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烈風の漫画11

 今、本を買おうとしている男、恐らくは四天王の1人に違いない。

 そう考えると、さっき5冊買って行った写真の男も、四天王である可能性が高い。

 マイナージャンルの無名作者の本を開幕いきなり買いに来るなど、普通あり得る事では無い。


 わしの戦線布告を受けて、四天王は動き出したに違いない。

 わしの正体を見極めようとしているのであろうが、わしの姿からそれを推察出来る者などいないだろう。


 今居る男は言動から察するに、恐らく[真理のスワン]に違いない。

 客として来てはいるが、このサークルメンバーの手を観察している。

 間違いなく、勇者王わしを探しているのだ。後ろで転がっている魔王を見る時間も長い事から、魔王を知っているのだ。

 四天王は魔王と直接会っている節があったが、それが確信に変わった。


「この漫画を描かれた方はいらっしゃらないんですか? 是非ともご挨拶したい」


 スワンと思われる男は、更に探りを入れて来ているようだが、ノージーさんには作者は居ないと答えるように依頼済みだ。

 男は答えを聞くとあっさりとその場から離れた。


 わしの所へ写真でも撮りに来るかと思ったが、こちらを一瞬見ただけで、何処かへ行ってしまった。


 スワンは手を見て漫画描きかどうか判断しようとしたようだが、わしはこのコスであるが故に、常に手を隠した状態にある。

 奴にわしの正体が分かる訳が無いのだ。


 いい感じに写真を求める流れが無くなり、わしは本を売る為に行動を開始した。

 本やわしの姿に興味を示しているが、行動に移すには至らない人の気を読み、いい流れのときに話掛ける。


「この本、私出てるけど、どうかな?」


 小道具の学生鞄から見本誌を取り出して、ダイレクトマーケティングを展開する。

 本の表紙と同じ姿でアピールする事で、購買意欲を刺激しつつ、会話の流れで本を買い易い雰囲気にする。


 わしは、初対面の人とは漫画以外の話は出来ない癖があるが、会長に扮していると自然と言葉が出た。

 スパピンで会長が言った言葉、いいそうな事を考えると、会話はスムーズだった。


 わしの目論見通り、本は少しずつ売れ始めた。


「ねぇ。それってスパピンのコス? 会長っぽいけど、そんなフォーム知らないんだけど?」


 アースカラーの服を何枚も重ね着した丸メガネの女性が話掛けて来た。


「ほわっ! えーと、詳しくはこの本に書かれているので、あちらでお求めください」


 キャラになりきって対応する。


「ふーん。会長みたいだけど、ちょっと若い感じだね。本? 買う買う!」


 女性はノリノリで本を買いに向かった。


「よろしくでーす」


 女性が離れて行く気配がしたので、次の客を探しに意識を広げると、目の前に男が立っていた。


「写真、いいですか?」


 長身でビジネスカジュアルな出立ちの男は、既にカメラを構えていた。


「どーぞ」


 また写真の流れかと思いポーズを取ると、男は何故かヨロケて膝を付いた。そのまま、カメラで連写してから、そそくさと去って行ってしまった。


 わしの策は見事にハマり、本は順調に売れて、お昼になる頃には完売した。


 ―


 魔王が起きたので、適当に辺りを見て回る事にした。レイヤーの撮影会場は、独特の熱気に溢れている。


 外は寒いのでコスの上からコートを着ている。このコスは学生モチーフなので、コートを着てもそれなりに見える仕様なのだ。


「烈風先生がまさかそのようなお姿になろうとは」


「今は橘姫乃なんだよ。ちゃんと名前で呼んで」


 わしのなりきりっぷりに魔王はわたわたしている。


「で、では、橘氏。何故今日はこちらにいらしたんですか?」


「本を売るためだよ。全部売れないと悔しいじゃん」


「で、ですから、開幕私が全て買い受けると申し出たのですが」


「それじゃダメなんだよね。本を売るって、そういう事じゃないでしょ」


 わしのポーズ付きセリフに、魔王は顔を赤くして照れている。


 本は全て売れ、四天王は出し抜き、魔王を手玉に取る。なんと充実した日だろうか。


「そう言えば、知り合いからこれを渡すように言われたのですが」


 魔王は正気に戻って、果たし状と書かれた手紙を渡して来た。


 手紙には「勇者王子子殿 彼の地にて待つ 四天王」と書いてあり、住所と時間が添えられいた。


 四天王に正体がバレていた!魔王経由で伝わったのか?いや、魔王と四天王の接触は確認していない。四天王はあの場での情報だけで、わしを本の作者と断定したのだ。

 どこで気付かれてしまったのか。そんな視線や気配は無かった。四天王であろうという人物には遭遇したが、気取られるような情報は出していない。


 気になる。四天王がどうやってわしを特定したのか。


 わしは手紙をしまい、代わりにラッピングした本を一冊取り出した。


「魔王よ。橘姫乃はこれでしまいじゃ。この本を渡しておく。家に帰って中身を検めるようにな」


 わしは素早くその場を去り、四天王に指定された場所に移動する事にした。


 ――


 着替えを済ませ、会場を後にしたわしは、電車で移動していた。

 わしの生活圏からそれほど離れていない、ごちゃごちゃと店が並ぶ駅で降りた。


 指定の時間までにはまだ少しある。場所は何かの店の駐車場が指定してあった。

 先に場所を確認しておこうと思い、既に暗くなった細い路地を歩いた。


 駐車場に到着すると、予定時間前なのに、4人の影があった。


 わしの姿を確認すると、4人はそれぞれがポーズを取った。


「情熱のエイジヤ!」

「妄執のソーマ!」

「歓喜のオーランジャ!」

「真理のスワン!」


「「「「我等!魔王四天王!ここに推参!」」」」


 そこには、魔王四天王が待っていた。


 ―


 魔王四天王に案内されるまま、直ぐ横の焼肉店へと入った。

 小さな店ではあるが、全て個室になっており、歴史と拘りを感じる佇まいだ。


「勇者王殿。お酒は大丈夫ですかな?」


 興味本位で来てしまったが、周りは初対面の人だらけだ。咄嗟に小道具で用意していた生徒手帳に貼り付けた免許証を見せた。名前は隠してあるので問題無い。


「じゃあ、適当に頼んじゃうよ」


 オーランジャがわしの雰囲気を察して注文を進めてくれるようだ。


 今日のイベントを労う、当たり障りの無い話が流れていると、ゴトゴトと生ビールのジョッキが人数分揃った。


「では、拙僧より僭越ながら、乾杯の音頭を取らせ頂く。今日は良き宝と良き出会いのあった日。かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 ジョッキがギンと鳴り、皆威勢良く呑む。


 乾杯の雰囲気が落ち着くと、エイジヤが口元をニヤリとさせてこちらを見る。


「勇者王殿。どうやら、あなたはプロの漫画家の方ですな?」


 鋭い指摘にドキっとするも、漫画の話題でホッとした。


「なんでそう思うんじゃ。わしの本を見てか?」


「本は確かに拝見しました。されど、漫画の癖や絵柄から、どなたなのか断定する事は出来ませんでしたな。しかし、本を創る意気込みが、同人のそれとは違い過ぎた。故に、プロの方であると判断したのです。このような申し出をしましたが、この場は互い正体を探る場ではございません。我等スパピンを愛する者として、是非語り合うたいと思う次第です」


 情熱のエイジヤ。ネットでの印象通り、熱い漢であった。

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