嬉野は仕事のときは仕事モードになりたいからそうしていると言い、自身の流儀を通した。
今の嬉野は仕事モードだ。時間が昼間なのでまだ仕事中なのだろう。
急ぎ電話をしてくるなんて、何かBCアニメの関係で問題でも出たのだろうか。
「BCのアニメは好調じゃの。わしも山田監督と嬉野に任せて良かったと思っとる」
「それは、どうもありがとうございます。続きも我々にお任せして頂ければと思います。ところで、今日お電話したのは少し個人的な事で確認がしたくてなんです」
個人的な話の割には仕事モードと、よく分からない状態だ。嬉野から若干の焦りを感じる。
「なんじゃ?わしの答えられる範囲なら答えるぞ」
「それでは聞きます」
嬉野は少し躊躇うように溜めた。
「ふむ」
「スパピンの連載終了なんですが、烈風先生サイドから会社伝えで、魔王先生の出版社に圧力があったからと聞いたのですが本当ですか?」
嬉野の質問で、わしの手の平の水分が全て失われたのか、力が入らなくなったのか、何も分からなくてなって、わしは携帯端末を取り落とした。