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魔王の世界10

「烈風先生には分かってしまうんですね。ならば、この話がどういう結果になるかも分かるのではないですか?」


「わしは超能力者じゃない。そがな事分かるわけねえじゃろうが。じゃが、魔王がこっちにわしを連れてきよった時点で、何ぞ打ち明けるんじゃろうとは思っとる」


 岩の柱が立ち並び、動物の気配一つ無い荒地に風が吹く。

 足元の草が揺れて青臭い空気を感じるのは、これまで人工物ばかりに囲まれていたからだろう。


「私はあちらの世界が好きだ。漫画が特に好きで、幸運な事に漫画描きにまでなれた。今さらこちらの事情に引っ張られたくはないんです」


「じゃが魔王はわしにこっちの話をして、連れてきてしもうた。それは、こっちの話を聞けば、わしの気が変わると思うとるんじゃろ。そうまでして、わしとは嫌か?」


「違います! 私が異界人である事をお伝えしたのは、私の事を理解して頂く為です。この通り、私には国籍すらないんですよ。結婚するかどうかのスタートラインにすら立っていません」


 烈風先生が草の中から突き出した背の低い石塔を二つ手刀で整形し、平らな面を作り出した。


「魔王よ。まあ座れ。わしは法律上の婚姻関係が欲しくて言うとるわけじゃない。それは分かるな? 後は魔王がこっちでやった後悔の話を聞くだけじゃ。そうじゃろ?」


 私は烈風先生の言う通り座った。話たくはないが、話さなければならない、そう思ったからだ。


 ++++++++++


 白の里と呼ばれる場所、そこで私は生まれ育った。


 人、動物、物の記憶を読み取り、未来を予測する事の出来る者が昔から住む場所だった。


 外部へ出て行く者は少なく、訪れた者からの物や知識で生活していた。質素な暮らしに静謐な雰囲気のする、一言で言ってつまらない場所。そう思って私は暮らしていた。


 里の予知術は外部では評判であり、外から権力者が訪れる事も少なくなかった。

 権利者は予知術を自国の為にと欲したが、里の者は今の形を変えては予知は出来ぬと断った。


 事実、予知術の正体は情報の落差から、その物の傾向を読むという物なので、里のような情報量の少ない情報の底が必要だった。


 私は外から来る者の話や物、時に音楽や芸術という情報の山にしか興味がなかった。

 外の者は情報の山を持っていたが、皆、真に重要なのは情報を作り出す事だと語った。


 現実を改変する術で炎を生き物のように操る踊り子がいた。里の者も外部の者も炎の造形を讃えたが、私は踊り子が修練によって身につけであろう、舞の素晴らしさに感動した。


 私の家は予知の名手の家系であり、予知術の研鑽に関する情報はなんでも揃っていた。

 私は予知はそこそこに、情報の山を測る方法ばかり研究した。

 家の中では、いつまでも半人前と馬鹿にされていたが、私は別に構わなかった。


 情報の山は細分化すればするほど正確に測れる事が分かった。

 細分化された情報は、それ自体は意味の無い砂粒の集まりのような物だが、様々な角度から色々な結果が取り出せる事がわかった。


 細分化して理解してしまうと、情報の山は退屈な物にしか見えなくなる。

 いつか見た目踊り子の炎は理解してしまったが、舞の素晴らしさの正体は遂に分からなかった。


 外部からの者は、なんと多くの情報の山を被っている事かと思った。私の理解出来る情報を取り去って、理解不能の領域が残る者のなんと少なく事か。


 私の認識を誰かに話ても、里の者、外の者、誰からも共感を得る事はなかった。


 あるとき、我が家の長老が恐ろしい予知をした。多くの大地が天からの炎によって焼き尽くされるというのだ。

 やがて、他の予知者たちも同じ未来を見るようになり、里は恐怖に包まれた。


 外部の権力者も里を頻繁に訪れて、原因究明の為に協力状態となったが、誰も真実に到達する者はいなかった。

 巧妙に隠された何か恐ろしい出来事が世界の大半を焼き尽くす。そんな、何の救いも無い結論だけが残った。


 私は予知をサボっていたので、皆に何が見えていたのか分からなかったが、一方的に滅ぼされるという運命に納得がいっていなかった。


 里の結論としては最後の瞬間まで皆、共に居ようという事になり、運命を受け入れる準備が進んだ。


 そして、世界崩壊の予知の時間となり、天より巨大な炎が降り注いだ。


 何が起こるのかと構えていた私には、あまりに拍子抜けの事であった。

 炎は全て情報の山であり、簡単に解析出来たのだ。


 これまで、知り得た情報から改竄をした事は無かったが、自身の最後がこんな物になる事に納得出来ず、天の炎を都合良く改竄した。


 天の炎は地上に落ちる事無く燃え尽きた。何者かが意図的に放った大炎である事は明白だった。


 私は大炎の事を里の皆に説明したが、それどころではなかった。

 予知が外れ、里の予知は混乱した。更に、予知に恐れを抱くようになり、里は新たな恐怖に包まれた。


 外の者が訪れるようになっても予知はほとんど行われなくなり、外の権力者達も混乱した。

 予知の一部は当たっていたので、権力者は今後の対策がしたかったようだが、里はそれどころではない。


 権力者は予知が切実に欲しいが、里は予知をしようとしない。

 関係は険悪になり、遂に権力者から暴力的な予知の強制が始まろうとしていた。


 私は再び憤り、権力者達の暴力行為が発現しないようにした。権力者の暴力もまた情報の山であった。


 暴力を行使出来ない権力者は、報復を恐れて里から去って行った。


 だが、里の問題は解決していない。里が予知をしなければ、生活基盤が形成出来ないが、里は予知を再開する事はなかった。


 里は最後の瞬間を共に迎えるという決断をした時点で、ある意味終わっていたのだ。


 予知を捨てるのであれば、里を情報の底にする必要も無い、皆で外の者のように暮らそうと提案したが、賛同は殆ど得られなかった。


 一部の者だけでも生きていく努力をしようとした矢先、天の炎の主が次の行動を起こした。


 方法は違えど、世界の多くを破壊する行為が迫った。

 私にとって方法が変わろうとも、理屈は同じなので、崩壊を避ける事は容易であった。


 ただし、更なる世界崩壊の危機に、一部のやる気を出した里の者の心も折れた。


 そこからは、世界崩壊を望む者の節操も無くなっていき、手段を選ばなくなった。


 何度来ても同じ事なので全てを撃退した。どうしてそんなに世界を滅ぼす必要があるのかと考えたが、相手が誰か分からないので答えは出ない。

 こちらの存在を知らせる訳にもいかないので、相手は狙って投げたボールが何故か的に当たらないような経験を何度もしている。


 いい加減この状況を打破したいと考えて、終末感の漂う里を後にした。

 恐らく人生で一番移動したであろう旅が始まった。旅と言ってもインフラが半壊した道を只々進んだだけだが。


 自身の状態情報を意識以外巻き戻すという手法を編み出して、食事や睡眠が必須では無くなった。というか、そうするしか、この長い旅路を完走出来なかった。


 道の先々で、今まで自分が世界と思っていた物が、世界の一部である事が分かった。

 世界が広がるたびに、今の世界の状況が終末では無い事に驚き、自身の狭い世界を思い返して、怒り憤った。


 そうして旅の先に、遂に元凶となる人物へと至った。あまりにも堅牢な偽装と隠蔽の果てに、砂漠の寂れた宿場町の路地裏にある甕の中にその人は居た。



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