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烈風の漫画6

 扉が破壊され外の空気が流れ込んでくる。


 外からの光で扉を破壊した人物の像は影のように見えるが間違い無い。そこに立つは兄上だ。


 何故兄上がここに居るのかは分からない。家に何かあったのだろうか。


「こがなとこにおったか烈風。儂といっしょにこい。話がある」


「兄上! ここは他所の家じゃ! 無礼じゃろが!」


「そうか。ん? 」


 兄上の雰囲気が変わる。昔、道場で感じたような、如月の家の者が放つ独特な気配だ。


 兄上はこの部屋の異質さを読み取ったのだ。


 兄上は一歩も動いていないが、何かが部屋に入り込んでくる感じがする。


「ここは魔王先生の住居じゃ! 勝手は許されんぞ!」


「武田ぁ、やめい!」


 兄上が声を放つと、靴箱の影からもう1人誰かが現れた。

 全身が黒尽くめで、何か特殊なサングラスをかけており、髪はキラキラ光る程の金色だ。


「手伝ってあげようと思ったのに」


 金髪の男は肩をすくめて、大袈裟なポーズをとっている。


「兄上は、わしに用事があるんじゃろ? ほじゃったら、はよいこや」


 兄上は手を組み替えて、わしの後ろを見る。


「そのつもりじゃったが、後ろの奴から妙な気配がしよる。なあ、丸ぁるいニイさんよ。ちょっと顔かしてもらおうかの」


「魔王先生は関係ないじゃろ!」


「元々、烈風の知り合いの部外者も同行してもらうつもりだったんじゃ。手間が省けてちょうどええ」


「なんちゅう勝手じゃ! そんな事はわしが許さんぞ!」


 兄上と同行者を倒して、逃れられるか。魔王を連れては難しい。

 そんな事を考えながら、周囲の気配を読む。


「私は別に同行してもよいですよ」


 気配に集中していたからこそ、その声に驚いた。


 声は後ろからするが、発声されるまで感じとる事が出来なかったのだ。

 わしの近くで、わしに悟られ事無く行動出来る者は、そういない。


 振り返ると、少し引きつった笑顔を作っている魔王が居た。


「もの分かりのええニイさんじゃ。外に車停めてあるけん、乗ってくれんか? あとな、扉は儂等で修理しとくけん、心配せんでもええ。戻ってくる頃には元通りじゃ」


 兄上の言葉に促され、魔王は普通に動き出す気配がした。


「なんだか知らないですが、烈風先生いきましょう。しかし、烈風先生の周りの人は、過激な方が多いですね」


 魔王の声はいつも通りだ。普通に気配がある。兄上は魔王の気配の異変には気が付いていないようだ。


「あ、ああ、魔王よ。すまんな、妙な事に付き合わせて」


 色々と出来事はあったが、唯一冷や汗をかいたのは、あの魔王の声だけだった。


 ――


 装甲車のような車に乗せられて、高速道路を走っている。

 車内は広く居住性の高い構造になっており、わしと魔王が並んで座り、兄上が向かいに座っている。

 運転は先程の金髪男、武田という名だったか、そんなような人物がしているようだが、運転席は見えない。


 車の窓はスモークガラスで外は見えず、外の音も聞こえないようになっている。

 しかし、わしにとっては、気配によって外の様子は分かる。


「兄上。西に向かっておるようじゃが。わしらを何処に連れていくつもりなんじゃ?」


「烈風よ。一応、言えん場所に向かっとるんじゃ。あんまりバラさんでほしいのう。おい、武田よ。お前んとこの技術も、大した事は無いのう」


 兄上は機嫌良く笑って、運転席がある方向の壁を叩いている。


「ほんじゃ、理由を言うてくれんか。わしよりも魔王先生に説明する義務があるじゃろ」


 兄上は魔王の様子を見ている。


「ほうじゃったな。まず、儂の名は如月烈火。烈風の兄じゃ。今日は如月家の稼業を見てもらおうと思っとる」


「うちは、ただの町道場じゃろ。何を見せるもんがあるんじゃ?」


 そうは聞いたが、うちがただの道場でない事は、薄々気が付いていた。

 門下生が家族しかいないのに、何故か生計が立っているし、むしろ裕福な方だった。

 それに、道場でやっていた技の方向性が分からない。一般に知られている武道とは、明らかに向かう先が違う。


「如月流にはお役目があるんじゃ。今は儂が当主なんじゃから、誰に何を伝えるも自由じゃ」


「父上は健在じゃろ?」


「跡目は儂が貰うた。おやじ殿は家に居るが、今は儂が当主じゃ。まあ、そうゆうことよ」


 兄上は指を綺麗に折り畳んで、硬い拳を作って見せた。


「私が呼ばれた理由もあるのでしょうか? 話の流れ的に烈風先生の知り合いなら誰でもよかったようですが」


「魔王さんじゃったか? 変わった名じゃのう。まあ、用事という程のもんじゃないが、ちょっと証人がほしゅうてな。少し付きおうてや。礼になるか分からんが、面白いもんを見しちゃるわ」


 車が何処かの地下に入る。


 ―


 車ごと何かエレベーターのように乗り、更に地下へと移動した。

 車を降りると、ホテルのロビーのような場所に出た。


 車は一台分専用のガレージのような場所に納められ、わしらはフカフカの絨毯の上を案内されるまま歩いた。


 案内された個室は豪華な造りで、大きな一枚ガラスの巨大な窓から外が見えた。

 いや、見えた景色は外ではなく、スタジアムの中のような場所だった。


「兄上。ここは?」


「ここが儂のお役目を果たす場所。通称、太閤殿じゃ」


 場所と兄上の言葉から察するに、恐らくは闘技場に類する何かなのだろう。しかし、この国でそんな場所が許される筈が無い。地下にあるという事は、法の外にある場所に違い無い。


「兄上はまさかここで拳を振るっているのか?」


「別に儂だけじゃない。おやじ殿も、おじじ殿もそうじゃ。如月流は太閤殿の闘士をするのがお役目じゃ」


「そんな! それではまるで見せ物じゃあ! 如月の家は何故にそがな事をする?」


「見せ物か……。まあ、見ていったらええ。その為に儂は烈風をここに連れて来たんじゃ」


 兄上はそう言うと、部屋から出て行こうとした。


「まさか、兄上は今日闘うんか?」


「そうじゃな。闘いになるかは分からんがの。何か不便があったら、そこの武田に言うてくれ。それじゃ、後での」


 兄上が部屋を出て行った後、武田と呼ばれた男が入って来た。


「武田です。こちら飲み物です。いかがですか?」


 武田は多種多様な飲み物をトレイで運んで来ていた。


「兄上は、いつ闘うんじゃ?」


「何に直ぐに終わりますよ。一応次の試合ですが、烈火さんの相手する方は気の毒ですねぇ」


 武田は柔らかな笑顔を浮かべている。


「武田さん。ここは格闘技の会場のようですが、普通とは違いますよね? 普通の興行では無い。ここでの闘いは何の為に行うんですか?」


 魔王は冷静に質問をした。


「ここで起きる闘いは、言わば代理戦争ですね。遥か昔に、太閤殿下が始めた事から、この闘い、いや戦はこう呼ばれています。太閤戦とね」


 代理戦争と聞いて嫌な予感しかしない。まさか、漫画のような出来事が本当に実行されているなんて思いもしなかった。


 スタジアムの中心で歓声のような声がした。紹介される闘士の名前に、確かに如月烈火の名があった。


 登場口から現れ兄上は、短く刈った黒髪の下に獣ような眼をギラつかせ、道着を纏った下には鋼のような筋肉を蓄えていた。




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