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魔王の世界2

 妙だな。菅田氏は田舎を出禁になっているはず、それが帰省とはおかしい。

 単に一人暮らし先から実家に帰ったというだけかもしれないが、あちらからの連絡があるとは何事なのか。


「魔王先生。僕があちらとどうやって連絡したのか気になりました?」


 菅田氏が見透かしたかのような表情を寄せてくる。


「気になるというよりは、菅田氏にはあちらの人間、特に政に関わる奴等とは関係を持ってほしくは無いと思ってる」


「政府筋の人かは分かりませんが、ほら、前に魔王先生を探してほしいと依頼してきた人でした」


 もろに中枢の人間だ。以前に警告はしたはずだが、それを押しても差し迫る事態になっているという事だろうか。


「ちなみに、その人の伝言の内容は?」


「禁星虫の処遇についてだそうです」


 なるほど、確かに厄介事ではあるが、単純にそれだけで連絡してくるだろうか。何か別件が絡んでいるに違いない。


「私にはどうする事も出来ない。答えられる事は何も無いよ」


 菅田氏が少しムッとしたように顔を強張らせる。


「禁星虫ってなんですか? 教えて下さい」


「いや、菅田氏には関係の無い事だから…」


「関係はあります。僕がお願いされた伝言な訳ですから、返事は僕が返さないとです」


「しかし」


「魔王先生。僕は学生時代には、女みたいだと言われ、それはそれは嫌な目に会いました。今でも言われた事は全部覚えているし、許せないと思ってます。ただ、そんな人でも目の前で助けを求めて、僕がそれをどうにか出来るなら、僕は助けます。何故か分かりますか?」


「いや、よく分からん…」


「自分の為に助けるんです。僕はその人達と違って無慈悲な人間では無いと言ってやるんです。いい仕返しになると思いませんか? それに、今周りにいる僕が好きな人達に、無慈悲だと思われのも嫌なんです」


 菅田氏は真っ直ぐにこちらを見てくる。私が嫌な人間になってほしく無いという、菅田氏からの意志がビンビン伝わってくる。


 私自身、故郷については何も感じ無い。退屈な場所、ただそう感じるだけだ。

 菅田氏は私が故郷で何かあったからこちらに来たと思っているようだが、そうでは無い。何も無いからこちらに来たのだ。


 何も無い、いや、実はそうでも無い。縁のある人は居た。ただ、全ての人達が虚無に捕らわれているようで、それがどうしようも無く退屈だったのだ。


 別にあちらの世界が破壊されてしまえとは思っていない。いざ、あちらが完全に消滅してしまったとしたらどうだろう。


 それは少し寂しい気もする。そう考えれば、私があちらに助力する理由も多少はあるのだろうか。


「考えて見たが、よくわからん。ただ、菅田氏の問いには答えよう。えーと、禁星虫とは何かだっけ?」


「そうです。僕にも分かるように優しくお願いします」


 菅田氏は満足そうだ。出会った頃から猪突猛進気味だったが、最近は筋の通った突進をするようになった。

 やはり、烈風先生のところで漫画を学ぶと、あの気骨が身に着くのだろう。


「分かり易くか、そうだな。あちらでの強さとは何だと思う?」


「そうですね、意思の強さですか? 意思が現象を形作るんだから、意思の一番強い者が最強ですよね」


「うーん、まあ、そうなんだが。あちらでは、意思がシンプルであればあるほど、力が込め易い。シンプルな理論、簡単な思考こそが強さとなる。そう言う点では、禁星虫は最強クラスになる」


「虫が最強なんですか?」


「虫なだけに最強なんだよ。なんせ、月よりも大きな一匹の虫だからね。虫なので話も通じない。障害を排して餌を喰い、そして恐らく卵を産んで増殖する」


「そんな大きな虫をどうするんですか?」


「まあ、それを今回聞かれているわけなんだが」


「聞かれているという事は、まさか駆除出来る人がいないんじゃ?」


「いや、問題は駆除するかどうかなんだよ。菅田氏は巨大な虫と聞いて、直ぐに駆除すると考えただろう?だが、あちらの、特に私が居た国はそう考え無い。何故ならば、多様な世界を許容しようという意思の元に結束しているからなんだ」


 菅田氏の頭にはハテナが飛んでいる。


「いや、だって、そんな大きな虫が食事をしたら、世界が無くなってしまいますよ。こっちだって無事では済まないでしょ?」


「まあ、そうなんだが、禁星虫はそれ単体が一つの世界な訳だ。虫一匹だけで出来た世界な訳だから、世界の多様性を認めるあちら側は、自らの論理で駆除という選択を悩んでいるんだよ」


 あの国が、ある意味ではこちらを保護している。あちらにとってこちらは未開の地。未発達で原始的な世界として、比較的手を出さない方向で管理しているのだ。


「ところで、そんな大変な判断を何故、魔王先生に聞いて来ているんですか? 魔王先生、実はあちらで本当に魔王をやっていたんじゃないですか?」


 菅田氏は目をキラキラさせている。


「いやいや、違う違う。私というか、私の家は言ったら占い師みたいなトコだから。前も禁星虫の件で助言をしたんだよ」


「えー、怪しいな。だって今回魔王先生に相談が来ている訳でしょ。普通なら魔王先生の実家に相談が行って、今頃は問題解決しているはずでしょ。でもそうじゃないという事は、魔王先生にしか出来ないなんかがある訳ですよ。これは、そーとー怪しですよ」


 いちいち鋭いのが、菅田氏のいいところであり、厄介なところでもある。


「それは、ちょっと企業秘密的な事で全部は言えないんだけど、前回対応したのが私で、そして同型案件の場合は、別の担当者に移行出来ない的なルールがあるんですよ」


「ま、でも、結局は魔王先生がどうにかするしかないんでしょ。だったら、ちゃちゃっと占ってあげたらいいじゃないですか。占いなら、魔王先生が何かする訳では無く、占いを聞いた人が行動するんでしょ。なら、そんなに大変な事では無いと思いますけど」


 菅田氏は無知故にぶっこんで来るが、言っている内容は的を射ている。実際に直ぐに対応する事は可能なのだ。


「いやいや、ここで私が受けてしまうと、第二第三の依頼者が現れて、あっちに居るのと変わらなくなってしまう訳ですよ。それはなんかやだなー。私だって一応はプロの漫画描きなんだから、その辺りは誇りを持ってやっていきたい」


「プロと言うなら、占いもプロな訳でしょ。なら、そこは受けないとでしょう。プロなら対価だってもらえるでしょうに」


「あっちの対価を貰ってもなー…」


「分かりました。対価は僕が払います。そして、その対価分はあちらの人から僕がもらいます。これならばいいでしょ」


 菅田氏はこの件を真剣になんとかしたいようだ。


「菅田氏が払うって、一体何を?」


「前にもちょっと言ったかもですが、僕の体でどうでしょう。知っているんですよ。僕の事を男だと分かった上で、エッチな目で偶に見てますよね。いいんですよ。欲望に正直になっても」


 ズイッと菅田氏が迫って来て、私の腿に人差し指を押し立て、ゆっくりと登ってくる。


「なっ………!」


「冗談ですよ。でも対価は魔王先生が欲しそうな物を用意するので、待って下さい。だから、この返事受けましょう」


 菅田氏の圧倒的な押しに、私は抗えなかった。あちらに関わるのは何十年ぶりだろうか、ふとそんな事を考えていた。

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