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SWEETS STREET  作者: しおりん
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はじまり

わたしの名前はフェルダ・ユーナ。

この度、新たな生命をいただき、無事転生することができた。

それも、前世の記憶をもったまま。



前世は、28年と1か月ちょっとの時間をほぼ、お菓子作りに費やしてきた。


夢は自分の店を持つこと。その夢は不完全燃焼のまま、わたしは不慮の交通事故で命を落としてしまった。


今度こそは、絶対叶えてやる!!




********************************************************




「ユーナ様!!またキッチンに勝手に入って!!」


ユーナになり15年目。由緒ある、フェルダ公爵家の長女として生を受けたわたしは、料理なんてするはずもなく、キッチンに足を踏み入れることすら許されていなかった。


「サム、ちょっとだけ、、いいでしょう??」


執事のサムは、今日もピシッと制服を着こなし、髪を束ねている。

こんなに執事が似合う人をほかに知らない。


私の腕を引っ張り、

「ダメです!!」

と、いつもの一言。


言葉がまともに話せるようになった頃から、このやりとりは続いている。

この時代、裕福な家系のほとんどが、家事や料理は使用人が行う、という考え方だ。


「頑固執事め」


「聞こえていますよ。ダンスの先生がお待ちです。

 本日は、この授業でおしまいですから。」


なだめるように私の頭を撫でるサム。

ちぇ。まさか生まれ変わったら、キッチンに入るどころか、自由な日常すらないなんて。


フェルダ家では、3歳からいわゆる英才教育が始まる。

ダンスに、勉強に、礼儀マナー、美容のことまで、盛りだくさん。前世の記憶がある分、秀才であると勘違いされ、ハイレベルな教育を叩き込まれているもんだから、途中からついていくことがやっとで、夜も勉強に眠れない日々だ。


しかも、フェルダ家は王家の次に力を持っているといわれている。

そんな立派な家系に生まれてしまったもんだから、、、


「ユーナ様。グレン王子がお見えになりました。

 お疲れかと思いますが、着替えてお出迎えを。」


グレン王子は1歳上のこの国の第3王子、なんとわたしの婚約者らしい。

すごい時代と家系に転生してしてしまったものだ。


「先週もお見えになったばかりじゃない。暇なのかな。」


「ユーナ様、せめて心に秘めてください。」


サムのため息が聞こえた。


*********


「今日の土産は、クッキーだ。ありがたく受け取れ。」


黒髪に、深いブルーの瞳。王家の金色の耳飾りがよく映える。白い肌に、スラっとしたスタイルの良さ。

王子はイケメンで俺様っていうよくある話ですよ。


「ありがとうございます。グレン王子」


だが、こんな俺様な王子の相手をする時間があるなら、お菓子作りがしたい!!

叫びたい気持ちをグッとこらえる。


「お茶を準備いたしますね。」


サムがわたしを見てにっこり。

はいはい、心に秘めますよ。


****


「お待たせいたしました。」


サムがミルクティーとクッキーを準備してくれた。

サムの入れるミルクティーはまろやかで、甘くてとてもおいしい。


「今日は王室御用達のクッキーだ。

 お前は食べたことないだろう。」


「ありがとうございます。いただきます。」


憎たらしい言い方にももう慣れた。

グレン王子がどんなに俺様でも、クッキーに罪はないのでありがたくいただく。


見た目もかわいらしいドライフルーツとジャムのクッキーだ。一口かじるとサクッといい音。


「今日はどうだ。文句なしの味だろう。」


「微妙です。」


後ろでサムのため息が聞こえた。


「なぜだ!!お前はいつも文句ばかり言う、、

 今度は何が気に入らないんだ。」


実は初めてグレン王子にケーキのお土産をいただいたとき、

わたしはつい、言ってしまった。


「なにこれ、おいしくない。」


人として最低だったと思うが、前世のプライドが嘘をつけなかった。

こんな俺様王子に気を遣えなかったというのもあるかもしれないけど。


それからというもの、グレン王子は暇を見つけては、

お土産をもって私の家にやってくる。


「そうですね、、、まず、クッキー自体が甘すぎます。

 このベリーのジャムとの甘さの比率を考えてみてはどうかと。

 あと、フルーツを引き立たせるためにも、少ししっとりと焼き上げてみてはいかがですか。」


「お前、菓子のことになると、遠慮がなさすぎる!!」


「申し訳ありません。これだけは譲れません。」


グレン王子には申し訳ないが、この世界のお菓子で満足できたことは、まだない。

あーあ、自分で作ることができたらなぁ。


「いつになったら、お前は喜んでくれるんだ・・・」


「え?何ておっしゃいました?」


「なんでもない!!次こそおいしいと言わせる!」


こうして本日も、グレン王子の挑戦は幕を閉じた。


ところが、このいつもの挑戦が、わたしの人生を大きく変えることになるなんて、

この時は考えもしなかった。


********


「ユーナ様。グレン王子がお見えです。」


「はいはい。」


勉強をやめて、グレン王子の待つ客室へ。


「失礼いたします。本日もようこそお越しくださいま・・・」


見たことない、小太りのおじさんがいた。

あれ、グレン王子老けたなあってそんなわけないか。


「初めまして、フェルダ・ユーナ様。

 私、王都でメルシャンという洋菓子店を営業しています。、

 マリオと申します。」


「はあ、初めまして。フェルダ・ユーナと申します。

グレン王子は、どちらに?」


「グレン王子は、本日ご予定があるということで、先ほど席を外されました。

 私が、フェルダ様にお礼を申し上げたいとお願いしたところ、ご案内してくださったのです。

 お忙しいとは思いますが、少しだけお時間をいただけないでしょうか。」


あの俺様はどこまで自由人なんだ。


「ところで、わたしは何もしていませんが・・・」


「先日、グレン王子がメルシャンのフルーツクッキーをお土産にお渡しされたと思います。

 そのクッキーについてフェルダ様のご助言をもとに、リニューアルいたしまして・・・」


あの微妙なクッキーか!!


「売れました。」


「はい?」


「売れました。フェルダ様のおかげです!!

 おいしいと王都で評判になりました。ありがとうございます!!」


売れたらしい。それはよかった。


「ずうずうしいことは百も承知でお願いがあります。

 これからうちのメルシャンのレシピの監督をしていただけないでしょうか!」


マリオさんがひざと両手を床につけて頭を下げた。

土下座ってこの時代にもあったんだ、、、ってそうじゃなくて


「頭をあげてください。」


マリオさんが恐る恐る私の顔を伺う。


「やります!!やらせてください!」


はじめて、グレン王子の婚約者でよかった!と思えた。



 
















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