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アーガスの聖典  作者: らすく
第二章 建国暦159年
26/30

25. イースタンの亡霊(1/)

 

「――――というわけで、1週間前に大森林の奥で確認された謎の光の調査が今回の依頼なんだってよ」


 ホルダットの冒険者ギルドはその日いつに無い盛り上りを見せていた。

 それもそのはず、此度はシュテヴィン国王直々の依頼。報酬金は事態の予測ができないため非常に高額で、1パーティで山分けしても半年は遊んで暮らせる金額だ。

 要するに金は出すが命の保証はしない、ということなのだろう。

 なお数日後に軍が調査に派遣されるようだが、国としてはその際の被害をなるべく減らしたいが為に予め冒険者に探索させる狙いだ。尤も冒険者もそんなことは分かっていて、それでも行かんとする命知らずがこうして集まっている。


「噂じゃ始祖種が暴れてるだとか言われてるが、今までそんなことはなかったんだろ?どうせ中級の魔物の炎魔法かなにかを見ただけじゃないか?」

「だが街の守衛の何人かが、防壁の上からその光を見たとも証言してるらしいぜ。ここから森までかなり距離があるし、普通の光とは思えんがなぁ」

「この間死んだパーティ、その光を見た連中だってよ」

「何だっていいだろ。ただ森に入って見てくるだけで報償金4000ダリンたぁ王族も太っ腹だぜ」


 謎の光について最初に報告したのはホルダットの守衛の一人だった。はじめは見間違いだと一蹴されたものの、3日後に森から帰って来たとある冒険者パーティも同じような光を見たと言い、なんとホルダット周辺の村の人々からも大森林の怪光の報告が相次いだ。

 それら知らせを受けたホルダットの冒険者ギルド長が国王へ進言し今に至る。恐らく現在最も近くにいたと思われるその冒険者パーティは報告からわずか1日後に全員急死しており、これも国王がすぐに軍を派遣しなかった理由の一つになっていた。


「静まれぇ!ギルド長のアヴィアさんからお話がある!」


 と、2階からがちゃがちゃと鎧を擦らせ降りてきた屈強な男が声をあげ、ざわめきだっていたギルドホールはしんと静かになる。

 彼はデインデール。ホルダット冒険者ギルドの副長だ。

 そしてその後ろから姿を表した赤毛の男こそ、ホルダットが誇る冒険者ギルド長にして"竜狩り"の異名を持つ者。


「ギルド長のアヴィアだ。国王より承った調査依頼についてお前達に話がある」


 アヴィアの声は淡々としているが滲み出る強者の威圧感がその場の冒険者達を押し潰す。訳もなく冷や汗を流し、なかには足を震えさせる者もいた。

 ギルド長アヴィアは依頼の張り出された掲示板の前に立ち、その場にいる冒険者達を一瞥する。


「此度、国王より直々に大森林の依頼を賜り、そして皆がそれに臨まんとしている事だろう」


 だがしかし、とアヴィアは語気を強めた。


「この依頼、銀級以下の冒険者が受けることを禁ずる」


 銀級冒険者はホルダットの冒険者の8割に上る。これは実質依頼を受けることを禁止しているようなものだった。


「な、なんだって!?」

「ふざけんな!大森林の依頼は銅級以上で受けられるって決まりだろ!」


 当然不満をぶつける冒険者達。

 それもそうだ、一攫千金の話を棒に振れと言われたのだから。


「――――――黙れェ!」


 しかしそれを一喝。アヴィアの覇気にはこの場の冒険者では敵わない。


「当然理由あっての事、まずは儂の話を聞け。――――報告にある森の光は、ホルダットに伝わるとある伝承に似通っているのだ」




 ホルダットがホルダットとしてある以前、まだシュテヴィンという国すらない遥か昔。大森林は今よりずっと広く、この大地すべてを覆っていた。神々はまだ地上に暮らし、森を守るため4つの属性を司る4本の楔を地に打ち付け、それを守る巨人を生み出した。

 ある時、神を裏切った巨人は4本の楔のうち3本を抜き取った。楔を失った森はみるみる枯れはてて平原となり、楔は山々となった。

 最後の楔を抜き取らんとした巨人が楔へ手を掛けると、楔は森の半分を失う代わりに巨人へ裁きを下し、神の光と共にそれを滅した。そして永い時の後、今の大森林と、森を守る水の神が残っている。




「儂はその光が、伝承にある光に思えてならんのだ」

「んな……昔話が本当だったってのかよ!」

「儂はかつて一度、その水の神――――始祖種の力を目の当たりにしたことがある」


 アヴィアが竜狩りとして名を挙げる前、若気の至りだろう、パーティの仲間の制止も聞かず大森林の奥へ入ったことがあった。そこで見たのは漆黒の巨大な竜と、その竜を眩い光と共に一瞬で消し飛ばした巨大な蒼い水晶。

 後に始祖種と呼ばれるようになるそれを初めて発見したのは、何を隠そうアヴィアであった。


「始祖種は森に害なす敵を光によって屠る。儂の見たのは大森林の奥の奥であったから、当時のホルダットからは見られなかったのだろう」

「じ、じゃあ今回のは……」

「恐らく、その時より近くで何かがあったのだ」


 竜を一撃で消し飛ばす魔法など少なくとも人間の世界には無い。そんなものを撃ってくる奴が大森林の浅いところに来ているかもしれない。


「よって、この依頼は"竜災害"と同程度として扱うこととする。この依頼に臨む冒険者は金級以上かつ5人以上のパーティに限り、親族への出立報告を義務付ける。また、達成報告であろうと失敗報告であろうと出発から10日以内に行うこと。帰還しなかった場合直ちに救出依頼を通達、金級以上または金級含む銀級パーティによる捜索を行う。以上だ!」


 アヴィアが立ち去ったホールは今までの活気が嘘のように沈んだ空気が流れ、いつしか一人、また一人とその場を離れていった。

 最後に残った金級冒険者パーティのリーダーは肩をすくめ、「死ぬには早いな」とその隣にあった護衛依頼を受けたという。

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