26. イースタンの亡霊(2/)
2日後、ギルド長の部屋に押し掛けるように入ってきたのは3人の男女だった。盾持ち、剣士、弓使いというありふれた冒険者パーティだ。
階級は全員が銀級。それもつい最近昇級したばかりの若い3人組だ。
「俺達に依頼を受けさせてください!」
「頼む!」
「お願いしますっ!」
彼等は例の調査依頼を受けたいと申し出て、そろそろ日が頭上を通り過ぎようとしている。本気で依頼を受けるまで出ていかない気概のようで、さしものデインデールといえど銀級3人を引きずり出す事はできなかった。
仕方無くデインデールは3人とアヴィアの間に立ち、ひたすら睨み付ける作業に徹していた。
「だからダメだ!この依頼は非常に危険なのだ!お前達のような経験の浅い者に行かせるわけにはいかん!」
「でも、俺達は冒険者で……」
「冒険者ギルドは冒険者を使い捨てる組織ではないのだ!其々の冒険者に適した依頼を振り分け、相互に利益を生む場所だ!お前達が今やろうとしていることは、冒険者ギルドの在り方への反逆であり、アヴィアギルド長への反逆であると知れ!」
ぐ、と威勢を張った剣士の青年はデインデールの声に尻込みするも、負けじと拳を握り締め言葉を返した。
「だったら……だったらこのギルドを辞める!それなら文句はないだろ!」
「な……バカなことを言うな!」
リーダーの言葉に、盾持ちの青年と弓使いの少女も賛同する。
「リュリの言うとおりだ!俺達は冒険がしてぇんだ!」
「私達もただ銀級に上がった訳じゃありません、ちゃんと経験を積んできたんです!私達が成果を挙げて、ぎゃふんと言わせて見せます!」
――――アヴィアは事務作業を行う手を止める。そして、3人の若き冒険者を初めてその目で捉えた。
「お前達がやろうとしていることは、自らの命を投げ出す行為だ。それは分かっているな?」
ただ見つめられた。それだけでリュリ筆頭の冒険者3人は猛獣に牙を向けられた錯覚に陥る。が、普通の人間なら失神しかねないプレッシャーをはね除けてリュリは言った。
「俺は命を無駄にはしない!依頼は受けるし冒険もする!最後には家に帰ってかーちゃん達に強くなった姿を見せて安心させてやるんだ!」
「ああ、俺達は金に目の眩んだ奴等とは違う!冒険者の誇りと矜持ってもんがある!」
「あたしはお金も欲しいけど……でも、死にたい訳じゃないです!」
ちょっとずれている気もするが、3人の声に偽りはないようだった。情勢が落ち着いてから増えてきた小遣い稼ぎの冒険者達とは違う。
昔の自分を思い出す。あの頃、何を考えて森の奥へと進んだのだったか。
「…………ならば、条件がある」
「ギルド長!?」
ダメだと言わなかった。それだけで期待の眼差しがアヴィアに向けられる。
「金級冒険者を1人以上仲間とせよ。そしてその者をリーダーとし、指示には必ず従うこと。これらを守れなければ、即刻ギルドを追放し二度と戻ることは許さん」
銀級3人の面倒を見ようとする冒険者などいるだろうか。そんな事、今の3人にはどうでもよいことだ。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
頭を下げるが早いか部屋を飛び出した3人。デインデールはそのあとを呆れた様子で見送り、そのまま視線をアヴィアへと移した。
「良かったのですか」
「今のホルダットに、そんなお人好しな金級がいるものか」
アヴィアは初めから彼等に協力してくれるような金級冒険者などいないと踏んでいた。だから無理な条件を出して諦めさせようという、そういう魂胆だったのだ。
「ですが……」
「お前の言いたいことは分かる。彼等のことだろう」
二人の頭に浮かぶのは1年前にふらりと現れた不思議な3人組。出自や身の上話を殆どしたがらないうえに、若さに見合わないとんでもない強さを誇る謎多きパーティ。1人は見たこともない魔法を使い、1人は達人とも言える剣技を操り、1人は――――まあ、うん。
自分達を"亡霊"などと呼ぶ風変わりなその一味は報酬問わずあらゆる依頼を受け、わずか1年で金級まで登り詰めた。
彼等ならあるいは……と考えていると、あることに思い当たる。
「デインデール、確か"亡霊"は大森林の鉄の魔物の討伐を受注していたな」
「ええ、確か――――」
そこで、デインデールの言葉が詰まる。
「帰還報告はあったか?」
「いえ、まだだったはずです」
「…………そうか」
金級の依頼は原則パーティに状況判断を任せるため、依頼の想定日数から外れて長い間帰らないことはよくあることだ。それだけ金級依頼は見通しの効かない困難なものが多いとも言える。
だが今回彼等が受けていたのは大森林の魔物討伐。しかも怪光事件と期間がぴたりと一致していた。
「彼等が……何かあったのでしょうか」
「わからぬ……だが注意するに越したことはないだろう。デインデール、彼等が戻り次第直ぐに伝えよ。森で何が起こったか知っているやもしれぬからな」
「はっ、承知いたしました!」
デインデールはそう言うと階下へ下っていく。足音が遠退いた頃、ようやくアヴィアはペンを置いた。
「なにやら起きる――――そう思えてならんな」
竜災害の前に感じるような重い違和感。アヴィアは物言わぬ魔物の息がかかったような空気に、未来を案じていた。




