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烈風と魔王3

 ◇


 わしの漫画の事を伝えると、魔王の表情は暗くなった。

 魔王はわしの漫画のファンなのだそれは仕方の無い事だと思う。


 アキ姐から考から会社に事情も伝わっているだろう。恐らくあちらでも大騒ぎなはずだ。


「魔王よ。まずは今のわしの状況を話しておく」


「はい…」


「わしの身体は小さい。一目見てわしが成人しておると分かる者は、そうはおらんじゃろう。まるで子供、下手をすると小学生扱いじゃ。じゃが、わしが小さいからと言って、生まれくる子は他と変わらん。つまり、わしの妊娠は普通の妊婦より負荷が大きい訳じゃ」


「そうなると、烈風先生やお腹の子はどうなってしまうんですか?」


「今すぐどうなるというものでもないが、切迫早産になるかも、つまり予定よりかなり早く生まれしまう可能性があるんじゃ。対策は特に無い。産まれるまでは、わしはかなりおとなしくする必要がある。つまり、短くとも安定期の頃までは漫画を描けん。わかるな?」


 魔王は理解しているが、納得はしていな様子だ。


「私がもう少し気を付けていれば、こんな事には…」


「勘違いするでない魔王よ。これはわしが望んでした事よ。それにわしが子を産むという事は、遅かれ早かれ、いつかは起こる事だったんじゃ。それが今というだけの事じゃ」


 これはわしの仕組んだ事だ。わしの我儘でした事なのだから、これ以上は魔王に迷惑をかける訳にはいかない。


「ですが、私はどうすれば? 何かすべき事は無いんですか?」


「無い。魔王は漫画描きじゃろうが。ならば漫画を描け。わしの事は気にせんでええ」


 そう言ったところ、アキ姐がわしに視線を送ってきた。


「僭越ではありますが、烈風先生の担当編集としてでは無く、友人として進言があります。今、烈風先生は自宅で絶対安静の状況です。何が起きるかは分かりません。何かあったとき、24時間対応出来る人が必要です。あたしは、友としてそうしてあげたい。でもそれは出来ない立場にあります。そこで、その役目は烈風先生の次に関係者である魔王氏が担当するのが筋かと思います」


 魔王はアキ姐の話を聞いて、はっとした表情をした。今の魔王の心情としてはすっぽりとハマる提案だったのだろう。

 だが、この提案では魔王に更なる迷惑をかけてしまう。わしとしては避けたい。


「だ、駄目じゃ! 魔王は漫画を描かんといけん! わしにてごはいらん。一人でなんとかなるわ!」


「突然出血して動けなくなる事もあるんです。常に誰かが居るに越した事はありません。それに、烈風先生のところに魔王氏が行くのですから、漫画を描く環境は整っています。連載再開の為に今の環境は残しますが、一人くらい作業出来るスペースは確保出来ます」


「烈風先生! この提案、受けさせて頂けないでしょうか? もはや、私が無関係という立場には無いですし、私にはそれくらいしか出来ないので」


 どうしよう。正直魔王と暮らせるのは嬉しい。しかし、こんなに甘えて良いものなのだろうか。先程した魔王に迷惑掛けないという決意が揺らぐ。


「いや、わしのせいで魔王の漫画に何かあったらいかんのじゃ」


「そんなの既に烈風先生の漫画を止めてしまっているんです。それに私の漫画は何処でも描けます。アシスタントもいないですから」


「このブ…、いや魔王氏にも責のある事ですから、どうか提案通りにお願いします」


 二人に強く推されたのと、わしが魔王との同居にまんざらでも無かったので、わしの心の天秤は簡単に傾いた。


「ほうか…、そこまで言うんじゃったら、一回やってみようかの…」


 そう伝えると、二人はすぐさま帰る準備を進めた。


 ――


 アキ姐の車でわしと魔王はわしの家へとやって来た。アキ姐は会社に戻り、次の動きに入るそうだ。


 魔王に仕事道具や原稿をどうするのか聞いたが、緊急事態の為、例の異世界チートを使用して必要な物を取り寄せるとの事だ。


 家の玄関ドアの前に立つと、何か妙な気配を感じる。宅配や何かの訪問者が居た気配では無い。巧妙に隠されてはいるが、微かに分かるように小さな違和感を残している。


「魔王よ。わしの家の中に誰かおる」


「ええ! 泥棒の類ですか?」


「違うな。わしの実家のもんというのが筋じゃ。何もせんとは思うが、注意せえよ」


「はい…、用心の為、私が扉を開けますね」


 魔王が鍵を差し込み、扉を開くと魔王の動きが停止映像のように止まる。

 魔王の横をスルリと抜けて人が飛び出して来た。


「ふうたーん! 母は心配しとったんよ」


 現れたのは母上だった。


 ―


 家の中には母上と兄上が待っていた。確かに、この二人であれば並の家屋のセキュリティでは対処出来ない。

 一旦話をする為に、応接室に皆収まった。


「母上。魔王にかけた操気術の件は謝って下さい」


「ふうたん、そんな怒らんでもええやないの。ちょっと挨拶しただけなんやから」


 母上は如月家に嫁いだ人で、元は皇族護衛の為の秘術を操る名家の出だ。


「駄目です。魔王はわしの大切な人なんじゃから」


「そこまで言うん。それじゃあ、この度は失礼な事してしもて申し訳ありません。なあ、これでええやろ?」


 魔王は呆気に取られている。


「烈風先生のお母さんですよね。初めまして魔王双区と申します」


「あら、これは丁寧にどうも。やけど、ちょーっと順次が違うんやないの?」


 母上とわしは良く似ていると言われてきた。この薄茶色の髪も母譲りだ。ただ、背格好だけは似る事は無かった。

 似ているのは性質もそうだ。敵対している相手には分かりやすく攻撃的で、身内に対しては穏やかで緩い。


「はい! 烈風先生のご実家に何の挨拶もないまま、このような事になってしまい。大変申し訳ありません!」


 話を聞いていた兄上が遮るように前に出て来た。


「母者よ。そろそろええじゃろ? ここからは如月家の長である儂が話す」


「兄上。随分と早い行動じゃの? わし等の事を監視でもしとったんか」


 わしとしても、わしと魔王の立場を守らなくてはいけない。実家といえども好き勝手される訳にはいかないのだ。


「儂もそこまで暇ではねぇよ。ただ、知らせを聞いて文字通り飛んで来たがの」


「ふうたんの事が心配でヘリで来たんよ。久しぶりに乗ったけど、最近のは快適よ」


 何となく母上の昔の事は聞いてこなかったが、かなり現実離れした経験を思いのようだ。

 兄上に如月家の真実を聞いてから、母上がたまに漏らす虚言のようなエピソードも、今思えば全て事実なのだろう。


「お忙しい兄上がわしに何用ですか?」


「まあ、そう警戒するなや。わしは如月家の当主として当たり前の事をしに来た。如月家にあらたな人間が加わるかもしれんのじゃ、わしが来んわけにはいかんじゃろ」


「お腹の子の事か? それじゃったら気の早い事じゃの」


「その子が産まれたとして、何をせんでも如月家のもんになる事は決まっとる。他ならぬ烈風が産む訳じゃし、それに、そこの魔王には戸籍がねぇからのう」


 兄上は魔王の事を調べているのか。だが、異界人など調べても分からないはずだ。


「兄上よ。何が目的なんじゃ?」


「言うたろうが。如月家に人を迎えるかもしれんと。魔王よ、お前如月家に入るつもりは無いか?」


 それは予想もしない一言だった。

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