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烈風の漫画12

 魔王四天王に囲まれて焼肉屋に居る。


 ネットではスパピンについて議論を交わす間柄だが、リアルで会ったのは初めてだ。


「そう言えば、勇者王殿の会長ツボミフォームコスのお写真ですが、ご入用であれば言って下され。こちらのアドレスにアクセス頂ければ、いつでも取得する事が可能となっております。無論、拙僧からこの写真を許可無く誰かに渡すような事もありませんので、安心して下され」


 エイジヤは四天王のまとめ役だ。その二つ名の通り自らの情に熱く、また他者の情熱にも共感するが故に、ネットコメントの荒れを抑えさせたら右に出る者はいない。

 エイジヤが有るが故に、四天王は纏まっていると言っても過言では無いのだ。


「あのコスについては俺からも言いたい事がある。あれはスパピン以前を描いた過去創作とも言える物であり、そちらの解釈によって創られた身勝手な要素もはらんでいるが、実際その設定は原作に忠実であり、フォーム名のツボミも会長の正装である大輪の途上という点で、実際24話でも語られている通り、大輪形態には愛欲淫堕要塞ドエロスとの何らかのイニシエーションがあった事が示唆されており、そこにツボミという準備段階はあり得たであろうが、しかし、そこはやはり衣装というよりは祭壇や装置のような、大きな仕掛けが要塞という物を大輪という状態に圧縮さしたのではというのが自然な流れ……」


「ソーマ君!いきなり長いよ」


 妄執のソーマ、歓喜のオーランジャはネットでも同じ時間に活動している事が多い。リアルでも近しい間柄なのだろうか。


「ソーマさんの言いたい事もわかります。実際、あの本には驚きました。あれは同人と呼ぶには似つかわしく無い。そうですねエイジヤさん?」


「確かに、拙僧の見立てでもそうです。同人など、皆自由に描けばよいので、形式ばった事を語るのは違うのですが、あの本にはあまりに我がなさ過ぎた」


 真理のスワンは何事もロジカルに考える。2人はわしの本に意見があるようだ。

 わしも、これを聞くために来たようなものなので、望むところだ。


「わしの本に意を唱えるという事かの? ええじゃろ。真理ノ、情熱ノ、わしが本の作り手として答えちゃろう」


 わしの言葉に、一瞬四天王の視線が集まる。そう言えば、四天王とまともに言葉を交わすのは、これが初めてだった。


「おっと、これは失礼した。あまりにもネットでの言と同じなので、拙僧とした事が呆気に取られてしまいました。ここはいつもの板と同じように、今宵は語らいましょうぞ」


 何故か四天王は、こちらを見てほっこりしているようだ。

 だが、わしとて四天王に言いたい事は山ほどある。このまま雰囲気に気圧される訳にはいかない。


「ええじゃろ。まずは本に我がないんじゃったか?」


「これは、誤解無きように頂きたいが、我とは我欲の事ですぞ。同人本とは、自身の内なる思い、欲求によって創造される事が殆どです。どんなに聖人を装って隠したとしても、作者からの我を理解せよというメッセージを消す事は出来ないものなのです」


「そうですね。あなたの描いた本は、その全てがスパピン原作の布教に繋がっている。これを魔王先生本人が描いているなら分かるが、他人のあなたが我欲無く、この素晴らしい本を作り上げたのか、実に興味深いですね」


 わしはわしのスパピン愛を本に乗せた。後は売れるように仕掛けを入れただけの事だ。

 我欲が無いというが、そんな事は無い。わしが一番スパピンを愛している、それを四天王全員に分からせてやるという、歪な我欲が乗っているのだ。


「わしは偶然にもスパピン同人の制作許可を、魔王先生本人からもらう事が出来たんじゃ。だから、今回描いた。それだけの事じゃ」


 エイジヤのメガネが光り、何やら大きめの携帯端末が置かれた。


「それではまずこの本の評価からご説明しましょうぞ。これは拙僧の伝手で集めた情報です」


 携帯端末にはプレゼン資料のような物が表示された。


「ほう、これは凄い。エイジヤさん、この短時間でよくここまでまとめましたね」


「多少の粗はご容赦下され。ひとまず、100人評価ですが、読んだ者の74%が即座に売ってくれとの打診をして来ました。これは凄まじい事ですぞ」


「我々ならいざ知らず、一般的にスパピンは超マイナージャンル。エイジヤさんの伝手であれば、同人界では目の肥えた方々ばかりのはず。そんな人達が所持を希望するという事は、相当使えるという事ですね」


 今回の本は、手に取った読者を内容に引き込むように、エロさにもこだわった。

 スパピン自体が、キャラ設定は確実にエロに寄せてあるのだが、何故か魔王先生はその設定に制限を掛けて物語を進行する。

 そのもどかしさもまたスパピンの魅力なのだが、わしの本はエロ同人なので全開放した。


「それで、その、あ、オーランジャ殿、この辺りの質問をして頂いていいですかな?」


「何?何? また、野郎どもがエッチな話してんの?」


 肉を焼いていた歓喜ノが、こちらにズイズイとやって来た。


「スパピン本なら誰しも想像する展開じゃろ。ここは正当な評価じゃと思うがのう」


「野郎どもは、エロの使い方が普通じゃないって言いたいみたいよ。あ、ねえ? 子子ネコちゃんって呼んでいい?」


「別に構わん」


「じゃ、ネコちゃん。エロの使い方が上手すぎるんだけど、もしかしてエロ漫画界隈の方なの? あ、答え無くていいよ。ただ、思い当たる作家さんもいないから、ちょっとね」


「展開的にはテンプレじゃろ。別に上手くは無いはずじゃ」


「無知シチュからスタートして、むっつり暴走からの触手で、最後はイチャラブふたなり、なんて確かにテンプレではあるけど、効果的に使え過ぎているよ。さっき我欲がどうのって話があったけど、テンポが良すぎて何回も読んじゃう。エロ同人本なんだから、もう少しくどくてねっちょりしてもいいのに、なんだか完璧過ぎて、逆に変な感じするよ」


 ネットでは、何が良いでしか語らない、歓喜ノとは少し印象が違う気がする。


「なんじゃ? 結局、気に入らんという話か?」


「ああ、いや、これは違うの。これはただの嫉妬。あたし書く系の仕事なんだけど、なんか、してやられちゃったなーと思ってさ。まあ、つまりこの本は最高ってコトだよ」


 歓喜ノは自然に肉焼きに戻っていった。


「オーランジャ殿の言うとおり、一般的にもこの本の評価は高いのです。拙僧が思うに、転売で高値になりそうなので、ノージー殿に連絡して至急増版とネット販売を開始した方が良いかと」


「それは、まあ、後でええわ。それよりも、今は感想を聞かせてくれ」


 わしの本は四天王を納得させる内容だったようだ。


「感想か。ならばまだ言い残し事がある」


 妄執ノが徐に立ち上がった。若干フラフラしている。


「ソーマ殿。大分出来上がっておりますな。迷惑行為にならぬように頼みますよ」


「分かっている。勇者王よ。何故今までスパピン本を描いてこなかった? 俺達がネットで出会ってから、もう3年は経過しているな? あの頃からお前の熱は変わっていない。ならば、何故今なのだ? 」


 妄執ノの言葉にハッとした。確かにそうだ。何故今まで描いてこなかったのだろう。

 わしは漫画描きで、BCに忙しかったからか? いや、それならば今も状況は変わっていない。


 わしの何が変わったのか、それは明白であった。


 そう、わしは魔王に会ったのだ。


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