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魔王の世界6

 結婚!?


 何故そんな単語が今この流れで出て来たのか、そんな事がまるで分からないまま、私の思考は何故という単語に染まってゆく。


 よーく考えろ魔王、これは何を試されているのか、それが重要な事だ。

 だがしかし、結婚など今までの人生で一度も考えた事が無いので、思考の引き出しが皆無だ。


 何かないのか。漫画はどうだ? 駄目だ、結婚に至る漫画を何も読んで来ていない。

 世界を滅ぼす悪との戦いも、親友の裏切りも、切ない恋も漫画で読んできたのに、コト結婚に関する材料が、私の触れた漫画には無さ過ぎる。

 おかしい。漫画の登場人物は結婚していたりするのに、その意義、意味、方法に至っては何も描かれていないのだ。


 結婚って何だ? 一体何の為にどうやってするんだ?


 とにかく、何かこの先の展開を乗り切る助けが欲しい。


 そうだ!漫画で結婚の話が湧いたときは、望まぬ相手との縁談なりを回避する為に、婚約者を擬装する王道のヤツがあるではないか。

 きっとその手の話に違い無い。烈風先生の家庭環境は複雑なので、如月家として何かあり、そのヘルプが私に来たのだろう。

 如月家の事情を知る者は少ないし、私にこの話が来たという事も理解出来る。


「結婚というといまいち話が見えないのですが、もしかして烈風先生のご実家に関わる話ですか?」


「わしの言う結婚に如月の家は関係無い。わしが単純に魔王と結婚したいという事じゃ」


 え、ちが、何? 唯一の可能性を否定されて、思考は振り出しに戻る。


「あの、よく分からないので確認なのですが、烈風先生は何の目的で結婚しようと思われたんですか?」


 烈風先生の眉間に一瞬シワが寄る。ハンバーグは既に完食してしまったようだ。

 視線を私から逸らし、ピザをカッターで正確に切り分けている。


「目的か。確かに魔王がわしと結婚するメリットは少ないじゃろう。じゃが、魔王の気付いていない利点もある。それを説明しよう。まず、わしと家族になれば食いっぱぐれる事はのうなる。今の収入だけでも、贅沢三昧とはいかんが、それなりの暮らしは出来るじゃろう。後、わしからは色気を感じる事は少ないと思うが、年齢と比べて見た目はかなり若い。むしろ若すぎるじゃろ。エッチのときに色気は無くとも背徳感はある。これはわしからか、法を犯す以外に摂取する事が出来んという事は、かなりお得なんじゃ」


 結構な早口でまくしたてられ、上目遣いでチラチラ見られると、頭の中でいけない妄想が広がりつつあった。

 いかん、冷静に考える力がもう残っていない。何かとんでもない方向へ進もうとしている事、烈風先生を正しき道に戻した一心で、私の最後の理性が保たれていた。


「ち、違います。烈風先生に非があるのでは無く、烈風先生は私から得る物が何も無いですよ、という話です」


 烈風先生は何らかの感情を噛みころしてピザを口に運んでいた。


「魔王よ。わしは年が明けてから考えておった。漫画しか描いてこなかたったわしは、漫画描きという職があれば十分じゃとな」


「それはそうでしょう。烈風先生は我々読者に素晴らしい漫画を見せてくれますし、先生はそれを良しと思っているなら、何も問題は無いではないですか」


「問題は無い。だが、それは他を知らぬだけじゃ。特に人を好きになる事も無く、男からそんな素振りを見せられる事も無く生きてきた訳じゃが。それはわしが素の感情で人と付き合うてこなんだからじゃ。そんなわしが憧れの漫画描きである魔王と、話してみて分かった事がある」


「それは一体何でしょうか」


 自分の唾を飲む音が一際大きく聞こえる。


「魔王の漫画を描いていない時間の全てが欲しいと思った訳じゃ」


 え、何か、怖い事を言われた気がする。


「漫画以外と言うと、今のような時間でしょうか?」


「そうじゃな。この感情が何か分からん。世間一般で言うところの恋かもしれん。ただ、強烈な独占欲求が止まらんのは確かじゃ。この感情に見合う事を成そうとすると、結婚以外に思いつかなんだ。これがわしが考え抜いた結論じゃ」


「その、烈風先生の考えを否定する訳ではありませんが、やはり結婚は早計なのではと思います。恐らく後悔する結果にしかならないかと」


 何の恋愛経験すら無い私だが、烈風先生の感じから、遅めに来た青春の逆噴射にしか感じられない。


「確かに、魔王からすれば人生を縛られるだけじゃからな。そういった感想にもなるじゃろう。だからこそ、わしからお願いする事にしたんじゃ。選択権は魔王に委ねる。魔王の人生の半分を貰う代わりに、わしの全てを差し出そう。最初に言うとったBCアニメの情報も欲しいままじゃぞ?」


 烈風先生はまだ自身が損する駆け引きをしている事には気が付いていないようだが、私側に選択権があるのは良い事だ。


「魅力的なお誘いですが、やはり烈風先生を第一に思えば、私との結婚はしない方がいいでしょう。私には知れば必ず嫌になる要素など、星の数ほどあります。家で一人で居るときなどは、必ず全裸ですし、私の漫画もそうした環境で出来上がっている訳です」


 このエピソードは恥ずかしいが、かなりドン引きだろう。好きな漫画が全裸のキモ豚によって生産されている事実は、知りたくないだろう。


「ほう、奇遇じゃな。わしも全力で漫画を描くときは全裸よ。アシには見せられんから箱に入ってやっとるがの」


 やばいですよ!まさかのカウンターエピソードによる共感がくるとは。しかも烈風先生がやったらエッチ力が高すぎるでしょ!

 治れ、治るんだ私のエッチな妄想よ!


「細かい事は置いておいて、とにかく総合力で私は最悪に近い存在なんです。何卒、お考え直し下さい」


 ピザを完食した烈風先生が、パスタをクルクル巻きながら、思案している。


「つまり、わしの知らない魔王を知れば、わしが結婚を後悔する、魔王はそう確信しとる訳じゃな?」


「そうです!その通りです」


 私が自身で理解する通り、私という人間は実につまらなのだ。

 あちらから自身の役割を放り出して、こちらで好きな事だけをやっているのだ。


 私という人間の部分で、誰かを満足させる事は無いだろう。むしろ退屈に感じ筈だ。

 漫画だけ、漫画だけが、少しだけ他者を満足させるのだ。烈風先生は、私の漫画が好きだからという付加価値によって私を過大評価している。

 漫画が喜ばれているという点では、烈風先生の方が圧倒的なのだから、逆に私からみれば、私と烈風先生を一緒にしてはならない。


「わしが魔王の全てを知れば問題無いじゃろ。ほじゃったら、この後早速お互いを知る時間を設けよじゃないか。魔王のトコでも、わしのトコでもええが、二人っきりでゆっくりしようや。何、わしもこんな事は初めてじゃが、そこは如月流を学んどる。人体については熟知しとるけん、魔王のことしっかり満足させちゃろ」


 な、な、な、な、何というエロス!


(さっきからちょいちょいやってくるエッチな精神攻撃!反則ですからね!!!)


 心の中の大絶叫を抑え込んだところで、私のKP(賢者ポイント)は0になった。


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