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魔王の漫画18

 比較的緩めの日々が戻って来た。


 単行本の仕事も終わり、後は発売を待つだけだ。


 原稿を仕上げながら、合間に今年の冬の2次創作について思いを馳せる。


 烈風先生にバレてしまった手前、BC本をこれ以上出す訳にはいかないので、今年は何か新しい事に挑戦したい。


 菅田氏が来る頻度が、若干減った気がするが、今も週に一度は来る。


 あちらに行くには、あちらの認識力を獲得する必要があると考えているようで、色々な方面の質問が来る。


 こちらからあちらが認識されない理由は、その認識を変える事が困難だからだ。

 これは、私にとっては呼吸のように当たり前の事だが、あちらとこちらでは人と魚くらい呼吸に差があると言っていい。

 どちらも酸素を吸収する手段だが、媒介となる物が違い過ぎるのだ。


「そう言えば魔王先生って、いつエッチな事してるんですか?」


 菅田氏のとんでも無い質問に、飲んでいたコーラを吹き出した。


「ぶふぉ!! す、菅田氏! 急に何と言う質問をぶち込むんだ」


「いや、BCの2次エロをやるという事は、普段からエロい事を考えている訳じゃないですか? そうなると、あっちの人も普通に、こっちのエロに反応するのか考え出したら、魔王先生はいつ、誰としているのかなと思いまして」


 いきなり切り込んだ質問をする事は菅田氏あるあるだが、今日のは過去一の豪速球だ。


「その、プライベートな事は言いたく無いんだが、こっちのエロい物はあっちでもエロいよ」


「先生のエロ同人は、あっちでも通用するという事ですか?」


「それはちょっと微妙だね。あっちには漫画文化が無いし、エロさを絵や文章で伝える事が無いから、こちらと同じにはいかないだろうね。エロい事を表現しようとしている事くらいしか伝わらないんじゃないかな」


 胡座をかいていた菅田氏が内股気味の体育座りに座り直した。


「僕、漫画のエロさは割と分からない方なんですよ。漫画にそこまでエロさを求めていないというか、もう既に仕事として漫画に関わっているので、そういう本能優先の軸に無いって感じですね」


「そうなってくると、菅田氏にとってエロ漫画、つまり使える漫画って、どんな立ち位置なの?」


「それこそよくわかんないです。そういう漫画見たのも、魔王先生のBC本を烈風先生の後ろからチラ見したのが初めてくらいです」


 逆に菅田氏の普段のエロ発散方法がどうなっているのか、気になる発言ではあるが、私のBC本の原動力は明らかだ。


「まあ、一旦エロ漫画の事は置いとくとして、私がBC本を描いたのは、100%好奇心からだよ」


「と言うと?」


「好きが高じてといった感じなんだけど、好きな物って何でも知りたいじゃない。漫画が好きな私は、漫画の世界をどんどん妄想する。登場人物の好みから、何か何まで考える。すると、ふと思う訳ですよ。この魅力的な人達も、必ずエロい事をしているのだと」


「それは漫画に描かれていないので、存在しない事なのでは?」


「確かに神たる作者が描いていない事は存在していないに等しい。しかし、これ程リアルに描かれた人々がエロい事をしないだろうか? 恋愛したりするんだから、当然するだろうと考えるのは、間違いではない。ならば、勉強熱心なあの人も、スポーツに全てを捧げたストイックなあの人も、神掛かった戦略を立てるあの人も、夜な夜な肉欲を発散しているのだとしたら! 私はいてもたってもいられなくなる訳なのだよ!」


「そんな事考えて、漫画読んだ事無いです」


「まあ、これは私の考え方なので、世間の全てに通用する訳では無いが、エロい物程、妄想をかき立てると、人類の先輩方は言っているように思えるがね」


 ふと視線を菅田氏に戻すと、姿勢が前屈みになっており、オーバーサイズのTシャツの隙間から薄い胸板がチラっと覗いていた。


「魔王先生。今、僕の事を一瞬エロい目で見たでしょ?」


「え? いや、そんな事は無いよ……。多分」


「隠さなくていいんですよ。僕はそんな目でみられ慣れているんで、そういった視線は分かるんです。僕がエロ漫画を理解出来ないのは、僕が女の子っぽく見られて来た経験のせいもあるんでしょう。ちょっとうんざりしているからかもしれません」


 菅田氏は体育座りの膝に頭を付けて、下を向いてしまった。


「菅田氏、ごめんね。何も考えずに、色々と変な事言っちゃって」


「じゃあ、あっちの世界に連れて行ってくれますか?」


「いや、それは出来ない」


 菅田氏が一瞬の沈黙のときを経て、ニッと笑って頭を上げる。


「これも駄目かあ。勝算はちょっとあったのになあ」


「最近多すぎるでしょ」


 私と菅田氏の関係性は、実は少し変わったのだ。


 私は菅田氏から、漫画の絵について教えを受けているのだ。理由は簡単で、烈風先生の漫画力に触発されて、更なる漫画力の向上を望んだからだ。

 私は菅田氏に対価として、あちらの情報や、菅田氏が魔法と呼ぶ物の手解きをしている。


 互いに、求める物への真剣さが伝わり、利害も一致したので、交換する事にしたのだ。


「じゃあ、新しい魔法教えて下さいよ」


「いや、それは魔法じゃないから。魔法はもっと何か人知を超えた存在から力借りてこそでしょうが。私がやっているのは詐欺や話術、頑張っても催眠術程度の代物だからね」


「いいんです。僕にとっては魔法なんですから」


「それなら、SFチックな大型メカや建造物の描き方の説明、テキトー過ぎない?」


「だってそんなのは簡単だからですよ。SF物の基本は、どんな角度から見てもカッコ良くなるデザインにする事です。メカなら足裏だってカッコ良くなるデザインにすればいいんですから、悩む事ないでしょ」


 菅田氏の教えは、天才タイプのそれであった。


 以前も、天才から漫画を教えてもらったが、結局言葉で聞いた事は何も分からなかった。


 漫画は、結局自分で描く以外に、上達の道は無いのだ。


「魔王先生は、メカを愛していないから描け無いんですよ。愛があれば、その姿は既に紙の上に現れているんですよ」


 これは、別の天才にも似たような事を言われた。


 ―自分の漫画まず愛せ、描くのはそれからだ―




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