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烈風の漫画7

「烈風先生のお兄さんの対戦相手なんですが、なんかロボみたいなの出て来ましたよ」


 魔王に促されて外を見ると、宇宙服に装甲板を取り付けたような、巨大な黒い人形が立っていた。


「太閤戦の規定では、闘士本人の重力含めて1tまでなら持ち込み可能ですよ」


 武田と呼ばれた男が飄々と回答する。


「そんなの、重火器を持ち込んだら勝ち確じゃないですか」


「ただし、太閤戦で相手の生命を奪う事は反則です。殺してしまうと重ーいペナルティがあるので、そこがミソなんですよ」


 心配そうな魔王の横で、金髪の男が嬉々として喋っている。


 そんな異常な状況で、わしは兄上の相手の戦力を無意識の内に測ってしまっていた。


「これは…、兄上の方が有利か」


「おやー、流石は如月の方ですね。簡単に見抜きますねえ。いやいや、そうですか。今回の対如月もダメですか」


「対如月じゃと?」


 口角を吊り上げながら、武田はわしを値踏みするように見てくる。


「今日この場がお初なお客人に、私がご説明致しましょう。まずは、今から行われる闘いが、戦争の代わりである事はご理解頂けてますか?」


「そんな事を言うとったな。戦争の代わりなんじゃから、勝者は敗者から何かを奪い取るんじゃな?」


「その通り、勝者総取りの謂わば賭けの場なんです。では次の確認ですが、戦争とは何に対して行われるモノなんでしょうか?」


 武田の吊り上がった口角の先から、赤い舌がはみ出している。


「そうじゃの。戦争の片側には必ず国がある」


「正にその通り! 如月流の当主は、私共の国の筆頭闘士なんですよ! つまり如月烈火が負ければ、国益が奪われるという事になります! 尤も、あなたは如月烈火の勝ちを確信されているようですがね」


「対如月の答えをもろうとらんぞ」


「そうでした、そうでした。如月烈火の相手は、海外のお客様です。まあ、大陸のとある国とだけお伝えします。あちらのお客様は、今負けが込んでおりまして、如月烈火が相手をするのはこれで3回目になります。あ、あちらの闘士は三回とも別物ですよ。最初は、兵器の見本市のつもりだったようですが、今は形振り構わずといった感じですね」


「相手は兄上の対策をしとるんじゃな」


「対策になっているのかは分かりませんが、銃器は無意味と判断して、護りに徹し、当たれば一撃必殺といった布陣でしょうね」


 武田のサングラスから僅かな機械音と光が漏れていた。


「烈風先生のお兄さんが負ければ、この国は何かとんでもない物を失うのであれば、私達は応援するくらいしか出来ないんじゃないでしょうか。そろそろ始まるようなので、こちらで応援しませんか」


 魔王が重い空気を紛らわそうと、提案してくれているようだ。


「そうじゃの。今は兄上の勇姿を見守るとするか」


 ガラスの外に広がるコロシアムのような会場は、闘士の紹介アナウンスが終わり、闘いが始まるところだった。


 わしは魔王の隣りの席に座った。


「お兄さん、いや烈火さんももっと防具を付けた方がいいんじゃないでしょうか?」


「ふむ、一般的にはそうじゃが、兄上には無用じゃ」


「如月流は気を扱いますからね」


「気?ですか? そんな漫画じゃないんですから」


「そんなご都合の気では無いですよ。そうですよね烈風さん」


 武田はガラスに触れ、兄上から目を離さず、わしに言葉を向けてきた。


「そうじゃ。気とは単に空気の事。音を聞き、匂いを感じ、風を読む。五感を空気に集中する事で、相手より先に相手を知るのが如月流じゃ」


「そんな事が出来る人間は如月の方達だけなんですがね」


「仮にそうだとして、あの装甲板をどうやって抜くんでしょうか」


 魔王はとにかく心配そうだ。


「兄上には考えがあるようじゃぞ」


 わしが魔王に説明している隙に、兄上が仕掛けた。地面に頭が付きそうな低さで、相手の死角へと周り込む。


 相手は兄上の動きに反応して、白い煙のような物を全身から噴射した。


「うわっ、スモークを出しましたよ! あんなの有りなんですか?」


「催涙ガスでしょうね。しかも接近すると感電する遠隔スタン付きです。如月流に弾は当たらなかったので、絶対に当たる物を出してきたようです。中々考えてますね」


 兄上の周りだけ、白い煙が無い。呼気と体の動きだけで、周囲の空気をコントロールしている。


「兄上は読んでいたようじゃな。ガスは匂いで事前に把握したんじゃろ」


 相手の脇腹に兄上の貫手が刺さる。分厚い防護服に阻まれて、相手にダメージは無いようだが、ガスの勢いが弱くなった。

 兄上は一撃を入れた後、直ぐに後退した。兄上が先程まで居た辺りに青い雷撃が走る。


「な、何があったんですか? なんかお兄さんが圧倒してるみたいですけど」


「ガスを出しとる機構を破壊したんじゃろ。機械式ならモーター音で大体の構造は分かるからの」


「しかも、相手の全身にはスタン用の電流が流れていたはずなんですが、それを掻い潜って一撃を入れています。如月の方は空気中の電子の動きまで見えるんですかね?」


「構えから読んだんじゃろ。電流を流すんじゃから自分も感電する可能性はある。そうならない為に電流が流れていない部位を作る必要がある。兄上はそれを相手の動きから読んだんじゃ」


「烈風先生のお兄さん、超人過ぎませんか」


 相手の防護服からは、びっくり箱のように色々な仕掛けが飛び出すが、兄上は相手の力を利用して、防護服を削いでいく。

 まるで、パワードスーツの解体ショーのように相手の護りは削がれ、半身機械のような壮年の外国人男性が床に伏していた。


 相手の意思が無い事が確認され、兄上の勝利がアナウンスされた。


「あちらの技術もまだまだですね」


 武田はガラスをトントンと叩きながら、何か物思いに耽っている。


「あのー、相手の方はこの負けを素直に受け入れるんでしょうか? やはり納得いかないから、結局は戦争になるんじゃないかと思うんですが」


 魔王の言っている事ももっともだ。あれだけの技術があるのであれば、それを搭載した兵士の数で攻めればいい。


「その点についてはご安心下さい。太閤戦は、そもそもが戦争によって失われる益、即ち有益な人物の保護を目的としています。無駄に人が死なない事が、この制度が今まで残ってきた理由なのです。ですが、時に人は暴発する。それを未然に防ぐのが、私共、武田家の役目です」


「じゃあ、過去にこの国であった戦争というのは?」


「そう、私共、武田家ですらも暴発した事があるのです。正に恥じるべき、償うべき出来事でした。しかし、結局人は太閤戦の仕組みに戻って来る。何故か分かりますか?」


「人は結局、失う事が恐ろしいからですか?」


「それもありますが、そう、どんなに力を持とうとも暴発しない者がいるからなんですよ。それが正に如月なんですけどね」


 武田は子供のように笑っている。


 わしは知ってしまった。如月の事、そして兄上の事。知ったとしても、わしには何の影響も無い事が分かった。


 だが、それならば、兄上はどうしてわしに事実を教えたのだろうか。

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