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菅田の世界12

 次の狩りがあるまで空きのテントで待機している。


 ヒグチさんも、以前の狩りで知り合った人も、今は周りにいない。


 見知らぬ世界で1人になると不安になると思っていた。

 幾ら憧れの場所だからと言っても、慣れていないという事はストレスを感じるはずだ。


 しかし、今の僕は冷静に時を待っている。何故なのか?

 冷静にならなければならない問題を抱えているからだ。


 この世界で自由になるには、力が必要なのだ。他者を圧倒する力が無ければ、他者に支配される。


 つい先ほど狩人同士のいざこざで、その支配構造を見てきた。

 今、僕の立つ場所は人樹の理が支配している。人樹にとって利のある存在が権威を持ち、それに反する者は排除される。

 持たざる者の道理がどれだけ正しくても、権威を超える事は出来ない。僕が今までいた世界のように、弱者が救済される仕組みは無いのだ。

 いや、僕が居た世界でも、僕が知らないだけで、権威が絶対だったのかもしれない。


 こんな思考が巡って、僕の頭は冴えたままだった。自身の無力に押し潰されるよりも、なんとかなるかも知れないという気持ちの方が強かったからだ。


 今から出来る事を考える。僕が自分の世界で獲得した技術や知識は使えないものだろうか。

 学校で得た知識は、何の役にも立ちそうも無い。漫画のアシスタント技術はどうか。これも今は使い所が無い。


 何かないのか。


 今思えば、こちらに来る事だけを考えて、来た後どうするかなど何も考えてはいなかった。


 魔王先生から教えてもらった技術はどうだろうか。対象が何であるのか認識する方法は教えてもらった。

 しかも、とても非効率的で難解な認識方法だ。時間を掛けて、自分が自分である事を認識する事しか出来ない。


 今、時間がある。とにかく、やれる事はやるしか無い。

 僕は、魔王先生に教えられた通り、自分の要素を最小限まで分解してから認識する。これでや分かるのは、自分の大きさと重さくらいなものだ。


 自分の世界では、この認識術くらいしかヒントが無かったので、毎日我武者羅に繰り返していた。

 こちらに来てからは初めてだが、昨日から殆ど変わっていない情報が認識出来た。


 殆ど変わっていない?


 少しおかしい。昨日から狩りをして食事をしてトイレして、そして眠った。

 それぐらい行動していれば、自分の体にはかなりの変化がある。


 今さっき認識した自分は、あまりにも変化が無かった。

 こちらに来てから1日以上は経過しているはずなのに、体に変化がほぼ無い。これはどういう事なのか。


 あちらとこちらで、世界の仕組みが違うのだろうか。だが、そうであるならば、僕の体は何らかの変調があるだろうが、何も起きていない。


 これは、何か大きな見落としがある気がする。


 ――


 夜になると、何かの光源が入ったランタンのような物が街中で点灯していた。

 炎の光では無い。蛍の光のような、幻想的な輝きだ。


 テントを出て街を歩くが、あまり活気を感じ無いのは、煮炊きが出来ないからだろう。

 竈門窟で加工した食べ物や飲み物が流通しているが、料理という工程が無いと、匂いや人の動きが無いので、何処か静かになってしまう。


 昼間に騒ぎを起こした老人を発見した。ヒグチさんの渡した枝の輪は、この場所でかなりの権威を得る物だった。


 老人は、誰かと小さなボードゲームのような物を遊んでいる。

 勝敗で賭けをしているようで、老人は勝っているようだ。


 昼の様子では、老人はなんらかのイカサマをして勝っている。しかも、イカサマを見破られた場合は、枝の輪の権威によって、勝敗を無かった事に出来るのだ。


 僕がこの街に来たせいで、老人は権威を得た。この状況には責任を感じている。

 なんとか元の状態に戻せないものだろうか。


 老人に勝負を挑む者は、老人の権威を知らない者ばかりだ。知っている者は、傍観するのみだ。


「僕が挑戦してもいいですか? 初めてなので、やり方を教えてほしいです」


 僕は勝負を挑んだ。


「初めてかいな。ええじゃろ。教えてやるわ」


 老人は、一瞬警戒したようだったが、あっさりと勝負を承諾した。

 僕が枝の輪の事を知っていると思ったのだろう。だが、ここに来て1日の僕はカモれるとも思ったに違い無い。


「どうやるんです? 相手の手札を言い当てる遊びみたいですけど、細かい取り決めとかあるんですか?」


 僕は、ゆっくりと時間を掛けてルールを聞いた。老人は、細かくルールの説明をしてくれた。予想通りだ。


「一回やってみるのがええわ。どうじゃ?初めは賭けずにやってみるか?」


 ゲームは簡単で、6種のマークに1から10の数字が入ったトランプのようなカードから、3枚ずつ互いに引いて、互いにの手を探り合うようだった。

 残りカードを山札にして、相手の手を予測するのが基本で、山から引いたカードによって手を探るヒントが手に入る仕組みだ。


「やりましょう。どちらが先行になるんですか?」


「先行有利じゃから、今回はお主が先でええ。本番は、先に札の大小で決める」


 先行が僕で始まったゲームは、結構な長期戦になったが、僕が勝利する事になった。


「これ面白いですね。じゃあ、本番やりますか?」


「ほほっ! 若者は勢いがあってええの」


 老人は笑っているが、目の奥には鋭い光があった。


 まずは、少額の賭け金からスタートし、僕は三連勝した。

 老人は少し焦った様子で、賭け金のレートアップを提案してきた。僕は少し渋ったが、老人があと一回だけという取り決めで、最後の勝負をする事になった。


「じゃあ、これで最後ですからね」


 山札から互いにカードを引くと、老人が先行となった。

 これまで、カード運に恵まれていた僕は、一転して最悪の引きしかこない。

 一方で、老子の方は好カードばかりで、僅か三手で勝負がついてしまった。


「ひょほー! ばかつきじゃあ! さ、払ってもらおかね」


 老人の枯れた手が伸びて来た。しかも、レートを示す石が10倍から100倍にすり替わっている。

 レートの石は、ボード裏からにめ込んで、動かないようにゲーム中は互いに押さえるという取り決めがある。

 物理的にレート石がゲーム中に変わる事は無いが、それが目の前で起きた。


「石の表示が変わっています。これはイカサマですよ」


「何を言いうか、2人で押さえいたんじゃ。石が変わる訳がなかろう」


 僕は、多少乱暴な感じでボードを弾き飛ばした。


「イカサマには払いません」


「おお、こわ。大人しく払っておいた方がいいぞ」


 老人は、枝の輪を懐から取り出すと、分かりやすくこちらに見せてきた。


 こうなる事は分かっていた。だから、僕も時間をかけて罠を張ったのだ。

 僕が迫れば、老人は枝の輪を突き出すだろうと読んでいた。


 枝の輪は、老子の手から離れて空中に固定された。


「これは返してもらいますよ」


「なんじゃ! それは儂のじゃ! それにどうやって取った!」


 僕は、自分の周りに自分でも見えない粘着性の蜘蛛の巣をレイブレードで展開した。

 自分でも見えないので、蜘蛛の巣は無茶苦茶だが、僕が認識出来ないというのが重要だった。


 枝の輪は、普通に触る分には問題無い。老人がヒグチさんから受け取って、所持出来たのが証拠だ。


 ならば、意識が介在しない物であるなら、触れるのではと思い、今回の罠を張った。

 結果は大成功だが、僕が思い切った事が出来たのは、別に失敗してもいいと思ったからだ。


「こんな物は無い方がいいですね」


 僕は、宙に浮く枝の輪をレイブレードで焼き払った。

 枝の輪に敵意を向ける事、街の中で火を使う事を理解した上で、僕は行動した。

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