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菅田の世界4

 知らない人に会うと、いつも身構えてしまう。


 まずは僕の見た目に興味を持たれてしまう。何故そうなのか、どういった気持ちなのか、皆、納得のいく答えを求めてくる。

 どうせ誰も納得はいなかいだろう。何故ならば、僕自身が納得していないからだ。


 その答えには一番近いものは、僕のルーツが異世界にある事ぐらいだろうか。

 今、それを追いかけている最中なのだから、答えが出る訳がない。


 だから僕は、いつも偽りの答えをいくつも用意している。


「今日は魔王様のお客人がいらっしゃっておる。まずは飲み物のメニューをどうぞ」


 ボウシにメガネの小柄で丸いフォルムの中年男性が、サッとドリンクメニューを目の前に置いてくれた。

 この人が赤石さんだろう。


「どうも。あなたが赤石さんですか?」


「確かに拙僧は赤石です。魔王様から既に聞き及んでいましたかな。もし、今日のノリに付き合って頂けるなら、アカとお呼びくだされ。因みに、お客人はどのようにお呼びしたらよいですかな?」


「菅田です。菅田真といいます。よろしくお願いします」


「自己紹介の流れ? あたしはトーコ。四天王ネームはトウね。よろしく」


「アオだ。よろしく」


「シロですヨロシク!」


 どうやら、四天王ネームとやらは、色という事のようだ。


「魔王様は飲み物いつもでよいですかな?」


「アカさん。いつものでお願いします」


 魔王先生は、いつものノリという感じだ。


 魔王先生は輪の中心っぽい定位置らしき位置に座り、僕はそのとなりに座った。飲み物が運ばれて、魔王先生が乾杯の音頭をとる。


「無事に4巻も発売となり、こうして今年も四天王会に集まる事が出来ました。漫画を世に出せるのは、作者の喜びであり、それを楽しむ読者の喜びもあれば、最良です。今日はひとまずの、その喜びに乾杯!」


「「「「「かんぱーい」」」」」


 グラスを鳴らす音とともに四天王会が始まった。


「魔王様。今回の本は43ですか」


「お、アカさん正解です。去年は一つ見逃しましたんで、今回は見事リベンジですね」


「アカ兄は、いつも数えてばかりだな。もっと全体を楽しんだ方がいい」


「そんな事言って、アオ吉も委員長ちゃん数えているのであろう? まだまだ、無知子の方が登場コマ数は多いのですぞ? 真なるヒロインは無知子というのが、もはや定説なのでは?」


「いいんちょの方が登場面積が多い。アカ兄は結論を急ぎ過ぎじゃないか」


 恐らくは、魔王先生の漫画のディープなファン同士の会話なのだろうが、何を言っているのか、よくわからない。


「こら! 今日はゲストの菅田さんがいるんだよ。そういう話はネットでしなさい」


「いえいえ、お気になさらずに。僕はスパピン読んだの最近なので、深い話は出来ないですが、そういう話聞いてみたいです」


「ほお、菅田さんはスパピン初見勢ですか。初見の感情は、もう我々では感じられる事の出来ないものです。是非に、その辺りの話も聞きたいですね」


 全身アースカラーのトウさんと、ムキムキで白タンクトップのシロさんが気を使ってくれた。


「僕は普段そこまで漫画を読まないので、大した感想は無いんですが、スパピンは一回読んだ後、また直ぐ読み返したくなりました。何か全部は語られないけど、探せば答えがありそうな気がして、また読むという感じです」


「そうそう、確かにそんな事初めは思ったよ。スパピンは一応日常漫画だから、続きはそこまで気にならないけど、凄く後引くよね。あと、菅田さんて呼ぶの堅苦しいから、マコっちゃんて呼んでいい?」


「いいですよ」


「じゃ、マコっちゃん。マコっちゃんは漫画のプロだよね。プロとしてスパピンをどう思った?」


「凄く綿密に計算された漫画だと思うのですが、これは編集からNG出た箇所があると、凄く大変なんじゃないかと思いますね。少しのピースが崩れても成立しないので、場合によっては時間をかけたネームも全没になると思うと、商業漫画としては、効率的ではないと思います」


 アカさんがニヤッと笑う。


「言われてますぞ、魔王様」


「いやー、菅田氏。それは四天王の皆んなにも散々言われているんだよね」


 魔王先生は何やら嬉しそうだ。


「非効率な漫画。だがそれがいい。俺達が到達した答えはそんなもんだ。そんな漫画が読みたくて、俺達はスパピンを追ってるんだ」


「我々は業界は違えど、クリエイティブな仕事をしているという共通点はあるからね。効率と非効率のバランスには日々悩まされているよ。魔王様のように、非効率に振り切った仕事を見ると、勇気が湧くよね」


 この人達は、心底スーパーピンクという漫画に惚れ込んでいるのだ。


「そういえば、マコト殿の描かれるメカも見事ですな。拙僧、仕事で造形に触れる事が多いので、BCでのメカデザには感服しております」


「あれは、でも元デザは烈風先生なので、僕はそこまで造形してません。ただ、メカをかっこよく描く事については任せてもらっているので、かっこ良く見えているなら嬉しいです」


「これは、貴重なメイキングの話が聞けて、拙僧感激にございます。貴重過ぎる話なので、拙僧の心の内にのみ留める事にいたしまする」


 この人達は、凄く大人なのだ。僕がうっかり言ってしまった仕事の中身に関わる事を、注意するのでは無く、サラッとその危険性を教えてくれたりする。


 なんだか納得いかない。人は人を外見で判断し、している仕事や、属しているコミュニティで判断するまのではないのか。

 ここにいる人達は、それを隠すのが上手いだけではないのだろうか。


「皆さんは、僕の事をロボロボだと知っているんですよね」


「存じ上げております。機甲騎士ウィンダムの造詣に非常にお詳しいとか。拙僧もウィンダムについては少し覚えがありますので、是非お話しできればと思いますな」


「確か、ウィンダムのイントロクイズをやっていて、あまりにも正解が早すぎるので、仕方なくアカペラの歌い出しで当てるクイズに変更したら、歌い手の最初のブレスで曲を当てたとか。音響関係の仕事をしている俺でも、そんな芸当は不可能だから、もはやあれはウィンダムに向けた愛の勝利だよな」


 一瞬だが、世に出てしまった動画の内容を、ここにいる人達は把握している。


「では、あの動画が、どんな風に流行ったかもご存知なんですよね」


 動画は内容も引きになったが、一番話題になったのは僕の見た目だ。


「それも存じ上げております。マコト殿の容姿について語られる事が多かったですな。ただ、拙僧の話をするならば、容姿だけを語る事に意味などないと思いますがな。拙僧は見ての通りオタクです。この年なので、オタクというだけで無下にされる時代を長く過ごしました。だが、拙僧はオタクを辞めなかった。容姿で判断されるような事よりも、大切な物があったからにございます。ただ好きな物に没頭し、仕事まで得て仲間も出来た。そうして今は趣味全開の集いにおる。世にリア充なる言葉があるが、リアルが充実しているかは、拙僧が決める事。故に拙僧はオタクで独り身なれど、リア充ですぞ。周りに判断される事の多い世の中ですが、自分の事は自分で決めて良いのです。そして、余裕があるなら周りの事も見てあげれば、なお良しですぞ」


 僕の作った空気をアカさんの長い語りが打ち破る。


「アカさんは本当にぶれないね。私もブレない漫画を描き続けようと思っているから、今は菅田氏にメカの描き方を教えてもらっているんだよね」


「おや、それは楽しみですな。マコト殿のメカは本物。魔王様の足りぬところには、大いに刺さりますな」


 四天王会の空気は一瞬にして元に戻り、僕は恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。


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