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烈風の漫画14

 四天王と四年分の話をした。スパピンの話、四天王会の話、魔王の話、神々先生の話、ネットではしてこなかった顔を合わせてしか出来ない話をした。


 特に素性の話はしなかったが、皆、何らかの創作に関わる仕事をしているようだった。


 魔王の漫画は、創作をする者に刺さる。それは身をもって理解している。


 創作者は時として自身の創作物を直視出来なくなる。何処で手を抜いたのか、いつ妥協したのか、自身が一番知っているからだ。

 魔王の漫画はそれを突きつけてくる。別に魔王の漫画が最高の話と最上の絵で構成されている訳ではないのだ。

 ただ、魔王は尋常ならざる熱意を込めてくる。


 魔王の漫画が、無期限で創作される作品なのであれば理解出来る。しかし、魔王は商業の中の製品として出してくる。

 そんな、創作者が商業の中で諦めてきた物を思い出させる漫画、それが魔王の漫画なのだ。


「名残惜しいのですが、お店が閉店時間故、そろそろお開きにしたいと思います」


「そうか。ほいじゃあ、しかたないのう」


「そこで、拙僧から最後にお願いなのですが、勇者王殿には来年も是非に本を描いて頂きたい。恐らくは本職の方なので、お忙しいとは思いますが、あなたには同人という場も似合っていると感じました。何か大きな感情の解放を感じるのです。きっと、その先にまだ見ぬ世界が広がるはずですので」


 わし自身の為に描いた本だった。どうにも割り切れ無かった、鬱屈とした感情を解放する為に描いた。

 それ自体は成功した。本は全て売れたし、四天王からの好評も得られた。これだけで良かった。


 しかし、次など考えても見なかった。真似で始まったわしの漫画描き人生が、途上で真似を嫌い、今、2次創作という真似がまた巡ってきた。

 結局、真似るほどに好きだから、真似るのだ。そんな気持ちで本を描いて見るのもいいものだ。


「期待に沿えるかは分からんが、また描いて見てもいいとは思っとる。じゃが、今度みたいにぎょうさんページは描けんぞ。それでもええか?」


「拙僧、楽しみにしております! 今回は薄い本の限界を突破されておったので、正直、驚嘆の限りでした。また、次もお会い出来る事をお待ちしております」


 情熱ノは深々と頭を下げた。気がつくと、四天王全員が頭を下げていたのだ。


「なんかむず痒いのう。勇者王と四天王はこれまで通り、スパピンについて語る仲じゃろうて」


 わしと四天王は、和やかな雰囲気でそれぞれが帰路に着いた。


 ―――


 年末の暮れという事で仕事場には誰もいない。カレンダーを気にする事無く進む仕事ではあるが、年末年始だけは違う。


 一応、形だけは掃除をした部屋の空気がシンとしている。どうせ仕事が始まれば、直ぐにいつも通りになるだろうが、今のこの静まった感じを懐かしく思う。

 この雰囲気は、実家の道場に似ているのだ。動を待つ静の空気、正直この感じが好きだ。


 わしの実家が国家の暗部に関わっている事が分かったが、別に印象が変わった訳ではない。

 あれ程研ぎ澄ました技を何に使うのかと思っていたが、あれ程の死闘に使うのであれば納得だった。


 兄上はわしを如月の長に据えると言っていたが、今のところ何の動きも無い。

 あわよくば、わしの子でも良いなどと言ったときは怒りに我を忘れたが、魔王が巻き込まれなくて良かった。


 あの件について、魔王には何も説明は出来ていない。昨日の会場では少し会ったが、直ぐに気絶させたし、終わり際に話た程度なので、結局有耶無耶のままだ。


 そう言えば、子がどうのと話になった際に、魔王は特に気にしていないようだった。

 自分の子に生き方を強制したくは無いと言っていたが、子がある事は別に普通のようだった。

 という事は、魔王はわしとそうなっても別に構わないという事なのだろうか。


 そう考えると、なんだか異様に恥ずかしくなってきた。


 仕事の関係で出版社関連の人には会うし、その中には異性も多い。

 常人より感覚が鋭いので、性的に見られているという事はあった。いや、どちらかと言うと合法ロリ的に見られているのだと思う。


 魔王はわしをどう見ていたのだろうか。魔王には何回も会っているが、いまいち良く分からない。

 魔王に会うとき、スパピンのファンであるわしの意識が強いのか、魔王の事は気にする余裕がなかった。


 グツグツと体が煮えたぎっているような気がして、思わず箱の中に入ったしまった。

 いつもは、道具と身一つで入る箱だが、今は焦ってそのまま入っている。

 自身を解放する為に入る箱なので、今は様子が違う。

 とにかくいつもの様にしようと、着ている服に手を掛けたとき、携帯端末が通話がある事を知らせてきた。


 バタバタと箱を出て通話を開始すると、相手はアキ姐だった。


 ―


 アキ姐は近くから連絡してきたようで、直ぐに仕事場へとやって来た。


「お嬢、こんな時期に押しかけて来てすいません」


「いいんじゃ。なんか急ぎなんじゃろ?」


 アキ姐はこの時期わしの代わりに、関係各位への挨拶周りをしてくれている。今日も出版社主催の忘年会があるので、その準備をしていたはずだ。


「ええ、年末の挨拶の中で、少し大きな話が出まして、早急にお嬢に確認しようと思い、来ました」


「なんじゃ? BCのアニメ化の話でも来たか?」


 この手の話は過去に何度かあったりはした。ただし、アニメには沢山の人と相当なお金が掛かるのだ。

 時勢によって様々な意見が入るので、実現するまでにはかなりの調整が必要になる。

 なので、話が途中で立ち消える事などよくある。


「はい、お察しの通りです。今回はかなり有利筋からなので、会社も実現性は高いと考えているようです」


 自身の漫画がアニメになる。漫画描きならば、それが夢である人も多いだろう。

 わし自身にとっては嬉しい事である。しかし、夢かと言われれば違う。


 わしの漫画が、わしの預かり知らぬ場所で展開する場合、わしは打算的になってしまう。

 アニメ化は漫画を売る上では有利だ。読者からも望む声はあるし、展開によっては追い風になるだろう。


「わしのスタンスは前と変わらん。会社がやりたいんじゃったら、わしも賛成する」


「そう仰ると思っておりましたが、確認は必要かと思いますので、簡単な要件だけでも手を通して下さい」


 年末のこんな時期に話を持ってくる先方もどうかと思うが、それを真面目に即座に持って来てくれるアキ姐には頭が上がらない。


「分かった。確認しよう」


 思わぬ方向で、わしの漫画が新たな方向に流れ初めた気がした。

 実は少しホッとしているのだ。何か集中する事が出来て良かったと思う。


 魔王の件は一回保留にしたい。今はまだわしの漫画の事だけを考えていたいのだ。

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